第28話

昼休憩が終わって、ランチバッグと共にスマホをロッカーに預けてあるカバンの中に戻す





勤務中…スマホを触るのはうちの部署では禁止されている。






それを守っていない人は多くいるけど、仕事が人よりできない分、そういう決まり事は律儀に守っていた





─…だから、気付かなかった。






海吏サマからの鬼のような着信に、気付くことが出来なかったんだ。







「─…一ノ瀬さん、この書類…第四製造部に持って行ってもらってもいい?」






製造部…我々が働いている平和な事務所と違い現場作業で働くチームの部署だ。特に第四製造部の主任は体育会系のゴツめの男性で、一度会った時からその人の事が苦手で…いつも私の代わりに進藤さんが届けに行ってくれていた。







うわぁ、進藤さん…戻ってきてくださーい。







「……一ノ瀬さん?お願いします」




『ハイ、喜んで。』





ファイリングされた発注書を持って、事務所を出る。嫌だなー…会いたくないなー…渡したら直ぐに帰ろう。秒で戻ろう。






ドキドキと、変な緊張感を抱えたままエレベーターを待っていると…タイミングよく扉が開いた。






『………っあ、お疲れ様…デス』






中に乗っていたのは、大好きな旦那サマとその秘書の男性。えっと…名前なんだったかな?相沢…?いや、相川?んー…違うなぁ…鮎川っ、






「─…乗らないんですか?一ノ瀬さん?」





エレベーターの中にいる専務…海吏サマに声を掛けられ、ドクンッと心臓が高鳴る





『っあ…大丈夫です。次ので降りるので…お先にどうぞ…止めてしまって申し訳ありません』






社長や専務が乗っている場合、エレベーターを譲る。なんて、誰が決めたのか…一緒に乗ってはいけないという暗黙のルールがこの会社には存在する







頭を下げて、そっと後ろに下がった私に対して…目の前の専務サマは小さく舌打ちをする

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