第14話 研修旅行後編
研修旅行後編
(七海と小野が泊まる部屋)
小野(ベッドに座ってぼーっとしている七海を見て)
七海ちゃん? どうかしたの?
七海(ゆっくり小野の方を向く)
小野ちゃんは、好きな人が違う女の子と深い話をしているのを見たら、どうなる?
小野(七海の斜め前に座って)
え~。そうだな~、私だったら絶望しちゃうな~。もしかして、そういうシチュエーションに出会ったの?
七海(一瞬びっくりして)
え?! (少し早口になって)いや、好きかどうかはまだ自分でもわからないのですが、まあそういう状況に出くわしまして。
小野
ええ~、そうだったんだ~。じゃあ、今は結構辛い感じ?
七海(心臓の辺りに触れて)
そうですな~。なぜか「心の穴」というやつが大きく空いております。
小野
そっか~。それで、どうして好きな人がって聞いたの?
七海(みぞおち辺りを押さえて)
さすが恋愛の達人、瞬時に急所を狙ってきますな。
(触れるのをやめる)確かになんでなんでしょう。自分でもわからないわ。
小野(顔を膨らませて)
もう、達人呼びはやめてって言ったじゃ~ん。
(顔を元に戻す)そうだな~。その男の子のことが好きかどうか知りたいのかな~。
七海
なるほど、その可能性はあるかもしれないわ。
小野
それだったら、あんまりはっきり自分の気持ちを決めてしまわない方がいいと思うな~。
七海(「お」を発音する口の形を作った後)
……確かに。心はただ一つの色にはなり得ないものね。
小野
そうそう。気持ちの全部を「好き」にしちゃうと、そうじゃない部分を必死に誤魔化さないといけなくなっちゃうからね。
七海
心はステンドグラスのようなものだから、好きか好きじゃないかとか、友達の好きか恋愛の好きかとか、単純な二項対立で考えない方がいいわね。ありがとう小野ちゃん!
小野
いやいや~、力になれて良かったよ~。
七海
いつも相談に乗ってもらってばっかりだから、私も何か小野ちゃんの役に立ちたいわ。何かないかしら?
小野(目を閉じて悩む様子で)
う~ん。そうだな~。
じゃあ、好きな人が違う女の子と親しく話しているのを見たら、どうなっちゃう?
七海(仰天した様子で)
なんですと! 小野ちゃんも同じ立場に置かれていたとは!
(冷静な状態に戻って)それは、私が今後好きになった時のためにとか気を遣ってのことじゃなくて、小野ちゃん自身の気持ちのことなのよね?
小野(「いやいやそんな」のジェスチャーの後、頷く)
気を遣ってとかじゃなくて、私のことだから安心して? 気を遣ってるのは七海ちゃんの方だよ~。
七海
それならよろこんでお力をお貸ししましょう。
(両手を膝の上に置いて)その「好き」は、自分の心の中の大部分がその人に好意を抱いているということなのよね?
小野
そうなる、かな。
七海
それだったら私は気が気じゃなくなるわね。まあでも、もう好きってわかってるなら、小野ちゃんが聞きたいのはどうすればいいかってことじゃないかしら?
小野
そうかも。その光景ばかりが頭に浮かんで、どうしたらいいかわからなくて……。
七海(「そっか~」という共感の身振りの後)
それなら「心」のままに、って思うけど、小野ちゃんとしてはどうしたいの?
小野(少し恥ずかしそうに)
それは、両想いになりたいけど……。
七海
けど?
小野(悲しそうな顔をして)
相手の女の子が素敵な子なんだよね。
七海(自分の場合も同じだと思いながら)
素敵な子か~。それは確かに強敵だけど、忘れてはいけないのは小野ちゃんも素敵だってことよ。
小野(良い意味の困り顔で)
え~、そんなことないよ~。
七海
だから、同じこと言っちゃうけど、「心」のままにという言葉を授けたいわ。
小野
心のままに、か~。でもそうなると、何もできなくなっちゃったりするんだよね~。
七海
それも「心」の姿の一つだから、それならそれでいいと思うわ。やっぱりこの人は誰にも譲りたくないって思って行動できるようになる時が来たら、そうすればいいのよ。
小野
なるほど~。そういう時が私にも来るかな~。
七海
「心」と向き合い続けていたら、きっと来るわよ!
