第3話 悪虐なる…

目を覚ます。

 視界はいつもより鮮明で、音も以前とは比べ物にならないくらいに聞き分けられる。進化した直後に私が感じたのは新鮮な感覚と、不愉快な後味のみであった。

 進化が終わった直後にも残る後味、これは最悪で、ずっと同じ体制だった時に時々起こる立ちくらみの様なものだった。私は新しい体を手に入れたのだけれども、その突然の感覚や筋肉の変化に私はまだ着いていけて居なかったのだ。今までの様に立ちあがろうとすると、平衡感覚が掴めなくて転んだ、何とか立ち上がってみると、身長が10~15cmぐらい増えた様で元の身長134cmから比べると今の身長によるギャップにより、体の平衡感覚や位置感覚などが狂ってしまっていたのだ。私は何とか慣れようと努力する。

 次第に体の感覚が染み付いてきて、やっとのこさ体を満足に利用できる様になったのだ。


 感覚が調子に戻った所で一番最初にやるのは成長度合いの確認である。即実践に進むのも良いのだけれど、それだと正確な自分の力を知らずに闘うことになるから、正確に自分の力を把握して闘えなくなってしまう。


〈ステータス〉

個体名:

種族:悪虐なるゴブリンファイター

性別:雌

年齢:2歳

レベル:15/1

HP:120/120

MP:85/85

戦闘力:436

スキル:•罠士lv9•石投げlv7•体捌きlv5•格闘術lv1•武芸

ユニークスキル:•悪虐を秘めし心•知性有し者


 ユニークスキルのせいなのか、名前の最初に『悪虐なる』という文言が付いている。新しく得たスキルは格闘術と武芸、調べてみると格闘術は四肢を使った肉弾戦の時に補正が入る。武芸は武術の技を行使した時にダメージ量が1.8倍になると言うものだった。普通に強い。


 大体理解したので進んでいく、進化するまでに何時間か過ぎたはずだけれども、大通りの方からする叫び声や乾いた何かの衝撃音は消えそうにない。

 わざわざその激戦区に向かって死ぬつもりは毛頭ないので、私は路地裏を彷徨っていく特に行き先を決めず、路地裏をぶらぶらしていると、たまに人がいたりする。それは表通りでの戦闘から逃れるために裏路地に逃げ込んだと言う人が大半である。

 大体の位置は、近づくとわかってくる。それは、野生で培われた気配を読む技術と五感を使って息遣いや、臭いなどで知ることもある。

 今頃モンスターたちは街の破壊活動でもしているのだろうか?そんなことを考えながらぶらぶらと移動していると。

「ッ!?」

 私よりも強力気配、モンスター?人間?どっちだ?薄暗い障害物の多い路地裏の中で、一際存在感を放っているそれは、でかいシルエットだった。オーク、ゴブリンとは違い多種族とは交配をしないけど、オークは嗜虐趣味を持っている、オークに捕まった生物は、生きてはいるけど、拷問の様な苦痛が待っていると言われている。

 そう、そのシルエットはオークだった、巨大な肉体は2mほどの高さを持ち、横幅は並の巨漢を凌ぐほどだった、手には斧を持ち、鋭い眼光は私を観察するかの様に舐め回す様に見ている。

 私はナイフを構える、オークは肉が厚く、明確な急所以外はダメージがないに等しい。それに私の持っているナイフはオーク程の分厚い肉を断つのに適していない、体格の差も激しい、これではオークにナイフを当てることすら厳しいと感じてしまう。

 

 この場には緊張感が漂っている、一歩でも踏み出せば戦闘が開始されると言う雰囲気だ。

 最初に痺れを切らしたのはオークだった、オークはその巨大と斧を生かして突撃し、私を真っ二つにしようとした。

 私はそれを避け、ナイフ片手に体勢を整える。私は近くにある石や、道具をオークの顔めがけて投げまくる。オークは腕立て顔を覆うが攻撃を怯んでいる。私は手のひらサイズほどの石ころを片手にもち、距離を取る。オークも遠距離攻撃が終わった頃には怒りに支配されている様な勢いで私に向かって猪突猛進してくる。タックルだ、それは自分よりも小柄な相手に有効で、尚のことオークのその巨大と重さを使えば私なんてその一撃で倒されるか致命傷になってしまうであろう、オークは斧を振りかぶる体勢のまま猪突猛進してくる。わたしはそれに近づいていき顔目がけて手のひらサイズほどの石ころを勢いよく投げる、オークはその攻撃で一瞬止まり、私はすかさず周りの障害物を踏み台にオークの顔面目がけて飛び、オークの目ん玉に二突き、オークは視力を失ったことに困惑と痛みによって発狂するが、私はそれに乗じて頸動脈目がけてナイフをグサリと突き刺す、何度も、何度も、突き刺し、肉厚が意味を成さないぐらい突き刺すと、オークは力を失っていた。

 これが私が初めて魔物とまともに戦って勝った瞬間であった。


「————————」

 喜びのせいか声にならない声が鳴き上がる。私はオークの持っている手斧を奪い、背中に背負う、それが今回の戦いであった戦利品を自慢げに持つ冒険者の様に。

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こんにちは、ゴブリンです。現代を生きるゴブリンの存在進化 水瀬 若葉 @jacknextplay

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