【悲惨な人生】掌編小説

統失2級

1話完結

僕の生家は極度の貧困家庭だった。更に僕の不幸だったところは4才の頃から義父に虐待されていた事だった。それに加え、母親は育児放棄をしており僕を含む3人の兄弟は風呂にも入らず服は毎日同じ物を着ていて、そのせいで3人とも学校ではイジメられていた。僕の家庭環境は本当に悲惨だった。それでも、何とか生きていた僕は中学3年生のとある日に僕をイジメているグループの男子が一人で夜道を歩いているところに遭遇する事があった。僕は道端で拾った手頃な大きさの石を片手に握り締め、背後から彼に襲い掛かった。無我夢中で彼の頭部を殴り続け、結果として彼を殺害してしまう事になった。


少年院では外の世界以上の壮絶なイジメを受ける事となり、それに堪えられなくなった僕は前屈みの状態で全速力で駆け出して廊下の壁に頭をぶつけて自殺を試みた。しかし、その願いは叶わず僕は生き延び、首の骨折が原因で全身麻痺となり63才で他界するまでの47年間をベッドの上で寝た切り生活を送る羽目になった。


僕が天国にやって来て、結構な年月が経つ。天国は天国と呼ばれるだけあって快適に暮らす為の環境が整っていた。僕と100万人の美しい妻たちの年齢は永遠の18才だし、病気に罹る事も無ければ、怪我をしても数秒で完治するし、外気温はずっと25度だし、身体と精神と知能には一切の害を及ぼさない利き目抜群の覚醒剤が簡単に手に入るし、食べ物は材料無しでも料理BOXに料理名を音声入力すれば10秒以内に極上の料理が生成されるし、コーラやオレンジジュースやビールやウインナーやフライドチキンやハンバーガーやピザやラーメン等を暴飲暴食しても一切太る事は無いし、自然災害は皆無だし、8000兆体のロボットたちが、ありとあらゆる職業を無償で完璧に熟すので、生活や娯楽に困る事は無いし、アルコール度数25%の完全麦茶味の麦焼酎はどんなに飲んでも、気持ちが楽しくなるだけで攻撃的にはならないし、特殊成分が含まれた天国の空気は2000兆人の元地上人たちの気持ちを穏やかにし、且つ知能の働きも鋭敏に高めてくれるので犯罪は一切起こらないし、本当にこの天国は快楽だらけの極上の天国だった。その天国の娯楽の一つに地上生活が体験出来る仮想現実という物があった。それは、専用の帽子を頭に被り脳で微弱な電波を受信して究極にリアルな夢を見るという仕組みの代物だった。僕は天国での生活に退屈していた訳では無かったが、折角、神様が用意してくれた娯楽なのだから、一度くらいは体験しても良いだろうと考え、天国生活2762万年目にして始めて仮想現実を体験してみる事にした。僕は面白半分でどうせなら徹底的に悲惨な人生を体験してみようと浅はかな思い付きの元、申し込みの手続を済ませてしまったのだった。


僕は悲惨な仮想現実の体験を終えて天国で目を覚ました。それは余りにも長く余りにも苦しみに満ちた体験だった。僕は実際の前世では結構幸せな人生を送っていたので、不幸な人生というものに少し興味があった。そのせいで徹底的に悲惨な仮想現実を体験してみたのだが、僕はそれを深く後悔していた。(もうあんな悲惨な仮想現実は二度と御免だ。僕はもう二度と仮想現実なんか体験しない)そう決意を固めた僕は疲労困憊の心を癒やそうとオアシスを求める砂漠の旅人が如く、妻の一人とSEXをする為に高速移動機に乗り込み、第627,338夫人の家へと向かうのだった。

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