TS娘の葛藤

夏海ナギ

第1話

 ムカつく、ムカつく、ムカつく。

なんで俺はこんなにも苛立っているんだ。

和樹は昔からの親友で、男なのに。

あいつの顔をみると何故かドキドキする。


 一応言っておくが、俺は男だ。・・・元はだけど。最近流行りらしいTS病とやらにかかってしまって、生物学的には女になってしまった。 


 最初は本当にびっくりした、目覚めて鏡をみたら 胸部にはやわらかい膨らみがあり、体格も縮んでいて、黒い髪の毛は肩につくまで長く、瞳は少しタレ目のほんわか系女子の顔になってしまっていたのだ。


 全く意味が分からない。医者が言うにはこの病にかかるのは日本の100万人に1人だとか。なんでそんな低確率を引いてしまうのか。運命とやらを恨むしかない。しかも女の子状態からはしばらくすると戻ると言われたが、半年経った今、男に戻れていない。いつになったら戻れるんだ。


 というか、今はそんなことはどうでもいい。今自分の中にあるモヤモヤが大事なんだ。

 俺には和樹っていう幼馴染がいる。こいつとは幼稚園からの付き合いで、高校生になった現在でもよく話す、いわゆる親友だ。

 和樹は柔道をやっているからか肩幅でかく、身長も180cmを超えている。顔は意外と小顔で、キリッとした眉毛をしており、クラスメイトからはデカ侍というあだ名がつけられている。

正直、イケメンかどうかと言われると、まあそうかも知れない。そんなこと男の時は一切考えなかったが。


・・・うう、あいつのことを書くだけでなんだか苦しい。けれど、こんな悩み誰にも相談できないし、ここに書き記すしかできない。


 そもそもなんでここまで意識するようになったんだ!?いつから?ずっと近くにいたからか?あいつとはTS化した後も今まで通り遊んだりしていて、特に変わったことしてないってのに!でもでも!最近あいつの顔を見ると少しほけーってなっちゃうんだよ。ボーっと見ちゃうの。それで、和樹が不思議そうにこっちを見たら、恥ずかしくなっちゃって目をそらしちゃうんだ。意識してるのがこっちだけってのがむかつく。だけどあっちだって俺のこと意識をしてるはずだ。

この前俺が自分の部屋の中で着替えてるときにあいつが遊びに来て、


「おーっす、来たぞー、開けてもいいかー」

「おう、いいぞー」

って感じで、部屋のドアを開けてきたんだ。

その時のあいつの顔は今でも思い出せる。いつもは細い目をまん丸に見開いて、口をあんぐり。まるで見てはいけないものを見たかのようなリアクションだった。ちなみにその時の俺は学生服を上下脱いだところで、下着姿だった。

「・・・どうしたよ固まって」

「い、いや早く着替えろよ」

あいつは俺から目をそらしてすぐドアを閉めてしまった。

 

 その時からだろうか。和樹が俺に対する態度が少し変わったのは。一緒に歩くときも距離が離れるようになったし、ちょくちょく俺の顔をじっと見つめてくるし、俺の家で遊ぶ時も断ってくるようになってきたし。まあ、この時点で俺も察したんだ。

(ああ、和樹は俺のこと女として意識してるんだ)

 

 でな、そう思った時、俺、恥ずかしいけど少し嬉しくなっちゃったんだよ。異性にそうやって思われる感覚っての知らなくて。少しだけ独占欲みたいなの・・・ち、ちが、そんなん俺があいつのこと好きみたいじゃん!

 

 と、ともかく!今日、実は和樹が家に来ることになってんだ。あいつから大事な話があるって言って。すんごく真っ直ぐな目だった。

 

 これって、あれだよな、告白される流れだよな。なんかそんな気がするんだよ。もしさ、もし、あいつの告白オッケーしたらさ、どうなっちゃうんだろ、俺。一緒にカフェとか行って、クリスマスもデートとかして、その勢いで・・・。アホアホアホ!何妄想してんだ自分!まじきもいって!違うし!あいつは幼馴染なじみだし!そんなことはありえないって!

 

 でも前みたいな真剣な目つきで付き合ってくれって言われたら俺、断れるのかな・・・分からない、自分の感情が分からないよ。

 

 玄関のチャイムが鳴った。和樹が来たのだろう。そしてあいつが入ってきて大事な話をされるんだ。

 うう、どうなるのだろう、この先のことは分からない。 でもきっと自分にとっていいことになるような、そんな気がするんだ。

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TS娘の葛藤 夏海ナギ @natuminagi

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