第32話

「──モヤシ男に連絡なんてしなくていい。どうせこの先顔を合わせることも無い。忘れればいい。貰ったモノは"落とし物"だって、管理部に届けろ。そうすればいつか何処かに寄付される」





いいのかな?何も言わずにお別れして─…





「いいんだよ、お前のこの先の人生にあのモヤシ男は必要?要らねぇよな?ん?」




『──…要らない、デス』




「だよなぁ?じゃあ、もうモヤシ男のことは記憶から削除して、お前はお前の任された仕事だけやってればいい」





──…任された、仕事。





その言葉に視線を落とす。散らばった書類を集めてため息をつく。進藤さんが居てくれたら、この仕事はしなくて済んだのに─…





そう思った瞬間、手の中にあった書類が消えた






「──…だから、心の中で名前呼ぶのも禁止だって…言ったよな?芹、お前は俺のモンだから勝手に他の奴と連絡取るなんてことは有り得ねぇ行為なんだよ。今後、二度と同じことのないように…気をつけてよ、一ノ瀬さん?」






最後─…ニィっと口角を上げて笑みをつくり、私の大好きな例のカッコよすぎるお顔を見せてくれた海吏くんは、その美しい顔面を近づけ触れるようなキスを一瞬落とし、すぐに離れた。






「続きは帰ってからゆっくり─…シような?」





私が行くはずだった5階に到着して開いたエレベーター…降りたのは海吏くんで、その手には私が届けるハズだった発注書が握られている






海吏は私の勤め先の階である9階のボタンを押して、こちらに笑顔を向ける





「一ノ瀬さん、ご苦労さま─…製造部に用があるので、これは僕から渡しておきます。では通常業務に戻ってください。」





仕事モードの敏腕専務に戻った海吏サマは、淡々と私にそう告げると背を向けて去っていってしまった。







私が製造部に行くの嫌だって…分かったのかな?だから代わりに─…って、そんな訳ないよね。元々5階で降りる予定だったんだろうな。







おかげで恐ろしい主任に会わなくて済んだよ、ラッキーっ!!あとは帰りに管理部に進藤さんにもらった贈り物を届ければ、私はこのストレスから解放される!!





─…もう早く仕事終わらないかな?って、私って本当にどうしようもないゴミ社員だな。





なんで働いてたんだっけ…っあ、そうだ。海吏に女性の影が無いかどうか…見張るためだった

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