第15話 人の身との別れ
「い…いやっ…助け…」
「ふざ…けるなぁァァァッ!!」
「まっ、おいやめろ!アガセ!!」
あっという間に私達は混乱状態となってしまった、部屋に現れた魔族3人…さっきまで一緒にいた、人間だと思っていた2人は魔族でもう1人の仲間を呼び出し私達の前に悠然と立つ、そんな彼女達に私達のリーダーである剣士アガセがリアナに向かって剣を振るおうとする…しかし
「抵抗はダメだよお兄さん、大人しくしててね?」
「なっ…ぐぁぁぁぁあッ!」
あっという間にアルラウネの触手に捕らえられてしまった、そして口と鼻を覆う程の大きさの花弁が顔に押し当てられ…
「あ゛…あびゃ…あ、ぁ…」
「バ…化け物…」
「い、いやぁぁぁぁッ!」
痙攣して動かなくなったアガセの姿がそこにはあった、麻痺状態の典型的な姿だった
「さすがフィーナさん、毒花粉を用いた拘束、素晴らしいです」
「ありがとうフィーナ、あなたのおかげでスムーズに進みそうよ」
「えへへ、ありがとうございます!姫様!ネフィアさん!」
そんなことを楽しそうに話す魔族3人、魔法を封じられ何もできない私は怯えきってしまって震えることしかできない
「とりあえず抵抗しないでもらえると助かるわ、あまり手荒な真似はしたくないの」
「何…言ってんだ…お前…」
「ニンゲン、口を慎みなさい、姫様の前ですよ」
「ほんとだよね、ねぇニンゲンさん?私たちの言ってること理解できないの?」
「できるわけないだろッ!俺の仲間に何をするつもりだッ!!部屋に結界で閉じ込めて毒を使われてッ!!落ち着いていられ…ムグッ!?」
「あーはいはい、もういいから静かにしてねニンゲンさん、あなたにも私の毒花粉をプレゼントしてあげるね」
「びあ゛あ゛…ニ…ゲ…ロ…」
「あ…あ゛ぁ…お助け…お願い…します…どうかお助け…」
「…ごめんなさい、あなた達は何も悪くないの…恨むなら戦争を恨んでちょうだい」
「へ?」
目の前の魔族、リアナは優しい口調でそう告げる、憂いを帯びたその表情はどこか強い決心を孕んでいて…
「とりあえずあなたたちの疑念を解くことにするわ、まずは抵抗はして欲しくないし、私のステータスを見てちょうだい?」
そうして亜空から取り出したステータス表示用石版に手を置き
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サナト・リアナ レベル2147483647
HP:2147483647
MP:2147483647
攻撃力:2147483647
魔力:2147483647
防御力:2147483647
精神:2147483647
速度:2147483637
幸運:2147483647
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「あ゛…ゔ…ぞ……」
「がッ…ひっ…」
「あぁ…ああああああああぁぁぁッ!…」
その異常な数値を見て私達は震え上がる、すぐそばにいたのだ、クロムさんが言っていた魔神級魔族…たがこんな化け物ステータスだなんて思っていなかった…もはやこんな化け物はどうしようも無くて…
「お…お願い…します…ど、どうかお慈悲を…こ…殺さないで…お願い…します…」
もはや私に出来ることは震えながら慈悲を請うことだけだった、こんな力を持った魔族が解き放たれていたなんて、もはや女神とか天使だとか…そんなものは何の役にも立たない、この化け物に一瞬にして消し飛ばされてしまうだろう。
「…安心してちょうだい、殺すつもりなんて全くないわ」
「ほ…ほんとですか…」
「ええ、その代わりあなた達にはとある役割を与えたいの」
「役割…」
「ええ、あなたたちは勇者一行と接触していて、かつ連絡手段を持っている、あなた達には勇者一行の動向を探りつつその妨害をして欲しいの」
「監視と…妨害ですか?で、ですが私達では勇者の皆様と戦うと甚大な被害が…」
「ええ、社会的な立ち位置だったり、そもそもの力の差だったり問題があるわよね、だからあなた達には魔族になってもらうわ」
「ま、魔族に…?」
「ええ、それと私の力を与えてあげる、それこそ莫大な力を得ることができる、レベルが最大になった勇者一行とも引けを取らないレベルの力がね」
「そ、そんなことが…」
「えぇ、さぁ選びなさい、魔族となり私達の仲間となって、勇者を止める使命を受け入れるか…拒絶するか」
「拒絶したら…どうなるのですか…」
「…それはまだ決めてないわ…でも悪いようにはしないつもりよ」
きっと殺されるのだろう、魔族の中には記憶を盗み見る魔法があるという、その魔法を使えば私達の亡骸から情報を得られるはずだ、なぜこんな力を持った存在がこんな遠回りなことをしているのかは気になるがそれどころではなかった。
