第16話 王都への道
「これからよろしくお願いします♪姫様!♪」
「ええ、もちろんよマリシア、あなたの力頼りにしているわ」
セイレーンとなったマリシアは満ち足りた表情で私にくっついてきた、とても可愛らしい、私はつい彼女の頭を撫でていた。
「あー!マリシアさんずるい!フィーナにもお願いしますっ!」
「えぇもちろんよ、こっちにおいでフィーナ」
「えへへぇ〜、姫様〜大好きですっ!」
「……」
ネイアが何やら寂しそうな視線をこちらに向けて投げている、なんだか羨ましそうだった
「えっと…ネフィアも来てもいいのよ?」
「い、いえ…私はその…」
「ふふ、じゃあまた私の部屋に戻ったら少し相手してあげようかしら?」
「あ…ありがとう…ございます…」
「ふふ、照れちゃって可愛いわね」
「て、照れてませんから!姫様!」
「いやぁなんだかいいもん見せて貰ったな?」
「お、したらアガセ、俺がお前の頭撫でてやろうか?今なら飛んで撫でられるからやりやすいぜ」
「…遠慮しとく」
「ま、そーだよなぁ」
幸せな時間だ、大好きな私のキャラ達、魔族の姿になったみんなはなんだか私の好みを反映したような見た目をしていてより愛おしかった
「2人もこれから頑張って貰うんだもの、ふふ…少しチクチクするわね」
「ひっ姫様っ!さ、さすがに恥ずかしっ」
「あ、ありがとう姫さん…頑張っていいとこ見せないとな」
そんなこんなで新たな仲間たちを迎え入れた私たちはアガセの持っていた地図を使い今後の方針を決めることにした
「俺達がいるのはここのグレイラ村、んでこれからこの山道を通って王都に行くことになるな」
「俺は飛んでいけるけどさっきまでニンゲンだったし飛んじゃまずいよな…めんどくせぇ…」
「あーわかる〜、私も水魔法使って泳ぐ道を作ればどこでも泳げるから飛んでいこうかと思ったのに…」
そんなことを各々喋っていた、マリシアは早くもセイレーンの体を使いこなしており水魔法を駆使して浮かぶ水場を作り空中遊泳していた、器用なものだ
「ええ、王都に着いたら拠点をとりあえず確保してその後はあなた達には勇者の動向を把握してその道を妨害してもらうことになるわ、詳細についてなんだけど…」
「…勇者一行を殺してちょうだい」
「お、早速倒しちまうのか、ふふふ…やべぇ楽しみになってきたぜ」
「今なら全く負ける気しないもんな、どうやって遊んでやろうかねぇ」
「あぁ…勇者達に私の歌を聴かせてあげたいな…彼らが私の歌で狂う姿…早くみたいな♪」
彼らは既に準備万端のようだった、勇者を殺すといっても勇者一行は女神の加護によって死んでも最後のセーブポイントで蘇るのだ…この世界におけるセーブポイントがどこに当たるのかは分からないものの永遠にさよならすることは無い、ゲームの通りならデスペナルティもあるはずだ、これ以上ない妨害手段となるだろう。
ここにいる魔族達は皆既に四魔相に匹敵する化け物クラスの力を有している、序盤か中盤の勇者達に負けることは無い
「勇者たちは女神の加護で護られてるから死ぬことは無い、それを利用するの」
「殺せればよかったのですけれどね、とはいえ実は魔王様からも兄様からも勇者の連絡は来ていません…何をしているのやら…」
「確かに、不気味なほど静かね…なにか裏があるのか…とにかく勇者の動向は一刻も早く掴まないとね」
「姫様!私も勇者たちで遊んで来てもいいですかっ!私もアルラウネとしての力で遊んでみたいです!」
「ふふ、確かにみんなの力を把握もして起きたいし状況に応じて相手をする人は選んで見てもいいかもしれないわね」
海とか水辺ならマリシア、空ならルーノ、陸をアガセ、森でフィーナ、その他をネフィアに任せれば上手くいくだろう
「さ、結界は解除するわよ、各々瘴気と魔力は抑えてね」
そういい私たちは魔力と瘴気を抑えて結界を解除した、それと同時に皆人間の姿になる
(ん?みんな?)
