第9話 背負う罪悪
なんでこんなことになったんだろう、昨日まで私達は家族と共に慎ましいながらも幸せに生きていたはずなのに…突然全てが壊れてしまった
私はフィーナ、17になる姉、フィリアと14の姉フィムンのふたりに愛され、父さんと母さんに愛され、幸せだった、それなのに…
「うわぁぁあ!魔族が出たぞぉ!」
「そんなッ!?衛兵達は!?」
「みんな殺されてるんだよ!!早く逃げ…うべっ」
「い、いやァァァァァァ!!」
「さぁさぁ、人さらいの時間ですわ〜!」
あっという間に街を守る騎士たちは蹂躙されていった、たった4人の魔族に、避難を呼びかけた人も為す術なく首が切断されてしまって…平和だった街は瞬く間に地獄と化した、そして私達の方にその魔の手は伸びて
「嫌っ!お父さん!お母さん!」
「とにかく逃げるの!フィーナ!後ろは見ちゃダメ!」
「お父さん…お母さん…無事でいて…」
「ん〜面倒になってきましたわ、適当に生き残った人でもいいかしら…」
「あまり本気を出しすぎるなよ?皆殺しになってしまう」
「フフフ…損傷が酷くなければ蘇生させればよろしいかと」
「その通りねあなた、ルテリカさん、えいってやっちゃって」
「確かにそうですわね、それじゃあ…えいっですわ!」
そんな気の抜ける声が聞こえた次の瞬間街の全ての建物が丸ごと両断されていた、その赤い斬撃はさらなる破壊の嵐を纏い、凄まじい揺れとともに多くの人が塵になっていった、そして気がついた時には私達3人はここにいて…私の姉2人は魔族へと変わってしまって…
(ここ…は…夢…じゃないのかな…)
付近を見ると赤いベッドで寝ていたようだった、天幕が降りておりはっきりとは見えないが部屋全体が赤や黒、紫といった毒々しい色合いで構成されていた
「あら、目が覚めたのね」
「誰?」
聞き慣れない可愛らしい声が聞こえた、雰囲気からして年は近い気がするが…その声の主は天幕を動かしその姿を見せた
「い…いやァァァァァァっあ゛!!」
私はその姿を見て悲鳴を上げた、黒白目に赤く色付いた3つの瞳、青白い肌、長い耳、禍々しい翼、そして捻くれた角…その禍々しい姿は明らかに魔族のものだった、私の全てを奪った魔族4人、それらに姫と呼ばれていた人物…つまりあの化け物達の親玉だ…
「あ…あっ…いやっ…お、お助け…」
「…まぁ、怖がって当然よね…目の前で姉が敵対する勢力の者に変えられて怖がらない方がおかしいものね…」
その化け物はそう言った、なんだか憂いを帯びた表情で少し泣いているようにも見えた、ただ恐怖に支配された私にはそれを判別する手段は無く
「お…お許しを…お願い…します…こ、殺さ…ないで…」
「殺さないわよ!?落ち着いて!とりあえず話を…」
「こ…殺されないのですか???」
「当たり前じゃない…少しお話がしたいの、お願いできる?」
てっきり酷い目に会うとばかり思っていた私は怯えながらもベッドから降り、流されるままに部屋の真ん中にある豪華な椅子に座った
「はいこれ、まだ食べる気は起きないかもだけど…私の好きなマカロン、一緒に食べましょ」
「へ?」
「むぐむぐ…うん!美味しいわよ、好きなのを取ってちょうだい」
「え、あ、はい…」
なんだか不思議な魔族だ、少しだけ人間のような…さっきまで見ていた話の通じなさそうな魔族達とは雰囲気が違ったように感じる
「…美味しい、です」
「ふふ、良かった」
「それでね…あなたとお話したいことなんだけど…」
「私と…お話?あ、そっかそれで起こされたんだったね私…」
「ええ、まずはこれだけは言わせて欲しいの…きっと怖がらせてしまったから…ごめんなさい…私がもっと彼らを管理できていれば…戦争なんて無ければ…もっといい和解方法があったはずなのに…」
「…え???」
「これは心からの気持ちなの、目の前で姉が遠くに行ってしまう、きっと恐ろしい体験だったでしょう?まだ幼いのに…私達は酷いことを…」
「え?ええ???」
まさかの謝られるなんて全く思ってなかった私はさらに困惑してしまう、なにか企んでいるのかなとも思ったけどその目にはうっすらと涙が浮かんでいて…