「なり…ます…魔族に…ですから…殺さないで…お願い…します…」
「もとより殺すつもりなんてないわ、わかった、それじゃああなた達には魔族になってもらうわね…でもその前に」
「少しお話がしたいの、私の仲間になる存在にはちゃんと話しておくべきだから」
何の話をするのだろう、もうすでに怯えきって震え、涙を流している私にはその答えは分からなかった
「まずは謝らせてちょうだい、きっと怖がらせてしまったわよね、ごめんなさい」
「それと、この世界では戦争が続いているのは知ってるわよね?魔族と天使、そして人間、このままでは人類は家畜や奴隷として支配されてしまう…そうよね?」
その通りだ、私達人間は天使や魔族に比べてあまりに脆弱だ、一部の鬼才か女神様に直接力を与えられた勇者くらいでないと戦いに参加などできないだろう
「私はその戦争をできるだけ平和な形で終わらせたいの、こんなことをしておいて何を言ってるんだって感じだと思うけど最後まで聞いて欲しい」
「私は…元々人間だったの、ひょんなことから命を落として…それでこの魔族…サナト・リアナになった」
(も、元人間!?そんな存在がいるの???いや、確かに言われてみれば先程から何やら魔族らしくない物憂げな表情や人の持つ優しさがかいま見えていた…もしかして本当に…)
「それでね…そんな私だから…魔族だけじゃなくて人間だって大事なの…その上天使や女神だって大切なの、でも今の私は魔族の姫、大切な家族や仲間達がいる、だから私は魔族を内側から変えていきたいの…そのために私とおなじ人間から魔族に変わった仲間が欲しい…それでこうしているの」
確かにそれが実現するなら争いを平和的に終わらせられるかもしれない、同じ魔族同士になれば人間であることを理由に虐げられたり家畜のように食われたりもしないだろう、それは元人間のリアナさんが証明している
「ただその実現は簡単じゃない、戦争の犠牲者を減らすために勇者たちを止めないといけない、天使の軍も退けないといけない、人間に代わる新たな食料を作らないといけない…やることは山積みなの」
(ほんとに…そんなことできるの???私達は…どうすれば…)
疑問は尽きない、色々考えている矢先リアナが再び口を開く
「さて…これで私の方針の話は終わり、とりあえず少し話が聞きたいわね…フィーナ、2人の麻痺を口だけ解除とかできる?」
「はい!姫様!できるはずです!」
「ふふ、さすがね、それじゃあお願いね」
そういいリーダーのアガセが喋れるようになり…
「さっきは乱暴してしまってごめんなさい…さっきの話を聞いてのあなたの答えを聞きたいわ、教えてちょうだい、協力する?それとも拒否する?」
「……正直…全てを信じることは出来ない、でも確かにお前からは人間の心を感じる、あの蛇に襲われてるおばさんを助けようとした時も震えながらも守っていたからな…俺達が来ることを知らなかっただろうし」
「そうね、あの時は手を貸してくれてありがとうね」
「あぁ、それでまぁ…協力に関してだが…受け入れるよ、確かにそれが実現したらいいだろうしな、あとは…お前を信じてみたい、でももし違う道を歩みそうならすぐに協力は取り消しだ」
「ええ、もちろんよ、これからよろしくね」
「それじゃあつぎ…ルーノよね?あなたはどう?協力する?それとも拒否する?」
「…まぁ協力だな、概ねリーダーと同意見だ、あとはまぁ…こんな力を持ってたらそもそも逆らえないじゃんか」
「あ、あはは…確かに力はもう仕方ないわね…」
そして私の方に向かってリアナさんは歩いてくる
「最後にあなた、マリシア、どう?協力する?それとも拒否する?」
「協力…するよ、私も魔族が怖かった、でもリアナさんを見て優しい魔族もいるって知れた、リアナさんとならきっと戦争を終わらせることができると思うから」
「…うん、みんなありがとうね、それじゃあ今からあなたたちを魔族に変えるわ、まずはアガセ」
「…俺か、一体どんなことをするんだ?」
「そうね、まぁ基本的には何もしなくていいわ、私が魔法をあなたの中に流し込む、その中でなりたい魔族かあなたの好きなことを思い浮かべながらいてくれればあなたの望む魔族へと変われるわ」
「わかった、始めてくれ」
「ええ」
そういいリアナさんはとてつもない力を秘めた闇魔力をその手に乗せた、すぐに私はその力が存在諸共変えることが可能な莫大なエネルギーを持っていると理解する
そしてその魔力がアガセの中に吸い込まれていき…
「ぐっ…ぬぁぁぁぁあッ!」
アガセは声を荒らげる、最初は苦しそうにしていたもののだんだんとその表情は幸せそうなものに変わっていき…身体が変化し始めた。
4本の腕が生え、黄色いヤギの2本角が頭から伸びる、肌は灰色を帯び瞳が赤く染る…悪魔族の姿だった