冒険者ランクSの3人と魔力操作が巧みなネイアはともかくフィーナがいつの間にか人に化ける魔法を得ていた
「あら?フィーナいつの間に人に化ける魔法覚えてたの?」
「えへへ…早く姫様について行きたくて訓練してたんです!すぐに覚えられたんですけど姫様をびっくりさせたくてっ…」
「んんっ!もう!可愛いわねフィーナ!」
「わっ…姫様!う、嬉しいですっ…」
つい尊くなって頭を撫でていた
(っとおちつけ私、やることやらなきゃ)
「オホン…さてアガセ、ルーノ、マリシア、勇者たちとここで連絡繋いでもらえる?私達も内容聞いておきたいわ、あと聞く内容に最終的な目標についても聞いて貰える?」
「おっけー姫様!よしルーノ、通信水晶頼んだ」
「あいよっと、んじゃ姫さんしっかり聞いといてください」
「さてさてどんな冒険してるのかな〜♪」
そうして通信が繋がる、そこには私のデザインした勇者の姿が映っていた
「あれ?あ!アガセさんにルーノさん!マリシアさん!お久しぶり!」
「おう勇者様!久しぶりだな!どうだ?冒険の調子は」
「ん〜…正直言うとあまり上手くいってないんだ、予想外のできごとが多くてね…」
「あれ、そうなのか?てっきり順調なもんかと」
「レベルとかはどうなんですか?♪」
「ん〜それは…3人だから話すけど…実はまだみんな23とかその辺で止まっちゃってるの」
「ん〜なるほど?まぁそんなもんじゃないか?旅に出て2ヶ月ちょっとだろ?」
(え、そんなに遅いの?通りで全く情報がないわけだわ…序盤も序盤じゃない…あ、でも…)
正直既に50とかあると思っていた私はびっくりしつつもなにか納得するものもあった、確かにこれは現実だ、ゲームのようにサクサクRTAなんかできないし戦闘は何分もかかったりする、食事や睡眠の場所取り、サバイバルすることもあるだろう、勇者の旅は現実になると過酷なのだ
「でもこの世界が私は好きなんだ、大好きな人達の思い出が詰まった世界、絶対に守りたい、だから私は…私たちは負けないよ」
「そっか、頑張ってくれ!ちなみに今どの辺にいるんだ?」
「今は港町スイレンだね、数日後に和国に向かう船がでるからそれに乗ってまた数週間旅することになるかな」
(…場所を掴めたわね…戦場は海になる…それならマリシアね)
そして私はマリシアにアイコンタクトを送る、彼女も察してウインクをこちらに送り返してくれた
「ありがとな、あと最後に最終目標みたいなのも教えてくれないか?俺たちの旅の参考にしたいんだ」
先程私が言った内容だ、勇者一行がどのルートを辿ろうとしているか、これは必ず把握しておかなければならない
「ん〜まぁ最終的には魔王と四魔相、各種族の長を倒して魔界を封印することかな…何とかして魔族達を抑えないとこのままじゃ人間は魔族に支配されて、家畜のようにされてしまうからね」
あっさりと答えが出てきた、どうやら勇者一行は封印ルートを選んだようだ
(…封印ルート、勇者サイドの最もわかりやすいハッピーエンドね…様々な仲間、そして勢力や天使と女神等の存在と友好を結びつつ力をつけていく、最終的には勇者が天使と人間の混成軍の先頭を率いて魔王軍を倒し切って魔界封印を成功、人間の世は平和になる…そんなルートね)
「さて、もうみんな寝てるし私も寝るよ、おやすみ3人とも、久しぶりに顔が見れて嬉しいよ」
「おう!またな勇者様!」
「冒険頑張ってなぁ〜」
「ふふっ、またね勇者様♪」
封印ルートは一応人間側にどれだけ犠牲が出たかでもエンド分岐があるけど…少なくともこのエンドにたどり着くと魂を食べる魔族以外は死んでしまうだろう…悪魔や堕天使、不滅である魔神種以外はほぼほぼ滅ぶといっていい…断固阻止だ
「…さて、方針は決まったわね、王都についたタイミングくらいに彼らも海で揺られてることになるわ、マリシアの出番ね」
「あぁ…私が一番乗り…ほんとに楽しみ!♪早くニンゲンで遊びたいなぁ♪」
ルートはわかったもののまずは目先の目標だ、あくまでもルート確認は長期的な面での目安、先にできることは勇者一行の行動妨害だ、そのための最も効率的な内容は勇者にデスペナルティを負わせる…すなわち殺すことだ。
しかし殺すとはいえ死ぬ訳では無い、そうでなければこんな命令は出していないのだから、しかし私を除いたみんなは既になんだか殺したくて仕方なさそうだった、ちょっと怖い
(まぁ…慣れるしかないのかな…)
