いじめられっ子だけど恋がしたい!
ちょび
第1話
僕の名前は八雲。水波八雲。
中学1年生である。
身長は平均よりやや低め。痩せ型。
顔も普通だと思う。
運動も普通。しかし勉強を頑張っていることもあり、成績は学年トップである。田舎の中学なので、井の中の蛙かもしれないが、俺は誇りに思っている。というかそれくらいしか誇れるものはない。
そんな僕は今、殴られていた。
なぜか?
遡ること1時間。
授業が終わった僕は、幼馴染の栞と一緒に下校していた。
「今日も袴田君たちにちょっかいかけられてたみたいだけど、大丈夫??」
と栞。
「うん、平気だよ」
と僕。
「えー、でもまた八雲に向かって何かやってたよね、何なのあれ?鼻を人差し指と中指の間に入れてこすってさあ」
「さあ? 鼻を細くでもしたいんじゃない?」
袴田は背が高く、やや厳つい。小学生の頃から野球をしていることもあって喧嘩も強く、彼に面と向かって逆らう生徒はいない。先生ですら彼の行動はある程度黙認、というか見て見ぬふりしている節がある。
そんな彼は、僕が栞といると決まって近寄ってくる。そして目の前で僕を挑発したような行為をしたり、栞に向かって何かニヤニヤしたような視線を向けたりする。
おそらく栞のことが好きなんだろう。
ニヤついた表情でベタベタと栞(胸部)を見る行為は不快ではあるが、その時の栞の汚いものでも見るような顔を見ると、逆に健気にアプローチを続ける袴田が哀れになる。ねぇ袴田君、自ら可能性を潰してること、理解してないのかな?頭に行くべき栄養が体に行ってしまっているのだろうか?
以前は僕に対して暴力を振るってきたりもしたのだが、最近は栞の前では力に頼ることはめっきりしてこなくなった。
というのも、ある時彼が僕の腕を捻り上げてきたとき、栞が本気で怒ったのだ。
「ちょっと何してるのよ!!」
「何だあ?」
ニヤニヤした表情で振り返った袴田は、しかし直後呆けたような表情に変わる。栞の表情がいつになくきつかったからだ。
「いつもいつも八雲にちょっかいかけて、あまつさえ今日は腕ひねり上げたりなんかして、何がしたいの?」
「え、だっていやこいつが栞につきまとうから」
「はぁ?! 付きまとってんのはあんたでしょ!! もう私達に近づかないで!!!」
袴田は飼い主に叱られた飼い犬のような表情をしていた。
それからというもの、栞のいる前で袴田が僕に手を出してくることはなくなった。栞のいるときは精々挑発してくる程度だ。
ニヤニヤと笑いながら見下ろしてきたり、変顔にしか見えない顔で道を遮ってきたり。
そして栞の目がないところでは接触型の挑発を行って来る。ヘッドロックしてきたり、お腹を殴ってきたり。こちらが反撃しようとすると力を強めてくるので、抵抗しない。しばらくすると例のニヤニヤした表情で去っていく。
本人は軽くやってるつもりなんだろうが、非力な僕には苦痛である。正直なところやめてほしいが、先生はさも僕達が遊んでいるように見えるのか、口出しはしてこない。袴田もそのあたりは分かっているのか、顔は殴ってこないし、体も傷がつくほどは殴ってこない。
ただこのことは栞には伏せている。心配させたくないというのもあるが、何というか男としてのちっぽけなプライドが邪魔して話せないでいる。
「そうなのかなあ? でもあの下婢た表情わたし嫌いー 何かぞぞっとする…」
「まあ悪いやつじゃないと思うよ、低能だけど」
「そうかなあ、暴力振るう時点でいいやつではないでしょ、八雲は人が良すぎるよ、将来悪い女に騙されないか心配」
「なんでそこで女が出てくるの?」
「ええだって八雲かっこいいし〜」
「思ってもないこと言わないでよ」
「え〜本心だよー!」
頬を膨らまして訴える栞。
とその瞬間、頭に強い衝撃を受けた。続く痛みで、誰かに殴られたのだと理解する。
「きゃっ!! 何すんの離して!!」
隣を見ると袴田が栞を拘束していた。
そして、側に3人の大柄な男。この近くの高校の生徒だろう。リーダーと思しき一人は刈り上げた黒髪に190近い身長、レスラーのようなガタイをしている。僕を殴ったのはおそらくこのリーダー格の男だろう。
「おいお前、うちの弟が世話になってるみてえじゃねえか?」
「「!?」」
弟?混乱する僕と栞。状況から見るにリーダーはどうやら袴田の兄らしい。
「っッ!!」
次の瞬間、視界が一瞬白くなり、息が止まる。続いて耐え難い痛みが下腹を貫き、悶絶する。
ことここに至り、腹パンをぶち込まれたのだと理解する僕。
「イヤーッッ!!!! やめてぇー!!!!」
栞の声が遠い。
痛み以上に、こんな情けない姿を栞に見られているのがたまらなく恥ずかしく、情けない。同時にこの状況をどうすることもできない自分自身にどうしようもないほどの怒りを覚えた。
さらに拳を振るってくるリーダー。
何度も腹を殴られる僕。泣き叫ぶ栞。
目がチカチカし、吐き気も出てくる。
心做しか口の中に血の味がしてきたように思う。
いよいよヤバい…
そう思ったとき、
「おい」
意識を手放しそうになる僕の耳に凛とした声が響いた。
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