「終わったわね、気分はどう?」
「これは…素晴らしい気分だ…これが魔族の肉体…これまで抵抗していた俺はなんて愚かだったんだろう…姫様、どうかこの俺を使ってください、この力は全て姫様に捧げます!」
「ありがとう、期待してるわね、あと無理に敬語は使わなくていいわよ」
「あぁ…姫様が俺を頼ってくれている…ますます力が昂って来る!わかった!それじゃあ姫様とだけは呼ばせてくれ!」
魔族になったアガセはとても幸せそうだった、既に彼から莫大な力を感じる、他の魔族も闇魔力を隠すことをやめたのか凄まじいオーラが漂っており私もこれから彼等の仲間入りするのかと思うと…不思議と落ち着くのだ…きっとあの闇魔力が私を誘惑しているのだろう。
「それじゃあ次はルーノね、さぁなりたい魔族、好きな事を思い浮かべてちょうだい」
「おう、あまり痛くはないんだよな?」
「最初少し苦しいだけね、すぐに幸せになれると思うわ」
そういい彼にも同じように闇魔力が押し当てられる…そして
「くっ…あぁぁぁぁあッ!」
最初は少し苦しそうな、その後すぐに幸せに満ちた表情となり、身体が変化を始める、背中から赤と紫の鳥の羽が、手の爪が鋭く伸びる、瞳が縦に割れ、鋭い瞳になる、そして腰から尾羽が生えて…ルーノは鳥の獣人、ホルスとなった
「完成よ、体は問題ない?」
「おう!すっげぇ軽いな!なんだか今ならなんでもできちまいそうなくらいだ…姫さん、ありがとう、これから俺も姫さんに全てを捧げるよ」
「ええ、これからよろしくね」
そして最後…私の番が来た、緊張と不安で心臓がバクバクなっている
「さて、仕上げに貴方ね、どう?心の準備は」
そう言われ私はみんなを見渡す、魔族になった仲間ふたりは満ち足りた表情で私を見下ろす、私の魔族化を心待ちにしているようだった、そしてフィーナさん、ネフィアさんは仲間が増えたことが素直に嬉しそうだった、そして私も賢い選択をすることを期待する目を向けてくる。
「はい、すごく…緊張します」
「ふふ、それもそうね、準備ができたらいつでも言ってちょうだい」
「スゥー…ハァー…うん、リアナさん…えっと、姫様!準備できました!」
「わかったわ、それじゃあなりたい魔族、それか好きな事を思い浮かべてちょうだいね」
好きな事…それならある、魔法の探求だった、わたしはSランク冒険者になるために多くの努力をしてきた、魔法学校を主席で卒業し、その後厳しい試験に合格しSランクの魔法使いの称号を得て冒険の旅に出た…水魔法…私が極めようとした魔法だ、それに関係ある魔族になれるといいな…そんなことを思いながら
グッと姫様が私の胸に闇魔力を押し当てる
「ひゃ…うひゃぁぁぁぁぁあッ!」
私の根底…魂そのものがものすごい勢いで作り替えられていく、最初は強すぎる闇魔力に体が悲鳴をあげたものの、次第になんだか心地よくなってきた…姫様のお力に愛されて…包まれているような安心感、ついうっとりと顔がとろけてしまう…
「ひゃ…なにこれ…あっ…♡♡体が…あぁぁあッ!♡」
私を闇魔力が支配しきったところで体に変化が現れる、肌が青くなって行き、脚がなんだかくっついていくような感覚、そしてそのひとつになった脚が青い鱗に覆われヒレと尾ヒレが生えてくる、耳からもヒレが生えてきて首筋辺りにエラのようなものができる。
「あぁっ…姫様♡♡姫様ぁ♡♡私…幸せですぅ♡」
私のあらゆる全てが姫様への忠誠心と敬愛に支配される、この方のために私の全てを捧げたい、この世界の至高の存在たる姫様に跪きたい、そんな感覚が焼き付く、それが私にとっての全てになる
「ぁ…♡」
完成した、その瞬間私を圧倒的な幸福が包み込んだと同時に、私の心に何か禍々しいものが焼き付く感覚〚ニンゲンは愚かで救いようのない存在、私たち魔族が管理して弄ぶ、その欲望を叶えたい〛そういったものが私の根底の価値観として焼き付いていき…
「はぁはぁ♡…これは…もしかしてセイレーン???♪」
「ええ、素敵なセイレーンになったわね、どう?おかしなところはない?」
「あぁ…♡♡はい!姫様!なんて素敵なお声…♡♡私は生まれ変わりました!こんなに幸せで…こんなに満たされて…私は姫様に出逢えたことが一生の幸運です!♪ 」
「ふふ、なんだか照れるわ、それじゃあこれからよろしくね」
「はい!私は姫様に全てを捧げる存在です!どうか私をお使いください!♪」
満たされすぎて泣きそうなほどの幸福感だった、私はこの時のために今までニンゲンとして耐えて生きてきたのだと思えてきた、きっとそうなのだろう、ニンゲンとしての私は終わり、これからは魔族のセイレーンとして姫様と共に生きていく、そう誓った。
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