第2話
「ひ、姫宮さんっ!」
狼狽した様子のリーダー。
同時にリーダー(袴田兄)の攻撃が止まり、僕は意識を持ち直す。
そのまま声がした方へ目を向けると、艷やかな黒髪を腰までのばした美女が向かってきていた。黒いズボンをはき、白いシャツの上に黒いジャケットを羽織っている。ややきついながらも驚くほどに整った顔立ちに思わずほうっと息を呑む。
袴田は栞を解放し、頬を赤くして放心したように姫宮と呼ばれた女性を見つめていた。
栞は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていったん座り込んだものの、すぐに僕のもとに駆け寄って僕のお腹をさすってくれる。泣き顔を腫らしているにも関わらずかわいい。やはり美少女というのはすごいな。
姫宮は僕らのところまで来ると、
「何してんの?」
リーダーに問う。近くで見ると大きいな。180近い?
「こいつらを…」
絞り出すように声を発するリーダー。
「うん」
「その、えっとあの…」
口ごもるリーダー。
「うん、その?」
「ぼ、ぼ、ぼこしてました!」
「うん、そりゃ見りゃ分かるんだけど、」
姫宮はリーダーの顔をしばし注視した後、
「…ところであんた誰だっけ?」
そう言い放つ。
リーダーはとたんに捨てられた子犬のような顔をし、
「お、俺ですよ俺、去年の秋にあなたに瀕死のところを助けてもらった…」
そこではっと思い出したかのような顔をする姫宮。
「鈴木!」
「そうですすず…え?」
パッと顔を輝かせたのも束の間、きょとんとした顔になり、瞬く間に表情を曇らせる袴田兄(リーダー)。百面相みたいだ。
「え、いや、袴田です。」
何とか言葉を紡ぐ袴田兄。
「ん、はかまだ… 墓真田?」
思い出せない様子の姫宮に、いよいよ泣き出しそうになる袴田兄。
兄弟揃って分かりやすいな、と、ふとどうでもいい感想を頭に去来させていると、姫宮が今度はこちらを振り返る。
と、目を見開き、一瞬呆けたように口を開ける。
すぐに口を閉じると、
「君は、大丈夫?」
そう声をかけてくる。思ったより優しい雰囲気で、思わず見惚れてしまう。
「は、はい。大丈夫です」
答える僕。姫宮さんから目が離せない。
そんな僕の様子を見た姫宮さんは、ふっと頬を緩ませると、
「そうか、しかし何かあっては困る。私の家に来な。体を見てあげよう」
なんてのたまう。
「えっ」
「なっ?!」
同時に声を上げる僕と栞。
「いや、でも」
僕は躊躇う。
「いいから、後遺症がないとも限らないだろう。君に何かあったら私も寝覚めが悪い。人助けだと思ってくれればいいさ」
「そういうことなら。でも、栞も一緒に見てやってください」
「栞? ああその子か、いいよ」
そう言って姫宮さんは僕に手を差し出す。
姫宮さんが差し出した手につかまる僕。
気付くといつの間にかおんぶさせられていた。
そのまま姫宮さんは歩き出す。
不甲斐ないことに自力で歩くのは辛そうだったので、ありがたい。ありがたいが、恥ずかしい。
「ちょっ!!」
栞はそう言って慌てて、ついてきて、
「おんぶすることないですかー!」
そう叫ぶ。
「怪我人だろ?それに体格差があって肩を貸し辛い」
「じゃあわたしがおんぶします」
「嬢ちゃんじゃあ無理だろう?」
姫宮さんの言葉に
「むぅ」
栞は頬を膨らます。かわいい。
それからはほとんど会話もなく。
おぶられること20分。
丘の上、というかほぼ山の中の開けた地帯に小造りの家が見えてきた。ログハウス。煙突。薪。丸太。まるで北欧の家みたいで、
「素敵だ」
思わずそう口にしていた。
「フフッ、そうだろう。さ、立ち話もなんだ、入りな」
姫宮さんは、僕らを家の中に案内してくれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます