第6話 ジョーンズの覚醒




 アニスの声だ。彼女の声が聞こえた。


 ジョーンズはハッとしてもがきながら、大きく息を吸い込んだ。

 手足が戻り、髪の毛が生える。口と目も戻る。


 ――はっ。


 ジョーンズは息を吹き返した。

 ぜいぜいと息を切らし目を覚ます。

 生きていた。全身にびっしょりと汗をかいている。


 バカな真似をした。息を止めすぎて死ぬ所だった。

 体を起こそうとして、ぎくりとする。すぐに自分の異変に気付いた。


 何か、変なモノが視えている――。



 ジョーンズはぞっとした。

 気がつけば、黒い影が自分を取り囲んでいた。肩に置かれた骨ばった灰色の指。真横には冷たい息を吹きかける老人が立っていた。

 死者の魂が、彼を取り囲んでいた。

 うつろな目をした若者。美しい顔をした女性の頬には十字に刻まれた跡があった。そして、髪の長い男が鋭い目で自分を見ていた。


(――セント・ジョーンズ・ワートの末裔よ)


 どこからか声がした。

 ジョーンズは、ごくりと喉を鳴らした。


(聞こえているのは分かっている。貴様のチャクラは解放された。残っているわずかな魔力が今、全開しているのだ)


 しわがれた声が頭に響く。


「だ、誰だ…?」

(俺は初代アレイスターだ)


 ジョーンズは目を見張った。ローズの祖父。ジリアン・アレイスター。


 アレイスター城主はにやりと笑った。

 皺だらけの顏は不気味だった。ローズと彼の血が繋がっているとはどうしても信じられない。


(読ませてやったのは、探していた蘇りの書さ。おめでとう。今すぐ俺について来い。墓場へ案内してやろう。貴様の愛した女を掘り起こす手伝いをしてやる)


 ジョーンズは震える手足を奮いたたせた。


「待ってください。死体を掘り起こしても、生き返るわけではないですよね」

(貴様の解放された頭で考えろ。貴様は、無限の力を得たのだ。アニス姫を生き返らせられることなど、たやすいことだ)


 ああ、神よ!

 ジョーンズは祈りを捧げた。


 目の前に亡霊となった初代アレイスターがいる。

 ジョーンズは、アレイスターの後に従う自分こそ、夢ではないだろうかと思った。いや、夢ではない。間違いなく視えているのだから。


 アレイスターは書斎のドアをすーっと抜けて部屋から出て行った。

 ジョーンズは唖然としたが、置いていかれないように慌てて部屋を出ようとすると、にゅーっとアレイスターがドアをすり抜けて戻ってきた。


「わっ」


 ジョーンズが驚くと、アレイスターが言った。


(重要なことを言うのを忘れていた。今、外は闇に包まれている。ただの闇じゃないぞ、暗黒に支配された闇だ。冥界の扉が開いたと同時に世界は変わった。お主のその格好で出れば、すぐに黒い者たちに匂いを嗅ぎつかれるだろう。この部屋のどこかに祭服ローブがあるはずだ。それを羽織ってもらう)


 ジョーンズは部屋の中を見渡した。黒いローブが壁に掛けてあった。


「こ、これでいいでしょうか」

(うん、いいだろう)


 アレイスターが満足そうに頷く。

 ジョーンズはローブを羽織ってみた。 

 身長が高く、体格のいいジョーンズだったが、ローブは体にぴったりだった。


 フードを深くかぶり、アレイスターの後を追う。

 外はひやりと冷たく、嫌な臭いがしていた。


「この臭いは……?」

(獣だな)


 アレイスターは、それ以上何も言わなかった。

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