「マリシアが勇者達を足止めしてるタイミングで残りのみんなは王都で行動することになるわ、くれぐれも問題は起こさないようにね、案内はアガセとルーノに任せようかしら」
「そうだな!俺たちは王都でもそれなりに顔が知れてるし案内に関しても確実に良いものになると思うぜ!」
「うんうん、マリシアも勇者達サクッと殺してみんなで王都を回ろうぜ?姫様と行く王都楽しみだなぁ」
「もちろん♪姫様!おすすめスポットとか案内します♪」
「ついに王都ですか、随分早くニンゲン共の国の一つに入り込めますね」
「王都…街で暮らしてた時はほとんど行ったことなかったからすごく楽しみっ!」
各々が王都への思いを馳せている、せっかくの旅なのだから楽しまなくては損だ、目的を忘れない程度に楽しむとしよう、そう思った
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「あの3人久しぶりに見たなぁ…いや、といっても1ヶ月前か」
そんな独り言を呟きながら宿屋の窓から外を眺める私、美しいマルプルワールドの世界が映り込む
私は勇者アイリ、前世で電車の事故に巻き込まれ自分の命と同じくらい大事な親友2人を失いそのまま何故かこの私達が作ったゲームの世界マルプルワールドの世界に転生していた
「結局遥香ちゃんも倒れちゃって…私もそのまま…」
わたしと遥香ちゃんは愛佳ちゃんに護られて即死は免れた、しかし節々を負傷していた私達は動きが鈍くなっており迫る煙に飲み込まれ次第に意識を失ってそのまま死んでしまった
「…ごめん…愛佳ちゃん…私達結局死んじゃった…」
せっかく守ってくれたのに私たちは倒れてしまったのだ、しかし神様は私達を見放さなかったのだろう、私はこの愛するゲームの世界に転生した。
「でもこの世界に来れたのは…ホントに嬉しい」
ゲームの光景が現実となった世界、私達が作った世界、それを目の当たりにした時感動で涙が出てしまった、愛佳ちゃんのデザインしたまんまのキャラ達が生きて動いており遥香ちゃんがプログラミングしたまんまのステータスが私達や彼らにあるのだ、感動しない方が難しい。
「ただ私は音響と作曲だったからなぁ…何も残ってないや…」
そう、私はマルプルワールドを作る時に担当したのは主に音に関する面だ、3人でデバッグはしたもののこの世界に私の目に見える形での痕跡は無い、現実では戦闘中にBGMなんて流れないしステージ用の曲も無い。
(しかも現実になったからか少し変わったところもあるし、私の想定ではとっくにレベル50とかで中ボスに挑み始めてる算段なのになぁ…)
現実になった世界ではサクサク戦闘が進むなんてことは無かった、サバイバルもしないといけない時もあるし金策も結構大変、なんというか魔王に至るまでに何年もかかる気がしてならない
(愛佳ちゃんが作ったキャラ達だもん…死なせたりなんてしないよ)
もちろん魔族も愛佳ちゃんがデザインしたキャラ、とても大事だし好きなキャラもいる、だが彼等は話の通じない化け物達でありおもちゃで遊ぶかのように人の命を奪う、弄ぶ、このままでは魔族に人間達は支配されてしまうからそれだけは避けなければ。
「とはいえ私も魔族をできるだけ殺したくは無いから…魔界封印ルートが1番だよね」
封印ルート、勇者サイドのハッピーエンドでもっともポピュラーと言えるルートだった、中ボス達と四魔相、魔王を討ち果たし魔族サイドの主人公と終戦協定を結ぶ、そして天使や女神と共に魔界を封印してハッピーエンドという形になるルートだ
(とはいえ魔族たちは人間という大事な食料を失うことになるからいずれは死んじゃう…まぁでもその時には私も生きてはいないしまぁいいかな)
一応ホムンクルスイベントという人間に代る食料を作るイベントがあるもののそれは魔族サイド主人公が虐殺ルートを進めた時にのみ起こるイベントなため私達には全く縁がない、ただ少なくとも私の目の届く限りが平和であって欲しい、だから人間のために戦う…勇者アイリとして
「私は…愛佳ちゃんのデザインしたキャラとシナリオが好き、それを形にしてくれた遥香ちゃんにも感謝だね…絶対にこの世界を守ってみせるから」
「天国で見守っててね愛佳ちゃん、遥香ちゃん…私頑張るから…」
そう呟き私は眠りについた。
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