第17話 美味しいワイン?



 ローズマリーの妖精はどんどん進んでいく。

 アニスは少し不安になった。


(ねえ、どこへ行くのっ?)


 妖精は答えなかった。

 アニスが目をやると、小道の先にあるという池が見えてきた。

 池にはたくさんの鳥が生息していた。


(あっ、鳥に頼むのね)


 アニスが一人ごちると、妖精が頷いた。


「鳥の背中に乗って城まで行くよ。その方が早いと思うんだ」


 妖精はそう言って地上へ降り立った。アニスは、ラベンダーを寝かせてから、異変を感じた。鳥たちが騒いでいる。


(何かあったの……?)


 ラベンダーを引き寄せようとして、手に力が入らないのに気付いた。髪の毛を奪われた分、力も失ったような気がする。


 妖精は、一羽の鳥を捕まえると何やら囁いている。


(なにを言ったの?)

「鳥たちの様子がおかしい。この池の見張り番の鳥がいなくなったって」

(見張り番?)

「アレイスターに飛んだって」

(見張り番の鳥がアレイスターに? じゃあ、ここから近いのね)


 アニスは安堵した。ローワンを呼び寄せるより、アレイスターへ行く方が早いかも知れない。


(アレイスターが近いのなら、わたしたちを連れて行って)

「池の向こうの山を越えれば、アレイスターだ」


 アニスは山を見上げた。

 黒々とした大きな山だった。歩けばひと月近くはかかるだろう。


(あなたなら超えられる?)


 妖精は首を振った。


「無理に決まってる」

「ん……」


 その時、ラベンダーが顔をしかめて目を開けた。


(ラベンダーっ)

「アニス?」


 ラベンダーは起き上がろうとしたが、力が入らずに顔に手を当てた。


「ここは?」

(アレイスターはあの山の向こうよ)


 アニスの言葉にラベンダーは必死で目を開けたが、意識が朦朧としていた。


「わたし……、おかしいのかしら? アニスが男の子に見えるわ」

(間違いじゃないかも。髪の毛を妖精に取られちゃったのよ)

「よく分からないけど……」


 ラベンダーは苦しそうだった。


(大丈夫?)

「ダメみたい。すぐには動けないわ」

(何か欲しいものはある?)

「ワインが飲みたいわ……」

(え?)

「いいえ、何でもないのよ……」


 ラベンダーが恥じたように顔を逸らす。しかし、アニスは聞こえていた。彼女は確かにワインが欲しいと言ったのだ。


(探してあげるわ)


 ラベンダーの持っていた袋を見ようとしたが、触ることができなかった。


(ねえ、妖精さん、この袋の中からワインを取り出して、ラベンダーに飲ませてあげて)


 妖精は袋の中身を確認すると、たくさんの食べ物と赤ワインを見つけた。妖精が グラスに注いでラベンダーに差し出してくれた。

 弱っているラベンダーは起き上がれず、アニスは残っている力を振り絞り、ラベンダーの体を起こした。

 何とか座ることができたラベンダーはグラスを取った。ワインの香りを嗅いで、口に含むとごくりと飲んだ。

 顔に血の気が戻り、ほんのりと赤い顔になる。


(大丈夫?)

「ええ」


 ラベンダーは頷くと自分でもう一杯、いだ。


(そんなに飲むと酔うわよ)

「これくらいじゃ酔わないわ」


 ラベンダーは飢えたようにワインを飲み干すと、あっという間に空になってしまった。アニスは青ざめた。

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