第24話 アレイスターの執事



 一方、ローワンに助けられたアニスたちは、アレイスター城へと向かっていた。


「いい加減、泣くのはよせ」


 ローワンに叱られたが、アニスはラベンダーが心配でたまらなかった。山を越えた所で懐かしいアレイスター城が見えても、ラベンダーは目を覚まさい。

 ローワンは、アレイスター城の入り口に来ると、アニスとリリーオブを下ろし、すぐさま城門を叩いた。


「開けろ、今すぐここを開けるんだっ」


 今にも扉を壊しかねない勢いだ。すぐに門が開き、執事バトラーが現れた。


(チャールズっ)


 アニスは、見知った顔を見て声を出したが、彼には見えていなかった。

 執事チャールズは、ローワンを見上げて震えあがった。


「な、何ですかあなた方は?」


 ローワンは妖精の姿を隠していたが、普通の人間では有り得ないくらい大柄なので、180センチはあるチャールズも、ローワンを見上げて驚いている。


「今、主人は不在でございまして……」


 ローワンは、ラベンダーを抱いたまま強引に城の中に入った。後にリリーオブが続く。アニスも追ったが、危うく扉が閉まりそうになって慌てた。

 チャールズは、ローワンのような大男が相手ではどうにもならないと思ったのだろう。入口の呼び鈴を鳴らした。どこからか使用人が現れたが、ローワンは彼らを一瞥しただけで、中へと押し進んだ。

 手前の部屋は、ロング・ギャラリーで立派な美術品と大きなソファがいくつか置かれていた。ローワンは、ソファにラベンダーをそっと寝かせた。


「医者を呼べ」


 ローワンが吠えたが、使用人たちは何が何だか分からずおどおどしているばかりだ。そこへ、のんびりとローズが現れた。


「何事です?」

(ローズっ)


 アニスが駆け寄ったが、当然、ローズには見えない。


「まあ、あなた方はどなた?」

「お前らの仲間のアニスを助けたらこんな目に遭った」

「そんな、アニスは亡くなったのよ? あり得ないわ」


 ローズは手を合わせると悲しそうな顔で言った。

 アニスは目の前にいるのに、分かってもらえず悔しくて唇を噛んだ。


(ローズ、ラベンダーを助けてあげて、お医者様を呼んで)


 聞こえないと分かっていたが、さらに使用人が増えて、その中にナーダスが混じっていた。


(ナーダスっ)


 アニスが飛びつくと、彼はぎょっとした顔で後ずさりした。


「まさか、アニスっ?」


 魔術師には見えるのだ。アニスは、彼のローブにしがみついた。


(ラベンダーの意識が戻らないの、お願い助けてあげて)

「君、その髪はどうしたんだ?」


 ナーダスが手を伸ばして、短い髪に触れる。


「ばっさりやられている。何があったんだい? いや、それよりも、君は早く肉体へ戻らなくては」

(いいえ、それよりもラベンダーが先よ)


 アニスの必死なさまに、ナーダスはようやく事の次第が分かったようだ。ソファで眠るラベンダーに近寄る。


「なんて綺麗な人だ……」

(妖精の王女様よ)


 ナーダスが触れようとすると、ローワンがその手を振り払った。


「触るなっ」

「あなたは?」


 ナーダスが手をさすってローワンを睨む。


「こいつの夫だ。早く医者を呼べ」

「眠っているだけのように見えますが」

(でも、騎馬隊に襲われたのよ)

「えっ」


 ラベンダーの顔色は真っ白だったが、外傷があるようには見えなかった。

 ナーダスは周りにいた使用人に向かって、シャルを呼ぶように伝えた。

 シャルは、アザミの妖精だ。使用人に交じって後ろの方でそわそわしていたシャルは、突然呼び出され、びくっと肩を震わせた。


「お、お呼びになりまして? まあっ」


 シャルは、魂だけのアニスを見ると目を丸くしたが、次にラベンダーを見て仰天した。


「王女様、なんてことっ」

「外傷がないか、調べてほしいんだ」


 シャルは体を震わせ、おそるおそる近づいた。アザミの花びらをラベンダーの体に振りかける。しかし、アザミは光らなかった。


「外傷はありませんわ」

「確かかっ」


 ローワンが叫ぶと、シャルはびくっと震えあがった。そして、傍らに王がいることに気づいて、あんぐり口を開けた。


「まさか、王様まで……」

「おい、質問に答えろ」


 ローワンの大声にシャルが小さくなる。


「は、はい、王様、間違いありません」

「そんなはずはない」


 ローワンは納得がいかず、シャルに詰め寄った。


「ですが……」

「ローワン、そんなに怒鳴っては皆さまがかわいそうよ」


 リリーオブがのんびりと言って、胸の間から小瓶を取り出した。

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