第14話 迫る魔の手
王都へのあてを確保し理想の悪役への道が前進した、しかし私はさらにもうひとつやりたいことが残っている
(あとは勇者一行との接触かな…)
最も優先度の高い目標リストのひとつ、父や母、兄、ひいては魔族全体の驚異となりうる存在であり人間サイドの主人公だ
(でもこの村にはもう痕跡が残されていなかった…)
どこまで勇者たちがストーリーを進めたか全く把握できていない今の状況は非常に危険だ、特に兄や中ボスたる種族主の魔族たちと接触した場合彼等の中に犠牲者が出てしまうかもしれない
このゲームには各魔族の頭領のようなポジションのキャラが中ボスとして登場する、彼らは種族主と呼ばれていて、勇者達はこれら全てを撃破し四魔相や兄、魔王と対峙することとなる早く動向を掴まなければ
(でもちょうどいい人達がいるのよね…)
そう言い私は同じ部屋にいる冒険者3人組に目を向ける、彼らは勇者サイドのストーリーに登場する冒険者登録イベントにて勇者一行の手助けをする人達だ、私とネフィアは彼らに連れられ同じ部屋にいた。
(彼らを私の仲間にできれば…上手いこと情報をさぐれるかな…)
魔族化魔法…それをもう一度行使する時が来たのだ
「さて…お嬢さん方はどうするつもりだい?」
「どうって?」
「ほら…とんでもない力を持つ魔族が出たって話…このままだと被害を受けちゃうかもだから」
「だな、どこかに逃げるなり…女神様に助けを求めるなりしないとどうにもならないよな…こりゃ」
3人はそう口々に言う、皆悲観的な表情だった
「そうね…その前に3人に話を聞いてもいいかしら?」
「あぁ、別にいいぜ…あれ、お前さんそんな口調だったっけか…まぁいっか」
「そう…それじゃあお願いするわ」
私は机を挟んで彼等の座る椅子の正面側に座る、これから彼らを魔族へと変えて3人には勇者一行の情報を探って貰うことになる、その前に彼等の気持ちを知りたいのだ
「まず…魔族のことをどう思ってるのか知りたいわ、教えてちょうだい」
「倒すべき悪だな、奴らが存在する以上人の命は脅かされ続ける、必ず討ち果たさなければならない」
「理解できない怪物…相容れない存在、何とかして討たないと人はみんな酷い目にあう」
「人類の大敵で、この世界にいちゃいけない存在だと思ってるね」
概ね予想通りといった返答だった、ネフィアが心底不快とでも思っていそうな表情をしていた
「なるほどね、じゃあもうひとつ…女神や天使についてはどう思ってるの?」
「まぁ…俺たちを助けてくれる存在でもあるし魔族の脅威を遠ざけてくれる存在だな、感謝してるよ」
「私の家族を魔王軍の侵略から救ってくれた存在、すごく感謝してる」
「人類の味方ってイメージだな、信用してるよ」
なるほど、やはりこちらも概ね予想通りといった反応だ…さて…
『ネフィア、準備はできた?』
『はい姫様、既にバレないように防音結界、空間結界、共に展開してあります、擬態解除後にすぐ魔封結界も展開致します』
『ありがとう、それなら私以外は魔法を使えないわね』
(あとは…フィーナも呼んでおこうかな)
「ごめんなさい、少し連絡が入ったから出てくるわね」
「ん?おお、こっちは明日の出発に向けて準備しておかないとな」
「そうだね、えっと…」
「リアナよ」
「ありがとう、リアナちゃん、それじゃあ私たちは明日に向けて準備するから連絡が終わったら教えてね、リアナちゃんのも手伝うから」
「お、俺も手伝っていいかな?へへっ」
「…そろそろその面白くないジョークやめて」
「あー…すまね、重い雰囲気になってたし和ませたくてさ」
「ありがとう、それじゃあ少し待っててちょうだい?」
この後私たちは魔族化魔法を行使する、その際人間に化ける必要などない、フィーナの力も役に経つだろうし呼んでおくべきだろう、私は部屋の扉が閉まったのを確認した後…
『フィーナ、いる?魔王城での仕事は大丈夫そう?』
『あっ姫様!はい!こちらはとても順調ですよ!アルラウネの力を活かして広いお庭の手入れをしていたところです!』
『あら、それなら後で手入れされた庭を見に行かなくちゃね、それはそうと今あなたの力が必要なんだけど私たちの所に来れそう?』
『姫様の命令とあらばいつでも向かいますよ!少々お待ちくださいね…あ、その村なら行ったことあるので転移でいけると思います!』
『ありがとう、それじゃあ待ってるわね』
そう言い私たちは通信をきる、その後少しの時間を置いてフィーナが私の隣に転移してきた
「ふふふっ、姫様!私の力が必要とのことで!何かございましたか?」
「ええ、今からあなたと同じように魔族へと変える必要のある人達がこの部屋の中にいるの、あなたのアルラウネとしての力を貸してちょうだい」
「かしこまりました!…ん〜、麻痺毒の花粉とかどうでしょうか?面倒起こすようでしたら使うようにします!」
「ええ、抵抗されると面倒だしそれで行きましょう」
「はい!あぁ…これから姫様の手で幸福な運命を与えられる幸運なニンゲン…どんな風に変わってくれるか今から楽しみですっ!」
そう言い彼女は邪悪な笑みを浮かべている、やはり何となくわかっていたが魔族化する際人間の心は魔族の本能に上書きされているようだった、少し彼女が遠くに行ってしまった気がして寂しく感じる
(どうなのかな…もしかしたらこの子はもう人間の気持ちなんて全く分からない存在に変わってたりするんじゃ…)
私が使った魔族化魔法…それによって彼女は私と同じ元人間の魔族へと変わった…彼女と共に魔族を内側から変えていきたいところだが…もしかしたら既に生まれも魔族である存在と大して変わらない存在へとなってしまったのでは…そんな事がよぎる…
(でもネフィアも話したらわかってくれたからきっと大丈夫よね…これから仲間のみんなと戦争を終わらせるんだからしっかりしなきゃ)
そう、以前ネフィアに秘密を明かし受け入れてくれた…だからこそフィーナも大丈夫なはずだ、そう思い私は新たな仲間を得るために部屋の扉を開けるのだった
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リアナちゃんが扉から出ていってからすぐに私たちは出発に向けての準備を進めることにした。
私はこの3人で冒険者パーティーを組んでいるメンバーの魔法使い職のマリシア、Sランクパーティーである私達は人間達の中では優れた力を持っていると自負しているし私自身もそうだと思っている、水魔法を巧みに操ることができる私は同じ仲間の剣士アガセと技師ルーノと共に様々な土地を旅してきた、最近では噂の勇者様とも一時的に旅をしたことだってある。
しかしその優れた力も魔族相手には通用しない、彼等はあまりにも強すぎるのだ、魔王軍に加入していない一般魔族であっても私達全員でかかってようやくまともに戦闘になるかどうかというレベル…魔王軍兵士とかもはや勝てる気がしない。
(それなのに…魔神級の魔族???そんなの一体どうすればいいのよ…)
はるか昔の神話でしか登場していない魔神級の魔族…魔神種の中にしか生まれないとされる魔族6階位最上位の存在がついに誕生してしまった…一体この世界はどうなってしまうのだろう…
「なぁ……人類…どうなっちまうんだろうな…」
「……やめてくれ……正直俺はもう怖くて怖くて逃げ出したいくらいなんだ…逃げ場なんてないんだろうけどな……」
そんな2人の会話が聞こえてくる、彼らの言う通りだった、私も恐怖で泣き出したいくらいだった、未知の化け物への恐怖…体感したこともないようなおそろい感覚であり、さっきまでの出来事が夢であって欲しいと頬をつねったりもしていた…
(死にたくない…嫌…)
そんなことを考えながら荷物整理をしている内に扉が開く音がした、リアナちゃんが入ってきたのだ
「ごめんなさい、少し待たせてしまったわ」
「おう、大丈夫だぜ、マリシア荷造り手伝ってやってくれ」
