第26話 攻撃魔法
立ち上がったラベンダーはふらついたが、自分の足でしっかり立った。すると、その時、ドアが開いて着替えをすませたリリーオブが現れた。
「ラベンダー、動いたりして大丈夫なの?」
「ええ」
ラベンダーは答えながらも、驚きで目を見開いた。リリーオブは、赤紫色のスクエアカットのロングドレスを着ていた。が、大きい胸でドレスがはちきれそうだ。
「ローズ姫のドレスだから、胸がきつくて」
自分なら恥ずかしくて人の前には立てないだろう。
ラベンダーはさっと目をそらすと、
「これで隠して、リリーオブ」
と言って手を振ると、黒いショールが現れた。
「……ありがとう」
リリーオブはいやそうな顔で受け取り、ショールを羽織った。
それを見ていたアニスは、腸が煮えくりかえりそうだったが、ラベンダーが何も言わないので我慢した。
「いいのよ、アニス」
気づいたラベンダーが、アニスの手を軽く撫でて、ナーダスを見た。
「あなたなら知っているのよね、アニスの肉体の場所を」
「ええ。では、急ぎましょう」
ナーダスが歩き始める。
「わたしは行かないわ。ここで待っています」
リリーオブが当然のように言った。
「ねえ、ローワンもいてくださるわよね」
ローワンの腕に手を置いて甘える声を出したが、彼はリリーオブの手を振りほどいた。
「悪いが、俺はこいつらと一緒に行くよ」
「そんな……」
リリーオブが不満そうな顔をした。
「なら、私も行くわ」
「好きにしろ」
「では、行きましょう」
ナーダスは部屋を出て回廊を歩き始めると、朝日の方角を見つめた。遠くの山の空は黒い影で覆われている。
「あれは?」
ラベンダーが聞いた。
「フェンネルが張った魔法陣の外側です。あの向こうは黒い闇で覆われている。今も、扉から黒い力を持った者たちであふれ返っていることでしょう」
(すぐに扉を閉めないといけないわ)
アニスは力強く言った。
「君の体はフェンネルが守ってくれている」
(お師匠さまが……)
ナーダスの足は墓地の方へと向かっていた。
「アニス、何か感じられるかい?」
(いいえ。妖精の国では強く感じたのだけど、今は何も感じないわ)
一行は墓地へと着いた。
「ここにあるの?」
ラベンダーが聞いたが、彼女の顔は真っ青だった。
「大丈夫かい?」
ナーダスが聞くと、ラベンダーは頷いた。
「ええ……」
「無理をしないで」
優しく言って、ナーダスは濁った池を眺めた。
「フェンネルの知り合いのマーメイドに、アニスの遺体を隠してもらったんだ。夕べ、フェンネルは墓が荒らされていると言って様子を見に来たんだけど……」
池は静まり返っている。フェンネルの姿どころか魚すら見えない。すると、ローワンが池の淵に立ち、投げやりに言った。
「この池には魔法がかけられているな」
「ええ。池に入れば、アレイスター城主の墓を暴きにきたと見なされ、死んだ魔法使いに攻撃をされます」
「だったら、そいつらの攻撃魔法を解除すればいいんだろ」
「は?」
ナーダスが眉をひそめると、ローワンが池に向かって手のひらを向けた。ローワンの羽が大きく広がり、手のひらに魔力が集まる。
「全てを解除せよ」
「ま、待てっ」
ナーダスがぎょっとしてローワンを止めようとした。が、ローワンの魔法が発動し、池全部が光った。その時、一斉に周りの墓地から無数の矢が飛んできた。
ナーダスは杖を振り上げた。
「シーダー、我々を守れ!」
トン、と杖を振り下ろすと、池の周りを囲んでいた杉(シーダー)の木から力が放出され、飛んできた矢から守られたが、急に池はシーンと静まり返り、ぶくぶくと泡ぶくが出てきた。そして、苔に覆われた棺が飛び出してきた。
「何てことだ……」
ナーダスが茫然と呟いた。
どんっと地面に落ちてきた棺には鎖がかけられていたが、空気に触れた途端、鎖は朽ちてばらばらになった。棺は頑丈にできていた。
アニスたちは何が起こったのか分からずに困惑していると、池の中から女性が現れた。金髪の美女で、一目でマーメイドだと分かった。
マーメイドは、作動した魔法を見て顔をしかめた。
「一体、何事? 誰が魔法を解いたの?」
「それどころじゃないんだ……」
「何言っているのよ」
マーメイドは、ナーダスを睨んでから、棺に気づいてぎょっとする。
「なぜ、これがここにあるのよ」
マーメイドはすぐさま手を広げた。
池の中から蔓が伸びてきて棺を池の中へと引きずり込もうとした。しかし、棺に触れただけで、蔓が溶けていった。
「まずいわっ」
(この時を待っていた)
しわがれた声がして、アニスたちが振り向くと、老人が立っていた。
ぼさぼさの白い髪は長くひげに覆われ、頬はこけて全身が痩せている。落ちくぼんだ目はぎょろりとしていたが、その瞳に力が宿っておりアニスはぞっとした。
(誰?)
(アニス姫、お前はよーく見ていろ)
老人がにやりと笑うと、棺の中へすーっと入って行った。
「アレイスターを復活させてはいけないっ」
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