第7話 アレイスターの墓



 ローブを羽織ったジョーンズの体は、スッと闇に解けこんだ。

 辺りは暗く何も見えない。


(この暗闇の中を歩けるかな?)


 アレイスターが茶化すように言った。

 正直、ジョーンズには何も見えておらず、一歩足を出すだけでも苦戦した。


「残念ながら、前に進めそうもありません」

(光を)

「僕がですか?」

(他に誰がいる。俺は亡霊だ。力は使えない)


 ジョーンズは魔法の使い方などさっぱり分からない。

 どのようにしたらいいのだろうか。


(ほら、早くしろ)


 アレイスターは急かしたが、その顔はにやにやと笑っていた。

 明かりといっても炎を燃やすということだろうか。しかし、どのようにして火をおこせばいいのか。


 魔法使いたちはただ思い描いただけで、自由に魔法を使うことができるのだろうか。


 ジョーンズは頭がぐるぐるしてきた。

 暗闇で茫然と突っ立っていると、アニスの顔が浮かんできた。色白の彼女の髪の色は白金だった。彼女の髪は美しい。思い出していると、ジョーンズ、と呼ばれた気がした。


「アニス……」


 君が死んだなんて僕は信じない。


 ジョーンズはぐっと奥歯を噛みしめた。


「アレイスター城主に輝きを」


 目の前で浮遊する彼に向かって言葉を放つと、あたりを浮遊している小さな生き物が、アレイスターの周りにびっしりとくっついて光を放ちだした。

 彼はぎょっとしたが、けたけたと笑いだした。


(目的は違うが、まあ、いいだろう)


 ジョーンズは、光るアレイスターの後を追いかけた。


 さらに気温が下がり、墓地へとたどり着く。真っ暗な闇の中に数えきれないほどの墓が整然と並んでいた。どれも同じように見える。


 まさか、本当にアニスを埋葬したのだろうか。

 ジョーンズの心はざわざわした。


「アニスは本当にここにいるのですか?」

(フェンネルは、一番安全だと思われる場所へアニスを隠した。そこがこの墓地だ。俺の墓を探してみろ)

「あなたの……?」

(ああ、そうだ。あいつは俺の墓の中に姫を埋めたのだよ)


 ジョーンズはごくりと喉を鳴らした。


「光よ、アニスの元へと導いて欲しい」


 試しに言ってみたが、何も起こらない。

 ジョーンズは大きく息をついた。


(俺の墓だ。探せ)


 アレイスターが背後から囁いた。

 この中にアレイスターの墓があるのだ。


 どれだ?

 彼は初代アレイスター城主だ。さぞ、立派な墓に違いない。しかし、飛びぬけて立派な墓、苔に覆われ今にも朽ちそうな墓はない。

 それに、一番安全な墓だと選んだのだ。目立つ墓ではないだろう。


 暗闇で目を凝らすと真ん中には大きな池があった。無数の墓はその池を取り囲むように整列して並べられていた。


「……まさか、池の中?」


 アレイスターがにやりと笑った。


(そうだよ。俺がいかに愚かな老人だったか、分かるだろう)


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