第27話 復活



 ナーダスが叫んで棺を破壊しようとした。棺に向かって杖を振り下ろしたが、棺に当たったとたん、体ごと吹き飛ばされる。


「何やってんだっ」


 ローワンが棺を壊そうと手を伸ばしたが、触れることすらできなかった。

 ラベンダーはもう立っているのがやっとで、指先すら動かせないでいた。その時、ガタガタと音がし出すと蓋がはじけ飛んだ。中には骸骨が体を折り曲げて横たわっている。骨組みはしっかりしていて、その骨を覆うように細胞の再生が始まっていた。しかし、人間の姿ではなく大きな肉の塊のようになっている。


(何が起こるの?)


 アニスは恐怖で震えた。リリーオブは白目を向いて失神してしまった。


「初代アレイスターが復活するのよ……」


 マーメイドが呟いた。


「なんで骨が残っているんだ」


 ローワンがいらいらしたように言った。ナーダスが起き上がって説明をした。


「アレイスターを破壊することはできなかった。だから、復活できないように、生まれ変わることのできなかった魔法使いたちで囲むと攻撃するよう魔法を仕掛けた」

「それを俺が解除したってわけか。全く面倒くさいことをしてくれる」


 ローワンが鼻で笑った。


「まさか、君がそんなに乱暴な男だなんて誰が思う」

「ふん」


 ナーダスとローワンが言い争っている。アニスは、ローズの祖先にそんな秘密が隠されているとは知らなかった。ラベンダーが言っていたことは本当だったのだ。


(アレイスターが復活したらどうなるの? それは悪いことなの?)


 アニスが尋ねると、ナーダスが息をついた。


「はっきりは分からないが、アレイスターは、生前に魔女や魔法使いを生産する方法を考えてきた。彼が生まれ変わって、また、たくさんの魔法使いたちを虐殺するようなら、絶対に阻止しなくてはならない」

「復活できる魔法使いは本当に少ないわ」


 マーメイドが言った。


「フェンネルもその一人よ」

(お師匠さまはどこに?)

「あなたの遺体を守っているわ」

(どうしたらいいの?)


 次々といろんなことが起きていく。アニスは自分の復活どころではないと思った。

 迷っているうちに、アレイスターの肉の塊が蠢き始めた。

 アニスは息を呑んだ。

 塊にひびが入り、それを突き破って指が出てきた。白くて小さな指だった。


「あれは一体……?」


 マーメイドが眉をひそめた。人々は思わず一歩後ずさりした。

 白い小さい指が出た後、白金の髪の毛をした裸の赤ん坊が塊から這い出てきた。

 全員、唖然とする。

 男の赤ん坊は中から這い出てくると、ごろりと地面に横たわった。ぴくりとも動かない。


「殺さなきゃ……」


 マーメイドが呟いた。


「え?」


 ラベンダーが、マーメイドを見た。


「今……、なんて言ったの?」

「今よ、今なら殺せるわ」

「ダ、ダメよ」


 ラベンダーはすぐさま反論した。


「赤ちゃんよ、まだ、目も見えていないのよ」

「だからよ」

「いいえっ」


 ラベンダーは薄紫の衣をさっと出した。赤ん坊を守らなきゃと思うと、どこからか力が湧いてくるようだった。ラベンダーは赤ん坊に駆け寄って布で抱きしめた。


「殺させないわ」

「そいつをよこせ、ラベンダー」


 ローワンが手を伸ばす。ラベンダーはその手を払った。


「嫌よ、この子は殺させない」

「そいつはアレイスターだ、この先何をしでかすか分からない」

「できないわ」


 ラベンダーは、ぎゅっと赤ん坊を抱きしめた。


「嘘だろ……?」


 ローワンが茫然と言った。

 ラベンダーの腕の中で、アレイスターがぐずり始めた。


(お腹がすいているんじゃない?)


 アニスが心配そうに言った。

 赤ん坊はくしゃくしゃの顔で手を動かして何かをつかもうとしている。ラベンダーは優しく見つめた。


「国に連れて帰って育てるわ」

「頼むからやめてくれ」


 ローワンが唸った。


「ラベンダー、そいつは魔法使いだ。連れて帰ってはならない」

「わたしが手放した瞬間に殺すの? 絶対にさせないわ」


 ナーダスは、困ったようにラベンダーに近寄った。


「彼の言うとおりです。アレイスターを生かすことはできません」

「嫌よ……」

「何事だ」


 その時、男の声がして振り向くと、フェンネルが呆れた顔で立っていた。


(お師匠さまっ)


 アニスがフェンネルへと飛んで行った。フェンネルのローブをつかもうとしてするりと通り抜けた。


「遅いぞ、アニス」


 フェンネルが目を吊り上げて怒ったが、その顔は優しかった。


(ごめんなさい……)


 思わず涙ぐんでしまう。自分を認めてくれる人と会えてうれしかった。懐かしさに涙があふれてくる。

 フェンネルは、アニスを見て顔をしかめた。


「その髪の毛は一体どうした。大方、意地悪な妖精にでも食わせたのであろう」

(話せば長いんです。でも……)


 アニスは、フェンネルの後ろにいる黒いローブを着た男性を見て、息を止めた。


(ジョーンズ……)

「アニス……」


 ジョーンズも息を呑んで、アニスを見つめていた。

 アニスは信じられない思いで口を押さえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る