第13話 理想の魔界計画

1度魔王城の自室に戻ったリアナとネフィア、そこにはふたりが神妙な面持ちを向けあっていた。


「ネフィア…私ねさっきの行動にはもうひとつ…別の理由があるの」


「そうだったのですね、ではこれから教えてくれるのですか?」


「ええ、ただ必ず2人だけの秘密にして欲しいの、約束できる?」


「かしこまりました」


私は話し始める…前世の記憶を持っていること、そこで私はこの世界の原型を作った人間の1人であり、人間として長い間生きていた私は魔族の思考や本能には拒否的な反応をしてしまうこと…でもそれは私が作り上げてしまったこと。


転生者であることは伏せておいた、リアナはリアナのままだけど記憶を思い出したのだという設定で話を進める、流石に転生者だと言ってしまうと彼女の知るリアナはどこにもいないということになりかねないからだった。


そして全てを知ったネフィアは恐る恐る口を開く…


「な、なんというかとんでもないことを聞かされてるような…そ、それは本当なのですか?」


「えぇ、本当のことよ…」


「えっと、つまり姫様は前世でこの世界を作り最近その記憶を取り戻した…そこでの姫様は人間で…その結果がこれまでの行動であると…」


「そうなるわね」


「流石にすぐに信じることは難しいです…しかしとなると記憶を取り戻したのはタイミングはあの力を発現下あたりからですか?」


「そうだと思うわ、こんな意味のわからないステータスになった辺りね」


ネフィアはなるほどとつぶやき


「それなら少し納得かもしれません…姫様に創造主の力が宿り、その結果あのような力を得たのだとしたら説得力がありますから」


そして本題を持ち出すかのように真面目な表情でネフィアは私に問う


「では姫様…その力を…姫様は一体なんのために振るうのですか?」


恐れの交じった…少し震えのある声だった、おそらく1番聞きたかったことなのだろう


「それは…もちろん魔族のために使うわ、創造主としての記憶があるだけで…今の私は1人の魔族…リアナだもの」


少なくとも嘘はついていないはずだ、人間が大切なのは間違いないが今の私は魔族、裏切るなんてことはしたくない…少なくとも今は人間の協力者を募り魔族に変わってもらう、そして仲間達と魔族を内側から変えることで戦争が終わることが理想的だ…


「それなら、彼らを殺してしまっても良かったのでは?人間など1人や2人減ったところで何も変わらないかと…」


「そこが難しい所なのよね…創造主としての記憶がある以上人も天使も守りたいの…だから私は戦争を平和な形で終わらせたい」


「…壮大なお考えなのですね…しかし姫様、失礼を承知で申し上げますと…それは不可能かと思います…」


わかっていた、いや、わかったつもりでいた。

だってこの世界では戦争が起きていてそれを犠牲無しで終わらせるなんて不可能に近いことだ、というか既に多くが犠牲になっているのだから。


「そうね…わかっているつもりよ、だからこそまずは仲間を募るの」


「…それはどういうことですか?」


「冒険に出てフィーナのように人間から魔族に変わってくれる仲間を探すつもりなの…その子達と共に…うん、戦争を終わらせたいなって…まぁもう知ってるとは思うけれどね」


「えぇ、しかしそれは人を魔の力で支配し天使を滅するという意味では?」


「ちょっと違うわ、人を力で支配して天を滅ぼすのではなく…協力関係を築ければいいなって思うの」


「協力関係…ですか?」


「ええ、」


様々なルートがあるマルプルワールドの世界には魔族になった人と戦うイベントや食糧難に陥った魔族達にホムンクルスを作りその問題を解決するイベント等…多くのサブクエストや裏クエストがある、これを利用すればきっと達成できるはずだ。


魔族は同じ仲間同士では力比べはするものの殺しあったりはしないという設定をつけてある、全く争いを無くすなんて無理だとはわかっているが…それでもずっとマシな世界になるはずだ。


「人間と協力関係………そうですか、かしこまりました」


「ええ、わかってくれたのね、同じ立場ならきっと分かり合えると思ったの、そうすればきっと魔族だとしても変えていける…まぁきっと時間はかかるけど頑張るつもりよ」


「食料問題はどうされるのですか?人間は臓物を含め魂までもが食料としての利用可能な種、代わりとなる存在の記述は見たことがないです…」


「そこに関してはまぁ創造主としての記憶に答えがあるのよね」


「発見されてないだけで方法があるということですか」


「ええ、ただその目標達成にはやっぱりさっき言った仲間が必要なの…そのためにはまず王都を目指さないとならない…ってところね」


「かしこまりました…では姫様、改めて私は姫様について行くことを誓います」


「ありがとう、混乱させちゃってごめんなさいね…」


「こちらこそ、こんな秘密を私に打ち明けてくれたこと、とても嬉しいです…では私は1度忘れ物を取りに自室に戻りますね、失礼します」


「ええ、これからもよろしくね」


そういいネフィアは部屋へと向かった、なんだかいつも以上に険しい顔をしているような気がした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…姫様、変わられてしまったのですね」


私は初めて姫様に嘘をついた、秘密くらいなら私にもあるが面と向かって嘘をついたのは初めてだ、本当は忘れ物などしていない


「姫様は前世の記憶を思い出したと言いましたが…その影響か人格も変わってしまわれたのでしょうか…」


私の知っている姫様はニンゲンと協力関係を築こうなんて言わない、私の知っている姫様はニンゲンを力で支配することを望むはずだ


「…フィーナ、いますか?」


「あ!ネフィアさん!どうしましたか!」


「…少し話があります…私たちの姫様についてです」


姫様はきっと前世の記憶というものに囚われてしまっている、忌まわしいニンゲンの記憶、何としてもその影響から解き放ってあげなくては


「姫様ですか?わかりました!姫様のためならフィーナはなんだってやりますよ!」


姫様のお力で魔族へと変わったフィーナ、彼女はもう心まで私と同じ魔族だ、彼女の手を借りて姫様をニンゲンの記憶から救う、失敗は許されない


「ありがとうございますフィーナ、では少しお話を…」


そうして私は話し始めた、姫様を完全な魔族へ戻す計画を…


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自宅で魔法の勉強をしながら一日が終わり、もう一度グレイラ村へやってくる、何やら騎士や冒険者が沢山居た、とりあえず昨日色々お世話になった3人の冒険者に何があったか聞いてみる。


「えっと…皆さん何やらお集まりみたいですけど…何かあったのですか?」


「ん、おぉ昨日のお嬢さんか、なんだか強大な魔獣か魔族がここを荒らしたみたいでな…調査してる最中なんだとさ」


「そ、そうなんですか…」


そう言い彼はなぎ倒された木々と抉られた地形を指さした、紛れもなく昨日私がダッシュしたところだった


(あー…うん、ワタシハナニモワルクナイ)


なんというかほんとに面倒なステータスだ、いちいちトラブルが起きてしまう、人的被害は無いし良しとしておく。


そういえば確認したいことがある、そのことも聞いてみることにした。


「それともうひとつ…私最近起きたことに疎くて…瘴気によって魔獣が活性化してるって話なんだけど、どこまで被害は広がってるの?」


「魔界の穴事件関連のことだよね?それなら想像を絶する被害と言える…魔獣の活性化だけでもかなり酷いけど、それともうひとつは疫病の蔓延かな」


3人組パーティの魔法使いの女が答える、何やら憂いを帯びた表情だった


「瘴気が引き起こした疫病の流行で多くの町や村、国が甚大な被害を受けた…特にお年寄りとか幼い子供、元々体の弱い人とかね…」


やはり被害は大きいようだ、もはや私の存在が厄災になりかねないのかもしれない


「冒険者の皆さん、及びグレイラ村の皆さん、調査結果が出たのです」


そんなことを考えていたら王国の騎士風の見た目の人物らが鑑定石板をもってみなの前に立った


「皆さん…落ち着いて聞いて欲しいのですが…場に残った魔力、及び瘴気を検査したところ…魔神級の魔族が発生したと思われるのです…」


「「「「「「なっ!?」」」」」」


多くの人が同様と疑念、そして恐慌の声をあげる


「神話にしか出ない魔神級のか!?ありえねーだろ!」


「たとえそんな存在が魔族や魔獣にいたならとっくに世界は滅んでるわ!!」


「…申し訳ありませんが…これは全て真実なのです、私が保証するのです…」


そういい白のフードに身を包んだ少女が姿を現す、その姿を私は見たことがある


(あれは…もしかしてクロム??どうしてこんなところに?)