「どうか…許して欲しいとは言わない…怒りをぶつけるなら私にお願い、彼等は私の部下とも言えなくもないから、責任は私にある…あなた達を攫うことを許可したのも私だもの」
「…そう…だったのですね…」
当然怒りをぶつけたい気持ちはあった、ただ正直相手があまりにも予想外の行動を取ってきたものだから先にその理由が気になってしまった
「怒ってはいます…でもそれよりどうして急にそんな態度を???私はてっきり…魔族とは話の通じない化け物の集まりだと…」
「いえ、その認識であってるわ、人と魔族は分かり合えない、魔族達は嬉々として人を虐げるのを好むし家畜程度にしか思ってないもの…」
「そ、そうなんですね…」
「でもね…私も元は人間だったの、あなたの姉たちと同じような…ひょんなことから私は魔族の姫になってしまったの…」
「あなたも…人間なの???」
とんでもないことを聞かされている気がする、当然すぐには信じられないけどもしそうならさっきから気になっていたこの態度に説明がつく
「すぐには信じられないでしょうけど…真実なの、そしてだからこそ私はこの人と魔族、天使達の戦いをできるだけ平和に終わらせたいの」
「平和に…終わらせたい???」
(じゃあなんで私の街を滅ぼしたの?なんであんな恐ろしいことを私達に???)
なにかがブツッと切れた私は全力でその魔族を殴っていた
「!?」
「なんでお前がっ!謝るの!私の全てを奪っておきながら!なんでそんなことを今更言うの!?街を滅ぼしておきながら!私の父さんお母さんだって生きてるか分からないのに!お姉ちゃん達まで奪っていった!この化け物!死ね!なんで私なの!なんで!なんで!?」
激情に任せるまま彼女を殴る、彼女は痛くも痒くもないのか全く傷を負う気配は無い、それどころか服すら乱れていない、魔族と人間の力の差とはここまで残酷なのか、私は何もできなかった。
「嘘…あの4人…あんた達の街を滅ぼしたの???嘘でしょ…」
「お前が指示を出したんでしょ!あいつらの責任者!とぼけないで!この化け物!」
大量の涙を流し始めた目の前の魔族は唐突に膝から崩れ落ちた、そして土下座し始めた
「ごめんなさい…私は…なんてことを…捕まえてくるだけだと思っていたのに…そんな酷いことを…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「許せるわけ…ないじゃん…」
………
彼女が謝りだして数分後、その魔族に声をかけた
「あの…もう謝罪はいいですから…許しはしませんけど、なんであんなことになったか聞かせてくれませんか…」
そう、彼女は本気で許しを乞うているように見えたのだ、許されないとはわかっているのかもしれないけど、それでもこうすべきだとでもいいたいかのように泣きじゃくりながら
「…え、えぇ…私は…戦争を終わらせたいの、そのためには…人と天使、女神を平和な形で支配しないといけないの…」
「…その結果があの虐殺なの?」
「…あれは私も予想外だった…あの4人がそこまで残酷な奴だとは思わなかった…全部私が悪いの…ごめんなさい…」
「………」
「戦争を終わらせる方法なんだけど…それにはまず仲間が欲しくて…できれば私と同じ人間から魔族へと変わった仲間が欲しかった…その仲間たちと魔族を内側から変えていきたいの…このままじゃどちらかが暗い末路を辿るしかないから…」
「それなら君たちが滅びればいいじゃん、こんな化け物たちは生きてちゃいけないよ…」
「えぇ、その通りだと思うわ…でも私は魔族に限らず人も天使も好きなの…でも今のままじゃどちらかが不幸にならないと戦争は終わらない…みんな幸せになった上で戦争を終わらせたいの」
「そんなの無理だよ、私達は魔族が居なくならないと幸せになんてなれない、魔族になんてなりたくない」
「そう…よね…ごめんなさい…」
そう言い彼女は下を向きポロポロ涙を流し始める、その表情は悔しさと後悔が混じっているように見えた
「でも…少し聞きたいことがあります…」
「え?」
