第2話 能力を検証してみよう


「翼…動く…赤い瞳の黒白目が3つ…角…なにこれ違和感すんごい…」


電車の事故に巻き込まれた私は自作ゲームの世界に転生した、そしてそのゲームに登場するキャラ、サナト・リアナに転生していた、未だ困惑している、以前までなかった部位が動かせる上、触れてしまう、違和感が仕事を辞めてくれない


「それにしても転生して地獄に落ちるなんて…いや、魔界って呼んだ方がいいのかな…」


窓から見える赤黒い空を見てそう口にする、ここは魔族達の住む世界…魔界だ、地獄と呼んで差し支えない場所、見える景色は赤い河やら禍々しい森等が広がっていてそこかしこで魔獣同士の争いや魔族同士の力比べが見て取れる…


「とりあえず状況を整理しなきゃ…」


机に座り手頃なメモ帳を開く、まずこのキャラクター、サナト・リアナについてだ。このキャラはゲームではお助けキャラとして登場する、魔族サイドのストーリーにて攻略が困難な敵を相手に何度も敗北した場合、お助けキャラを使うボタンが表示され、それを使うとチーム編成にサナト・リアナが自動編成される。


そしてこのキャラは基本無敵でありどんな敵もワンパンしてしまうキャラだがこの方法でクリアすると、正式なリザルトや報酬は得られないという形になる、魔族サイドの難易度が高いため作った行き詰まり防止用のキャラといったとこか。


ここまで詳しいのは私がこのゲームの作者の1人であり、キャラデザ、そしてシナリオライターを担当したからだ、このゲームに登場するキャラがどんな存在か、全て網羅している。


プログラムや音響は遥香ちゃんと愛莉ちゃんが担当した。


(うーん、でもこのキャラはお助け要素以外だとかなり登場シーン少ないんだよなぁ)


念の為メモ帳にリアナについての事を書き出しているが、このキャラはストーリーには大きく関わってこないのだ、このゲームは人間サイド、魔族サイドで分かれるマルチエンド式のゲーム、いくつものルート、選択肢があるもののそれでも出番は多くない。


「でもとりあえず自分の強さとか把握したいよね…ステータス!!」


転生物定番のセリフを言ってみる、ゲームの世界なのだから強さが数値として可視化されてもおかしくないと思っていたのだが…


シーーーーン…


そんな音が空耳で聞こえてくるくらい何も起きなかった


「あ、あれ…おかしいな、今ので表示される気がしたのに…」


素っ頓狂な声を出してしまった、とりあえず何も分からないので何かで実験してみるのが良いだろう。


「とはいえ部屋の中だしなぁ…外に出ないと」


さすがにここで自分の強さを実践確認する訳にはいかない、そんなこんなで外に出ようと思ったが…


(あれ…道わからなく無い?)


試しに部屋の扉を開けてみるとやたら長い廊下が広がっていてむやみに歩き回るのは迷子になってしまいそうだった、窓から飛び降りるのも考えたがさすがに自分の身体能力も分からない状態でそれは良くない


(どうしよう…あ、そうだ!)


「ネフィア、いる?」


恐る恐るその言葉を口にしてみた、リアナ姫の傍付き黒猫獣人メイド、ネフィアの名を


「ここに、お呼びでしょうか、姫様」


(ほ、ほんとにキターーーー!!!)


目の前に自分のデザインしたキャラが生きて動いている、感動するには十分すぎる理由だった、さっき自分の姿を見た時はどちらかといえば動揺が勝ってしまったが…そのぶんより嬉しい気持ちになる。


「どうされましたか?姫様、何やら目をキラキラさせていますが」


「コホン、なんでもないわネフィア、開けた場所に出たいんだけどお願いできる?少し体を動かしたいの」


「でしたら外にある広間にご案内しますね、こちらへ」


「ええ、ありがとう」


ゲームでのリアナの口調を真似てみる、どうやら不審に思われていないようだ。


(や、やばい…生きてる…ネフィア生きて動いてる…!!)


触ったりして色々確認したいがさすがにダメだろう、グッと堪えてガン見で我慢することにする。

ネイアの後ろを歩きながら猫耳やらしっぽ、服装や体を見て


(あぁ…私がデザインした姿そのままだ…)


「あの…姫様?そんなにジロジロ見られると…さすがに気恥しいのですが…」


「ひゃい!?ご、ごめんなさい!!」


しまった、ついガッツリ見回してしまった。いや、仕方ないじゃないか、私が愛をこめてデザインしたキャラの1人が生きて動いていたらガン見せざるを得ないというものだ。


そんなこんなで大広間へと着いた、転移魔法で一瞬だったため道は分からないものの転移魔法の使い方もちゃっかり教えて貰っている。



「こちらが広間です、姫様、なにか試したい魔法やスキル、攻撃等あれば遠慮無く放ってもらって構いません、もし威力に心配あるのでしたら空に向かって打ってください」


そう促されわたしは開けた場所に立つ


「あれ、姫様じゃないか?珍しいな大広間に来るなんて」


「おぉ、姫様だ…なんと麗しい…」


「姫様が訓練を!?一体どんな技を使うんだろうか…」


何やら注目を集めてしまったらしい、まぁ姫様が訓練しに来るイメージ確かにないもんなとか思いつつ


(どんな攻撃を試してみようかな…)


とりあえず放つ攻撃を考えてみる、とはいえ中身は凡人なのでこれといった体術とかそういうものは無いが…


そんなわけで適当に構え、空面目掛けて軽い手刀をはなってみる…


「ゴキャガガガガガガガガガ!!!バギバキバキッ!!!!!!」


聞いたこともない音と共に付近にあった木々が消え去る、それどころかその後ろの空間が強烈に歪む、私が手刀を放った方向めがけてぐにぃっと歪に潰れていき…

魔界の空に巨大な穴が空いてしまった。


(え…え???)


意味がわからなかった、わたしはただ軽く手刀をなっただけだ、それなのに。


「………ぁ………ひ……あぁ………」


声が出なかった、目の前で起きた超常現象に怯えその場で尻餅をついてしまう、もしこれを地面向けて放っていたら、魔界ごと滅ぼしていたのではないか…そう思えるほどの威力が込められていたようにすら感じる。


「ひ、姫様!ご無事ですか!?」


慌ててメイドのネフィアがすごいスピードで駆け寄ってくる、その顔は少し恐怖を宿しているように見えて…


「ネ…ネフィアっ!わ、私…私……!」


「少々お待ちを!!すぐに魔王様と魔王妃様をお呼びします!!」


恐怖に震える私の声、それを見てすぐに私の背中をさすり落ち着かせようとしてくれている、どうやら父と母を呼んでくれるようだった。


「あ………うん……お……お願い!!」


ほんの少しだけだが落ち着いたわたしは周囲を見てみる、衝撃波によって建物は大きくひび割れ、訓練場に居た他の魔族達は皆気絶している…おそらく私の力に当てられてしまったのだろう…


(そんな………どうしてこんなことに………)


何も分からない、私はこれからどうなってしまうのか、この力とどう向き合えばいいのか、父や母…自分の作った大好きな世界とキャラ達…それを一瞬で壊してしまえるような力が私に宿っている。


わたしはその事実に怯え、ただ震えることしかできなかった。

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