クロム、私がデザインしたキャラの1人で人類最高峰の錬金術師で12英雄の1人という設定だ、彼女の鑑定に間違いは無いと人間の中では評判でもある。


「クロムさん!?あ、あなたがそう言うってことは…まさかほんとに…」


「ええ、私も鑑定した時目を疑いました…何度も偽装看破のスキルを使用し、そして確信しました…魔神がいるのは事実なのです」


「い、一体どうするのですがクロムさん!!そんな存在が世に解き放たれたら間違いなくこの世は魔族の世界になってしまいます!!」


「……正直に言うと…その化け物は人間ではさすがに対処が困難なのです…


早くも私の存在が知られてしまった、しかし正体がバレた訳では無い…なにか活用できないだろうか。


『姫様、どうされますか?この場にいる全員殺しますか?』


『いや、その必要は無いわ、正体までは判明していないしこのまま牽制目的で広めてもらうのがいいかもしれないわ』


『なるほど…となると魔王様にもこの件はお伝えするべきですよね?』


『ええ、上手く脅しにでも使ってと私が言っていたと伝えてちょうだい』


『かしこまりました、ではそのように伝えておきます』


念話でそんなことを話す私達。

私の存在そのものがバレた訳では無い、これなら上手いこと開戦を抑止できるだろう、相手を知らない状態で戦争を挑むような国ならとっくに滅んでいるのだから、魔族側にも犠牲は出したくない、きっとこれが最善手だと思う


(私の存在そのものがバレると即降伏とかになりかねないし伏せておかないとね)


降伏されてしまうと困る、魔族に支配されればまず間違いなく家畜化、奴隷の道しかない、大きな支障ができてしまう、それは阻止したい。


その場にいる冒険者、そして騎士や村人たちは恐怖に脅え、そして震えていた。


「そんな…俺たちこれからどうなっちまうんだ…」


「なんで…私はまだお父さんとお母さんに何も返せてないのに…」


「2人とも、一度宿に戻らないか?今後について話し合わないとだろうし…」


鬱々とした雰囲気で話す3人組冒険者、そしてもう1人、今にも倒れそうな雰囲気でやつれている錬金術師…クロムウェルの姿が目に入った


(彼女…ホムンクルス作成イベントで活躍してくれるかも…)


そう思い私は彼女に声をかけてみることにした


「あの、クロムさん?今少しいいでしょうか?」


「あなたは…見ない顔なのです、どうされたのですか?」


「はい、錬金術師さんですよね?少しお話を伺いたくて」


「ごめんなさい、今私はとても忙しいのです…軽いお話でないのなら王都の錬金術師組合に会談の予定を作っておいて欲しいのです」


「はい、わかりました」


(よし、とりあえず今度お話はできそう、あとは王都への足だけど…これだけ冒険者や騎士がいるなら依頼すれば運んでくれるかな)


「ネフィア、彼らの中から王都への足を見つけて依頼したいのだけどお金はどのくらい持ってる?」


「魔王様から100万ゴールドを預かっております、これら全て姫様の旅に使って良いとの事です」


「ありがと、これなら料金は気にしなくて大丈夫そうね」


このゲームのお金は1ゴールド1円と同じ単位なので私たちは今100万円持っているのと同じになる、これなら旅費は何も心配はいらなそうだ


「騎士さん、少しお聞きしたいのですが、王都行きの馬車はありますか?」


「はい、ご用意してあります、ですが料金がこのくらいかかります」


そう言い料金表を見せてもらった、そこには料金2万ゴールドと書いてあった


「うん、大丈夫かな…はい、どうぞ」


「…確かに、では明日の明朝出発となりますのでよろしくお願いいたします」


「ええ、ありがとう」


こうして王都への足と錬金術師のあてを見つけた私は理想に向けて一本進んでいくのだった

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