そう、さっき彼女が言っていた自分も元は人間だったというお話、もしそれがホントなら彼女も被害者なのではないか、本当はこんなことしたくないのではないか、そう思って彼女に聞いてみる
「あなたはさっき自分は元々人間だと言っていました…もしそうならあなたも被害者なのかなって…」
怒ってしまって失念していたがもしそうなら私はとんでもないことをしているかもしれない、怒りをぶつけるべき存在を間違えているのかもしれない、そう思った。
「私は…人として死んで…気がついたらこの魔族、サナト・リアナに生まれ変わっていたの…昔は学校に通いながら友達と楽しく過ごしてたのに何もかもが変わって、でも私の親にあたる魔王とか魔王妃とか…さっきの魔族達も大事で…もちろん人間だって大事で…」
「………」
「魔族達は残酷で…私も受け入れられなかったけど…彼らと関わっていく中で彼等もちゃんと生きていて…だからどちらか一方じゃなくてみんな幸せにするには内側から変えていきたかったの…そのための魔族化を考えていたんだけど…まさかこんなことになっちゃった…」
「あなたなりに考えていたんですね…」
「えぇ、でもそれしか道はなかった…と言うべきかもしれないわ…魔族以外を徹底的に排除するか奴隷にするしかしない魔族を変えるには…私と同じ元人間の魔族が内側から行動するしかないの…」
「人を守るためにって理由でこんな酷いことをしてしまった…本当にごめんなさい…」
そう言い悔しそうに涙を拭く、悲痛な声で…とても嘘を言っているとは思えない、突き放すこともできたかもしれないけどそういった気は少し薄れてきた
「お願い、私に協力して欲しいの、今後こんなことにならないように…あなたの力が必要なの…」
「その理想のために…私に魔族になれと???」
「そうしないと…また彼らがあなたを虐げるから…もし彼等が憎いなら彼等に負けないくらいの力を与えるわ…」
「彼らに負けないくらいの力???」
「ええ、まず私のステータスなんだけどね…こうなってるの…」
そう言い彼女はステータス表示用の石版に手をかざし
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サナト・リアナ レベル2147483647
HP:2147483647
MP:2147483647
攻撃力:2147483647
魔力:2147483647
防御力:2147483647
精神:2147483647
速度:2147483637
幸運:2147483647
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「!?ひっ…」
意味のわからない数値がそこにはあった、こんな化け物が私の目の前にいる…私は震え上がってしまい倒れそうになってしまった
(でもこのステータスなのに力で支配していないってことは…)
そう、こんな力があればすぐにでも人を支配し、天使や女神様を一瞬で滅ぼせただろう、それをしていないということは先程彼女がいっていたことは本当に心から望んでいることということになる
「これだけの力が私にはあるの…正直こんな力必要ないけど…できればみんなが幸せになれる道を掴むためにこの力を使いたい、それをあなたにも分けてあげたいの」
「そう…なんですね…」
彼女は本気のようだった…途方もない理想に聞こえるけど彼女ならほんとに成し遂げられそうな気もする…でも少し不安はある…なら…
「わかりました、私はあなたに協力します…魔族に…なります」
「!?ほ、本当に!?」
「はい、でもあなたの手で、さっき言った力を私にくれることと、私があなたの傍であなたを見守ること…それが条件です」
「ええ、それは当然よ、必ず強くしてあげる、それと私と共に歩んでちょうだい」
こうして彼女の提案を受け入れ、共に歩むことを決めた私は疲れからか血を吸われた影響からか、そのまま眠ってしまい次の日を迎えるのだった
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