第3話 魔族の姫、始動
しばらくして父と母が心配そうに駆け寄ってきた。
「リアナ!無事か!!」
「リアちゃん!!大丈夫???どこも怪我してない???」
「お……お父様、お母様………」
このふたりは私の親であり魔王と魔王妃でもある、この世界において頂点に君臨する者の1人、魔王サナト・ヴルムと魔王妃サナト・ルイナだ。
何事もなければ今頃生きている彼らを見れたことに歓喜しガン見タイムが始まっていたことだろう…だが今はそれどころじゃなかった。
「お父様………お母様………私………とんでもないことを………」
「大丈夫だリアナ、私たちが到着したのだ、落ち着いてくれ」
「えぇ、既に気絶してしまった子達は回復魔法が使える子に任せたわ、建物の修復もすぐに済むはずよ」
「あぁ、だが問題は…あれだな……」
そう言い父は空を見る、ぱっくり裂けてしまった空、そこからは地上…人間界と思しき景色が見える。
そうここは魔族達が住む魔界であり人間は人間界に、天使や女神なんかは天界に暮らしている、私は3つの世界を隔てる空間の壁に大きく穴を開けてしまった。
「あれを修復するのは骨が折れるな…数週間はかかりそうだ………」
「とはいえあのままだと魔界の瘴気が漏れ出て危険だものね…」
そんな会話を続ける2人、そして私に目を向け
「さてリアナ、とりあえず私の部屋に連れていくぞ、怒る訳では無いから心配はするな」
「そうね、私も着いていくわ」
「うん………ありがとう………」
そう言われ頭を撫でてくれる、少し時間が空いたのもありだんだんと落ち着いてきた。
そんなこんなでわたしは父の部屋へと転移した
「………まさかリアナにあそこまでの力が生まれていたとはな……驚いた」
「そうね、でもお母さん嬉しいわ、すごい強さを手に入れたのねリアちゃん!」
「え??……あ、うん…そうだね……」
先程とは打って変わって嬉しそうな雰囲気で話す2人、あんな恐ろしい事態になったのにどうしてそんなに嬉しそうなのだろう…そう思ったがすぐに答えが浮かんだ
(2人が…魔族だから?)
そう、この世界における魔族の設定を思い出したのだ。
【魔族は力と悪意、欲望が原動力となっています、強ければ強いほど成り上がることができ、力への誇りを強く持ち欲望を叶えるためにどんなで手でも使う存在、人間や天使の命を奪うことにも抵抗がなく、彼らを下位の生物として見ています】
私が考えた設定の一つだ、ゲームに登場する人間サイドの敵役になるのだからこんな感じがいいかなと軽い気持ちで決めたものだが…
今その設定が私の目の前に大きな障害として立ちはだかった、そして何故か私の心の奥底からなにか邪悪な欲望が渦巻いていた
”この力があれば人間どもで遊べる…羽虫のような天使共も蹂躙できる、そして全てを支配することも…ふふっ”と。
私が絶対考えないような思考が本能的に自分から湧き上がってくる、私の中にもう1人別の人物がいるかのような感覚…私は身震いしてしまった
「どうしたのリアちゃん?なんだか顔色が悪いけど…やっぱりどこか具合悪いの?」
「へ?あ、ううんそういう訳じゃないの、ごめんね心配かけて」
「大丈夫さ、さてリアナ、まずはステータスを見てみるとしようか」
そう言い石版のようなものを取り出す父、あれはステータス鑑定の石版、ゲームに登場するアイテムの一つだ。
(なるほど、アイテムを使えばステータスを数値化して見れるんだね)
そう言い石版に手を近付けると私のステータスが表示された。
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サナト・リアナ レベル2147483647
HP:2147483647
MP:2147483647
攻撃力:2147483647
魔力:2147483647
防御力:2147483647
精神:2147483647
速度:2147483637
幸運:2147483647
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(……なにこれ…ゲームではこんなステータスでは無かったはず…)
父や母も似たようなことを思ったのかあんぐりと口を開けて固まっている。
デバックをするために何度もこのゲームを遊んだ魔族サイド、人間サイドの主人公共にレベルMAXでもHPは人間の勇者が3万程、攻撃力は5000程度だった記憶がある、魔族サイドの主人公もHP4万弱、攻撃力は6000強とかだったはず…
(な、なにこれ…こんなのどう扱えばいいの…)
「す、すごいじゃないかリアナ!私よりも遥かに強い…いやというかもはやリアナ1人で世界を支配できるかもしれないな!」
「さすがリアちゃんね!いつの間にかこんなに強くなってるなんて…お母さん嬉しいわ!」
「あ、うん…そうなんだ…」
やはり2人は設定を如実に反映した正真正銘の魔族なのだろう、この異常な数値を見て喜んでいる、でも私は喜ぶことはできない。
だってこの世界は私が…私たちが何度も試行錯誤と失敗を繰り返して生まれた作品の世界なのだ、それをただ一方的に破壊するだけの力なんて欲しくない…私にとってはこの世の全てのキャラクターが愛おしいのだから、もちろんこの2人だって。
……でもそこには大きな心の隔たりがある、元人間の私、生まれながらの魔族である2人……
「こんな力…どうすれば…」
「ふむ…確かに制御ができないと意味が無いな、さっきのような大惨事になりかねないしな」
「あ、それなら四魔相のみんなを呼ぶのはどう?彼等なら喜んで教えてくれると思うよ」
「それは名案だなルイナ、よし、都合の良い時間を見つけて呼び出すとしよう」
「うん、わかったわお父様お母様…」
力の制御…確かにそれはできるだけ早く習得したいものだ、このままではいつ世界を壊してしまうか分からない、それだけはごめんだ。
キュルキュルキュル〜…
「あっ…」
お腹が鳴ってしまった、そういえばなんだかお腹がすいてきた気もする、つい恥ずかしくなり頬を赤らめる
「ふふ…まずはご飯の時間かしらね」
「そうだな、せっかくのリアナ覚醒記念だ、良い肉を使ってもらうことにしよう」
そうしてお父様が今後の私の予定を決めてくれた後ご飯の時間がやってきた、目の前に並べられる料理達、ゲームに登場した見た事ある物もあれば見慣れない料理もあった…ホカホカでとても美味しそうだ
「ふあぁ…」
「ふふ、なんだかリアちゃんってばいつもより目がキラキラしてるわね?可愛いわ」
「今日はリアナの覚醒祝いみたいなものだからな、普段より良い肉を取り寄せたぞ」
そういい私の前に見慣れない肉料理を置いた、脂身が程よく入っており赤と白の調和が取れた色合い、そのお肉をシェフと思しき服を着た豚魔族…オークが目の前で炙ってくれた、ジューっと香ばしい香りをたてている
(なにこれ…すっごい美味しそう…)
ヨダレがたれてしまいそうになりゴクリと喉を鳴らした
「いただきます…」
焼けたそのお肉を口に運ぶと舌から体全体に行き渡る旨味にびっくりしてそのままいくつか勢いに任せて食べてしまった、なんだか体の奥から力が湧いて来ているような気がする
(すごい…こんなに美味しいお肉は初めて…どんなお肉なのかな)
「ねぇお父様、お母様?このお肉はなんのお肉なの?」
始めてみるタイプのお肉だった、いわゆる異世界メシというやつか、ほんとに美味しい…気になったので聞いてみると
「ん?あぁそれはニンゲンのハツ肉、心臓の部位にあたるな」
「ングッ!?ゲホッ…ゴホッ!?」
「リアちゃん!?どうしたの?あ、もしかして噎せちゃった???」
「ははっ!リアナはお茶目だな!」
そう言いながら笑う2人、だが私はそれどころでは無い
(えっ?えっ???嘘…私今人肉を食べたというの?)
