その3
姉の有香が如月義純を連れて来たのは、ほんの三週間前だった。短大を出て小さな会社に勤めていた有香が、大学時代の友人とのコンパの二次会で知り合った男だと聞いた。有香は玉の輿だと浮かれていた。
その時の義純は鷹揚で頼りがいのありそうな男に見えたのに。
──まさか、まさか、まさか、ヤクザだなんて……。
「お、俺、俺、男らろ。子供なんか出来ないろ。あと、あと、跡継ぎいるんらろ」
暖斗は布団の上を後退りしながら、呂律の回らない舌で訴えた。
「別に男だからといっても不自由は無い。跡は血縁じゃなくても継げるからな」
義純はふんぞり返って言った。
下から上を見上げると、途中どうしても巨大なソレが目に入る。サーと血の引く音がする。
暖斗はくるっと向きを変えて、四つん這いになって布団から逃げた。
「往生際の悪い奴だ。俺に可愛がられたいと言う女はごまんといるんだぞ。本妻に据えてやるってぇのに、ありがたがらねえと罰が当たるぞ」
(ありがたいも何も、俺は男だって!)
暖斗はそう思いながら部屋の隅まで逃げた。しかし義純は二歩で暖斗に追いついた。
「ここでヤリてえのか。お前も物好きだよな。しかし俺は普通に布団の上の方がいいんだ」と、暖斗を片手で抱え上げて布団に転がし、押さえ込みをかけてきた。
義純の怒張した大砲が暖斗の太股に当たって暖斗は泣きたくなった。
「お前は泣き上戸だったのか」
(うっうっ、違わいっ!)
うつ伏せに押さえつけられて両足を広げられ、義純がその間に入って暖斗の蕾を押し広げた。尻に義純のモノがツンツンと当たる。
(ふぎゃ)
義純はピチュともう一度液体を手に取り自分のモノに塗りつけた。そして暖斗の腰を抱えて「行くぞ」と声をかけた。
(ひい)
体を硬くした暖斗に義純は一呼吸置いてから、ぐっと砲身を捩じ込んだ。
「ぐぇっ!」
「きっつー!」
キツイと言いながら義純は暖斗の中にぐぐいと侵入して行く。暖斗は義純のモノに串刺しにされて手足をバタつかせて藻掻いた。
「い、痛いー…。ぐ、ぐるじー…」
「最初は痛いものだ」
(だから、俺は女じゃないって……)
暖斗の抵抗もむなしく、義純はゆっくりと暖斗の中に自分のモノを沈めていった。
(あああ……、ヤラれてしまった……)
ぐったりとなった暖斗は、こうなったら義純に気に入られずに、お払い箱になる事を期待するしかないと思った。
しかし、暖斗の中に押し入った義純は、あまり抽挿せず暖斗の体を抱きしめて言った。
「ううむ……、まったりとして、それでいて絶妙に絡みつき、熱くてきつくて蕩けるようなこの味わい」
(なんだよそれ……)
暖斗は脱力したまま義純が早く終わる事を願った。そのくったりとした暖斗を抱きしめて義純は言った。
「気に入った!」
(き、気に入ったって……)
「お前を俺の嫁として置いてやる。心して仕えるように」
暖斗はその言葉に、くてっと死んでしまった……。
* * *
『暖斗……、暖斗。起きなさい、ご飯よ』
母さん……。
『暖斗、学校はどうした』
父さん……。
『暖斗、何寝坊してんのよ』
姉ちゃん……。
「夢か……? 夢を見てたのか……。ああ、いやな夢だった。おまけに頭は痛いし、体は痛いし──」
「オイ、起きろ! 何をグタグタといつまでも寝言を言ってるんだ!」
暖斗は硬直した。恐る恐る目を開けると腕を組んで仁王立ちした義純が睨み下ろしていた。
(夢ではなかったのか……。俺はこのヤクザと男同士で結婚したのか。俺はここにお嫁に来てしまったのかぁぁー!!)
暖斗は絶望のあまり涙したが、まだ結婚生活は始まったばかりだった。
「メシの用意をしろ」義純が暖斗に命令した。
「飯って、俺が……?」
「そうだ。俺のとこは家庭的なんだ」
「俺、料理なんてした事ないよ」
痛む頭を押さえて、暖斗は自分の夫になった男を睨んだ。もうヤケクソだった。
「ひとりでとは言っておらん。服を着て早く行け」
義純は服を放り投げた。暖斗が服を広げると自分の普段着である、暖斗の家にある筈の……。
「何で俺の服がここにあるんだよ」
「お前のものはすべて引き取った。今日からこの家がお前の家だ」
義純はふんぞり返った。どうやら義純は本気で暖斗の夫になるつもりらしい。亭主関白の義純に暖斗はため息を吐いて痛む頭と体を宥めつつ服を着た。
「ついて来い」
義純が先に立ってすたすたと歩く後を、暖斗はヨロヨロと追いかけた。
(姉ちゃんは逃げて正解だよな。ヤクザでなくってもこんな男、願い下げだぜ)
義純の背中を睨みながら思った。
義純が振り返って顎をしゃくる。どうやら台所に着いたらしい。暖斗が義純の後ろから覗くと、賑やかに食事の用意をしていた子分さんたちが一斉に暖斗の方を向いて挨拶をする。
「姐さん、お早うございまーす!」
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