第8話 埋葬されたアニス
アレイスターが浮遊しながら、池の方を見つめた。
(俺はここで長いこと魔女や魔法使いを生産する方法を考えてきた。俺の墓を取り囲んでいるのは、生き返ることができなかった魔法使いたちの墓だ。俺の息子や孫たちはそれを忌み嫌い、俺の墓を池の奥深くに沈めた)
ジョーンズはぞっとして、改めてアレイスターを見つめた。
深いしわの奥に隠された残虐な横顔は冷ややかな目で池を睨んでいる。
(これらの墓には結界が張られている。俺が復活せんようにな)
「つまり」
ジョーンズはごくりと唾を飲んだ。
アレイスターは楽しくて仕方がないという顔をした。
(つまり、俺の墓を暴くのは、この周りを取り囲む魔法使いたちの魔法を回避せねばならんと言うことだよ)
くっくっくと笑いだす。
「なぜ、笑っているのです。たやすいことではないでしょう」
(だからだ。俺は困難であればある程、楽しいんだ。お前がもだえ苦しむ姿を見るのが心地よい)
「くそっ」
ジョーンズは毒づいた。
汚い言葉を吐きだし、最近、言葉遣いがなっていないな、と自分でも思う。
全く、こんな厄介な墓場で、フェンネルとナーダスはどのようにしてアニスを埋葬したのだろう。
フェンネルの澄ました顔を思い出す。
きっと彼はジョーンズが苦しむ姿を思い描いて、アニスを埋葬したのだ。
魔法使いってのは、どうして、こんな意地の悪い輩が多いんだ。
ジョーンズは、黒い池を睨みつけた。
周りを囲む墓にどんな魔法が隠されているのだろう。
こうしている間にも、アニスの肉体が朽ちていく。
「アレイスター城主、魔女はどのようにして復活するのですか?」
(簡単なことだ。自害するか、他人に殺されるかして死んだ後にもう一度、魂が肉体へ戻り、脱皮すれば復活できる)
「脱皮……」
想像するだけでおぞましい。アニスにそれを求めるのか。
(迷っているな。お前も魔法使いの一人だ。もっと力を得たいのなら、今ここで死んでもいいぞ。俺が葬ってやろうか)
ジョーンズは、その冗談には答えなかった。
「要は、死ねば、その資格が得られるんですね」
(まあな。それより、そんなくだらないことを聞くより先にアニスを助けんと、彼女が復活しても水の中だぞ。それに、まわりは恨みのある魔法使いたちの魔術が待ちかまえている)
「なんだってフェンネルはそんな危険な場所に埋葬したんです?」
(アニスは扉を塞ぐ唯一の鍵だ。フェンネルは、時期を見てアニスを復活させるつもりかもしれない。もし、アニスの肉体を奪われ、消滅させられればおしまいだからな)
アニスにそんな役割があったなんて……。
ジョーンズは愕然とした。
「それなのに僕は何も知らず……」
(いいから、さっさとしろ!)
しびれを切らしてアレイスターが怒鳴る。
短気な老人だ、と彼を睨んだ後、池の方をよく見ていると、浅瀬に白い鷺が立っているのが見えた。
「あれは?」
(どこにでもいるコサギだな)
「こんな夜更けに魚を取っているのか?」
しかも、アレイスターが眠る池の魚を。
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