小野(複雑そうな顔で)
七海ちゃんは強いな~。そこまで「心」を信じられるなんて。
七海
逆よ。弱いから「心」を信じるしかないのよ。
小野(複雑そうな顔のまま)
「心」、か~。
七海(目だけに一瞬悲しみを現す)
(小さく)『やっぱり私では力不足なのね……。それと、小野ちゃんの好きな人って……。まさかね』
さあ! 夜食のメロンパンを食べましょうか!
(机に置いてあったメロンパンを取りに行く)
小野(笑顔に変わって)
そうだね!
(立ち上がる)
七海(メロンパンを手に取って)
私は網目が付いているメロンパンが好きなの!
小野(机に置いてあるメロンパンの元へ)
どうして網目が付いてる方が好きなの?
七海(メロンパンを見ながら)
だってハムみたいだもの!
小野
違う食べ物じゃ~ん。頭混乱しちゃうよ~。
(戸崎と野山と金城が泊まる部屋。照明は最大から一段階落とされている)
戸崎(ベッドに座っている野山が鞄から本を出したのを見つけて)
君はよく本を読むね。
野山(戸崎の方を見て)
確かに、読む方ではあると思う。
戸崎(野山の近くの壁にもたれて)
よく読むようになったきっかけはあったりする?
野山
きっかけ、か。現実が辛い、からかな。
戸崎(悲しみと優しさが均等に混ざった目で笑って)
なるほど。そういう読書家は多いよね。
野山
君も結構本を読むんだったよね? 理由、聞いてもいいかな?
戸崎
そうだな~。僕も、君と同じ原因かはわからないけど、現実の辛さは大きな原動力になってるかな~。まあ、現実逃避だよ。
野山
お酒とかたばことかドラッグとかよりは健康的だと思う。
戸崎
それはそうだね、心も体も。
(椅子に座ってスマートフォンを見ている金城の方を見て)金城くんは、読書したりする?
金城(顔を戸崎の方へ向けて)
本はあんまり読まないね。
戸崎
そっか~。じゃあ、どうやって、現実の辛さに耐えているんだい?
金城(一瞬スマートフォンに目線を落としてから)
……女の子、かな。……これは不健康?
戸崎(目を閉じて少し笑う)
なるほど。まあ、健康的ではないね。
野山
そうしていて、人間が信じられなくなったりとかはしないの?
金城(野山の方を向いて)
信じられないね。女の子も、自分も。
戸崎(悲しい笑顔)
そっか~。でも、どうしたらいいんだろうね。
野山
俺の場合は、読書で偉大な人間を知ることで、少しは信じてみようって思えるようになったかな。
金城
偉大な人間、か。一人も知らないな。
戸崎
人は、周囲の何人かの平均になると言われているからね。本を読むことによってそういう人たちに囲まれたら、自分もそうなれるのかもしれない。
金城
本、読んでみようかな。
(小さめの笑顔で)グラビア写真集とか。
戸崎(小さめの笑顔で)
いくらか健康的だ。
野山(小さめの笑顔で)
間違いないね。
(翌日、七海、小野、細野、青戸、戸崎、野山、金城、楓、水田、萌木の十人が、泊まったホテルの最寄り駅に集まる)
水田
おー! みんな久しぶりだなー!
萌木
ほんとだよ~。クラスが違うと会わなくなるもんだね~。
七海
違うのはクラスだけじゃないわ。今の私は今までの私と全くの別物よ。
水田
どうした? 俺から見たら相変わらずボケまくってるいつもの七海に見えるけどなー。
七海(右手を開いて前に突き出し、目を閉じて穏やかに)
なんでやねん。
水田(驚くリアクションを取って)
おお! 七海がツッコんだぞ!
萌木(一緒に驚いて)
あの七海が?! あんたほんとに七海か?
七海(目を閉じたまま、右手の人差し指以外を閉じ、人差し指を左右に振る)
なに言うてまんねん。
(右手を受話器の形にして耳に近づけて流暢な関西弁で)うちやうち。覚えてへんか? あんたんとこの近所に住んどった七海や。今ちょっと金が入用でな。いくらか貸してくれへんか?
水田(胸をなでおろす)
ボケてるわ。やっぱりいつもの七海だ。
萌木
騙されるとこだったね。
七海(素に戻る)
そんなことはいいとして。あなたたち、今日のスケジュールは頭に叩き込んでいるでしょうね!