あまりにも酷い不快感が私を襲った、何も知らずに人肉を食べさせられていた、その上あまりにも美味しい…なんでこんなに人肉が美味しく感じるのか考えたがその答えはすぐに浮かんだ
(私が…魔族だから…だよね)
この世界の魔族は人間が主食…そう決めたのは私だ、それ以外のお肉も食べるには食べるが定期的に人肉を取らないとエネルギー不足になってしまうのだ、その設定が今私にも反映されてしまっているのだろう
(う、嘘…どうしよう…)
人間と魔族が戦争になったきっかけのひとつだったはずだ、魔族は食料目的、そして愉悦目的にも人間を殺して回る、食料という目的がある以上滅ぼされたりはしないがそれでも人間からしたら抗う理由には十分すぎだ、念の為確認しなければ
「お、お父様?この世界の人間って…確か食料目的含めた魔族による殺戮に抗うために戦争になってるのよね?」
「この世界?まぁそうだな、とはいえ我ら魔族というのはニンゲンが主食、そのニンゲンは下等種、上位者たる魔族には奪われ殺される、そういう存在なのだよ、それを受け入れず抗うという時点で奴らが底辺の存在であるのが分かるな」
「ほんとよね、せっかく私たちが殺してあげてるのに…それを喜ばないなんておかしいわ」
(えっ…下等種???殺してあげてる???それを喜べ???な、何を言ってるのこの2人は…)
とんでもない発言が2人から飛び出した、しかもそのことをさも当たり前かのように話している、凄まじい嫌悪感が湧いてしまう…
「数千年前に勇者なるものが攻めてきて一時的に不可侵条約が結ばれたこともあったが…当代の魔王は緩いやつでな、それを受け入れてしまったのさ…だから私は彼が退いた後魔王となりその条約を取り下げ侵攻を開始した、魔族の世界のためにな」
「懐かしいわね…私がまだ吸血鬼だった頃の話ねぇ…あの時は魔王の怠慢で勇者に負けて魔族達は苦しい生活を余儀なくされてたものね」
(…うん、ほんとにゲームの通りだ…この悪辣な魔王ヴルムスが条約を蹴って侵攻を始めちゃったからもうお互いに滅ぼし合うしか無くなった…そんな設定…)
一方的な条約破棄により両種は完全に敵対してしまっている、ルイナは苦しい生活というものの魔族の本能である他種族への攻撃性を発揮できないことを憂いているのだろう、そんな描写を描いた記憶がある
「ん?どうしたリアナ、何か他に気になることがあったか?」
「んー?どうしたのー?」
全く悪びれる様子もなくこちらの様子を見てそう話すふたり、怖い…目の前にいるのはこのリアナの親のはずなのに…あまりにも心の距離が遠すぎる、化け物と言って差し支え無いだろう
「いや…なんでもないわ」
今は変に刺激しない方がいいと思いそのまま食事を済ませる、あんな会話を聞いた後とはいえ残すのは良くないと思い食べかけのあの人肉だけを食べきってごちそうさまをした
「さてリアナ、四魔相らに訓練をつけてもらうことは決まったが…お前自身は何かしたいことはあるか?」
片付けが終わった後そう聞いてくるお父様、確かに私のやりたいことはまだ決まっていない
「そうね、せっかくすごい力を手に入れたんだもの!何でもしたいことを言ってちょうだい?」
そう言い2人は私を撫でてくれた、とはいえさっきあんなことがあったのでなんとも言えない気持ちになってしまう
「私は…どうしていいか分からないわ…冒険に出てみたい気持ちはあるのだけれど…」
せっかく前世で親友と共に作った世界なのだ、それが現実になったのなら冒険してまわりたい、しかし今の私は魔族、人間とは相容れない存在で敵同士…それどころか世界の敵と言ってもいいだろう、その上あのようなありえないステータスまである、そんな存在が冒険したら何が起こるかわからない
「ふむ、冒険か?てっきりリアナの事だからその力でより多くの種を支配したいと言うと思っていたのだがな」
(支配…もしかしてこれまでのリアナって支配欲の強い存在だったのかな…)
欲望に忠実な魔族の事だ、きっとそうなのだろう、リアナというキャラにはお助けキャラ以上の事をほとんど設定していなかったため知らない事だらけだ
「だがそうか、冒険か…ルグスもそう言っていたしいい機会だ、行ってくるといい」
「いいの?」
とんでもない力を得てしまった私、てっきり軍事利用とかされるのだとばかり思っていたが
「ああ、行ってくるといい、この世界は広くそして美しいぞ、いつか我ら魔族が支配するための世界だ、いくらでも好きに見て回るといい」
「えぇ、私達のリアナ、少し寂しいけどあなたが決めたことだもの、楽しんでくるのよ。そしてできれば頻繁に戻ってきてちょうだい…お母さん寂しいもの」
娘たるリアナの門出を惜しみながらも歓迎しているのだろう、なんだか顔が綻んでいた
「ありがとう、お父様、お母様」
そう言い2人は私を抱きしめた、魔族故時折怖い思考回路はあるもののそれもこのキャラの良さだろう、何せ私が設定したのだから。
私達が作った世界で生きる彼等の幸せそうな姿が見てみたい、彼等が自由に生きるさまを見ていたい
(そうだ、私はこんな意味のわからない力を得てしまったけど…それでも私なら…元人間で魔族に生まれ変わった私だからこそできることがあるんじゃないかな…)
私ならできるのかもしれない、こんなステータスだけど人間の心がある私なら魔族の姫という立場を使って魔族を内側から変えていくことが…それなら…
「お父様、お母様、私は…この世界を変えてみせる…戦争を終わらせてみせるわ!」
私はそう力強く宣言したのだった。
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