後悔

 

第1話

 息子が1ヶ月前、飛行機事故で亡くなった。不妊治療をしてようやく授かり、とても大事に育てていたのにだ。そのショックで私は宗教にのめり込んだ。 月に7万のお布施を払い、集会に参加しながら、心の隙間を宗教で埋めていた。その日も私は駅前で宗教勧誘をしていた。30℃を超える気温の中、歩いている人は誰もいない。こんな暑い日にこんなことして意味があるのか。そう思いながら立ち尽くしていると、黒いワンピースを着た若い女が私の前を通りかかった。私は彼女にパンフレットを差し出したが、女は受け取ることなく立ち止まると、あたりを見回した。そして、「ちょっとこっちに来て下さい」と私の手を引っ張った。すると突然、私がさっき立っていた場所に車が突っ込んで来た。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫。ありがとう。それにしても、どうやって車が突っ込んでくるなんてわかったの?」


「……私、これから死ぬ人がわかるんです」


「それは未来が見えるってこと?」


「そうではなくて。これから死ぬ人って体が赤く点滅するんですよ。信号みたいに。それを元に、あなたに起こりうる死を予想して回避したまでです。今だったら、あなたの近くに人もいない、上に落ちてきそうな物も人もないので車が突っ込んでくるだろうなと予想したんです」


「すごい力ね。きっと、あなたは私と違って神様に愛されているのよ」


 そう言って、私が女の頭を撫でようとしたら、彼女は小さく呟いた。


「私は……愛されたくなんてなかったです。あなたのことはたまたま救えたけど、救えなかった人だって大勢います。この前の飛行機事故だって……」


 その言葉を聞き、私は気づいたら彼女の頬を叩いていた。女は俯くと、小さな声でこう呟いた。


「……あなたの大事な人を救えなくてごめんなさい」


 次の日、SNSを見ているとある動画が目に入った。そこには、飛行機事故が起きる数10分前にあの女が、グランドスタッフに飛行機を飛ばすなと食ってかかる様子が映っていた。

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後悔   @hanashiro_himeka

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