「ええ、さぁリアナちゃんこっちだよ」
「ふふ、ありがとね」
リアナちゃん、正直最初見た時からすっごい美少女さんだなと思っていたけど近くで見るとよりその美形さが際立っていた、鬱々とした気分だったけど晴れやかな気持ちになれるくらいには、それになんだか花のような甘い香りもして余計にその姿が可愛く見えた。
「あなたは…水魔法を使ってあの大蛇を攻撃していた子よね?あの時はありがとう」
「うんん、冒険者として当然のことをしたまでだよ」
「えぇ、さすがSランク冒険者組ね」
「え?」
おかしい、なぜ彼女は私達がSランク冒険者であることを知っているのだろう?適当に言っているのだろうか…それでもD~A、S、SSとある冒険者ランクの中からピッタリ当てる確率は低いはず…
「ふふ、今なんであなたたちの冒険ランクを知っているのかびっくりしたんじゃない?」
「!?」
(心を読まれている???え、この人は一体何者なの…)
急に雰囲気が変わった気がして少し恐怖を覚えた…そんな私に向けて立て続けに
「それと…あなた達はみんな勇者一行と接触して連絡先も通信魔石に登録しているはずよね?」
「えっ!?…なんで…そんなことまで知っているの!?」
「ふふ…良かった、しっかりシナリオ通りね」
なんで私たちの言っていないことをこんなに知っているのだろう…彼女への恐怖が大きくなる、そのすぐ後私たちの仲間であるルーノが扉の隙間から見える何かを発見した
「な、なぁ…なんで俺達のことそんなに詳しいんだ?…ってかなんか扉から緑っぽい触手?が見えるんだが…」
「あぁ…それはね…」
そして扉が開けられて…その触手が正体を現す
「こんにちは!ニンゲンさん達!私は魔族、アルラウネのフィーナ!よろしくね!」
「「「うあ゛ァァァァッ!?」」」
全員が予想だにしない出来事に悲鳴をあげた…いや、全員では無い、なぜかリアナちゃんとその仲間のお姉さんはこうなることがわかっていたとでも言うような落ち着ようで…
「なんで魔族がこんなところにッ!?」
「と、とにかく戦闘準備をッ…なっ!?」
そう2人が言っているとつぎの瞬間部屋に結界が展開された気配を感じる…魔法使いの私には分かる、これは魔封結界だ、しかも感じたことの無いほどに強力なものだった…その結界はあのお姉さんから発せられていて…その姿を見て私達は驚愕した
「い、いやっ…なんで…あなたまで!」
「一々うるさいですねニンゲン共は…とりあえず自己紹介を…私は魔族、獣人の黒猫種、ネフィアと言います、以後お見知り置きを…そして私は姫様のメイドでもあります」
頭から猫耳が生え腰付近には猫のしっぽも出ている、そして手は短い黒い毛におおわれており明らかに獣人魔族の特徴的な姿だった
「姫…様???嘘…じゃあリアナちゃん…も???」
信じたくなかった、間違いだと否定して欲しかった…でも彼女は…リアナちゃんは私の横から私たちの前に移動し…
「えぇ、その通りよ、私は彼等の主にして魔族の姫、サナト・リアナ…よろしくね」
そうして擬態を解いた彼女は先程までの姿とは一変していた、4本の捻くれた角、悪魔のような翼、赤い瞳、ギョロりと見開かれる第3の目、指先から肘にかけて黒くなった腕、真っ白な人外肌…それは噂に聞く魔王と同じ種族…魔神種の姿だった
「ひっ…いやぁぁぁぁあッ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛ッ!」
「う、嘘だろ…なんでこんなことにッ!」
いきなり3人の魔族に囲まれた私達は皆一様に背中から壁にぶつかり結界に弾かれた、バランスを崩し尻餅をついて座り込む、この瞬間私達の運命は決まってしまった…もう逃げ場は無い、私達はこの部屋に閉じ込められ魔族達に蹂躙される運命にあるのだと、そうすぐに理解してしまったのだった。
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