第5話 アレイスター城にて



 いつの間にかうたた寝をしていたらしい――。


 その頃、ジョーンズ・グレイは、アレイスター城の書斎で倒れていた。


 ジョーンズは、アニスを復活させるために書斎までたどり着いたが、いざ『蘇りの書』を探そうと意気込んだ瞬間、意識を失っていた。

 どれくらい気絶したのか分からない。

 ようやく目を覚ましても、まだふらふらしていた。


 うたた寝ではなく気絶していたのかもしれないな。

 ジョーンズは苦笑して、体の節々を鳴らした。


 だいぶ、弱っている。何か食べないと体がもたないかもしれない。


 床に手をついてゆっくりと立ち上がり、書斎にある膨大な本を見上げた。

 この中にあるのだろうか。もしかしたら、探しているものはないかもしれない。


 ジョーンズは唇を噛んだ。

 自分の無力さに腹が立つ。先祖に魔法使いがいても自分は役立たずで何もできない。


 天井が回り出した。腹が減っている証拠だ。部屋を見渡すと、机にサンドイッチが置いてあるのに気づいた。

 ローズが置いて行ったのだろう。

 彼女が入って来たことにも気がつかなかった。


 サンドイッチを貪るように食べて、赤ワインで飲み干した。サンドイッチは噛みしめるごとにパンとハムやレタスの味が美味しかった。赤ワインの芳醇な香りに涙が出そうになる。

 お腹が空いていた。でも、泣いている場合じゃない。


 空になった皿を脇にどけて、新たにアニスを助ける方法を考えようと思った。

 立ち上がり、目の前にある本を手に取ってみる。


 本かと思ったら、日誌だった。

 アレイスター城主の日誌らしい。

 試しに開いてみると、『七つの鍵』とやらについて書いてあった。


 『七つの鍵。大いなる門の七つの鍵――』


 大いなる門ってなんだ?


 そして、日誌には、チャクラについて記してある。

 ジョーンズは、チャクラについて祖父から聞いたことがあった。


 日誌は、分厚く何年にもわたって書かれたものだったが、ジョーンズの目に文字が飛び込んできた。アレイスターの日誌と祖父の話が重なる。


 魔法の波に体をゆだねよ。そこに自分がいるかのように――。


 祖父から教わったことを試したことはなかったが、試してみようと思った。

 ジョーンズは、日誌に書かれてある通りに試してみた。


 ジョーンズは目を閉じて、わざと体の動きを封じた。

 息をすることだけに集中する。大きく息を吐いて、呼吸を深くした。

 穏やかな気持ちになり、場に溶け込んでいく。


 アニス――。


 アニスのことを思い浮かべた。

 髪の毛、目、唇、手足、声、アニスの輪郭、彼女が呼吸している姿を思い描いた。

 そのうち、ジョーンズは自分がどこにいるのか息をしているのか、自分も死んでしまったのか、分からなくなった。


 海の上に凪いでいる風になったように、それを見ているカモメになる。すると、突如、内側から熱い炎が燃え盛り、目の中までも燃え尽くした。指先まで燃えて灰となる。灰は風に吹かれ、塵となって漂っていく。塵は空気に溶け込み、目の前を黒い犬が駆け抜けて行った。黒い犬は涎を垂らし、地上を走り抜けていく。ジョーンズはそれを追いかけた。黒い騎馬隊を追い越し、いつの間にか背中に翼が生えて小さな鳥となっていた。黒い軍団を追い抜いた先に、白い花が咲いていた。


 アニス!


 アニスの花が群生となって咲き誇っている。

 ジョーンズの目から涙がこぼれた。

 涙は雨となった。雨はアニスの上に降り注いだ。

 雨はジョーンズの体を貪るように力を奪い、彼の肉体は消えた。


 ジョーンズっ。


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