楓
聞いてはいるが……。頭に叩き込むほどのものか?
七海(腕を後ろに組んで)
熱意が足らん! 今から一人ずつ暗唱してもらう! 私の合格が出れば出発して良し!
(目を閉じて聞く体勢に入る)ではまず一人目! 誰でもいいぞー!
水田
それじゃあ俺たちは先行ってるから、七海先生は一人で暗唱頑張ってください。
(七海を除く全員が改札へと歩いていく)
七海(目を開ける)
え? あの、ちょっと。置いてかないでよ~!
(急いで皆について行く)
(電車に乗り、京東タワー前駅で降りる)
青戸(辺りを見回しながら)
ここが京東タワー前駅か。素晴らしい。
萌木(青戸を見て)
実物見た時みたいなリアクションじゃん。今からその感じじゃ、京東タワー本体見たらどうなっちゃうんだろうね。
青戸
いいや、俺は京東タワーじゃなくて、京東タワー前駅が見たかったんだ。
萌木(驚いて)
そっち?! 普通は本体でしょ!
水田
こいつも相変わらずだな。
(京東タワーへ歩いて向かう)
細野(タワーを見上げて)
本物だ~! すご~い!
楓(タワーを見上げて目を細める)
重厚感が凄まじいな。押しつぶされそうだ。
野山(見上げて写真を撮る)
『……』
金城(小野の方を見て)
大丈夫? 怖くない?
小野(赤くなった顔で下を向いて)
う、うん。大丈夫。
七海(右手の手のひらをタワーに向けて)
ちょっと誰か写真撮ってもらえる? あの支えるやつやりたいわ。
戸崎(七海を見て)
このタワーは傾いてないよ。
萌木(辺りのにおいをかいで)
何か美味しそうな甘い匂いしない? パンケーキかな?
水田(萌木を見て)
タワーよりパンケーキってか。
(展望台のチケットを買い、エレベーターで最上階まで上がる)
水田(ガラス窓に近寄って)
すげー! 日本小さー!
萌木(水田の隣から景色を見下ろして)
あんたがでかくなったんだよ。
青戸(ゆっくりガラス窓に近づいて)
展望台へのエレベーターは地上から伸びている……。
楓(青戸の近くを歩いて)
名言風だな。
七海(楓の近くを歩いて)
名言風ね。
金城(小野に手を差し伸べて)
高いの平気?
小野(その手にためらいながら触れる)
あ、ありがとう……。
(各々が見たい方角の景色を見る)
(青戸と細野の場所)
細野(青戸の隣に来て)
青戸くんはこういう景色は好き?
青戸(景色を見ながら)
好きだな、世界の果てしない広さを感じられて。
細野(「好き」に反応しつつも)
確かに、どこまでも続いてるみたいに広いね。
青戸
「心」の世界はここから見える景色よりも広いぞ。だから必ず希望はどこかにある。
細野(青戸を直接は見ないで視界には入れて)
そっか……。探してみるよ。
(戸崎と七海の場所)
戸崎(七海の隣に来て)
この景色を見て、何を思う?
七海(手すりに手を置いて景色を見ながら)
世界も生きているなと感じるわ。道路が血管で、人とか車が赤血球とか白血球で。
戸崎(手すりに手を置いて景色を見て)
生きている、か。確かにそう見えるね。
七海
だからもしかすると、世界も苦しんでいるのかもしれないわ。
戸崎
君は、何に苦しんでいるんだい?
七海
……生きる苦しみかしら。
戸崎(七海の横顔と手を一瞬見てから)
君は、大きなものを背負っているんだね。
七海(目だけ悲しそうに笑う)
……。
(野山と楓の場所)
野山(一人で静かに景色を眺める)
『人は大勢いるけど、味方は一人もいない……』
楓(後ろからやってくる)
『お前の敵は一体何なんだ?』
野山(楓に気付いて)
『……自分にしかわからない苦しみかな』
楓(隣で景色を見る)
『そうか。それなら味方は来ないな』
野山
『これだけ人がいて、共同体ができてるっていうのにね』
楓
『そうだな。だが、一人だからこそ、そこに特異性が生まれるとも言える』
野山(楓の方を見て)
『そうか。それもそうだね。
(もう一度窓の方を向いて)それでも、一人は辛いな』
楓
『確かにそうだな。だが、その苦しみの先には、過去と未来、死んだ人間とまだ生まれていない人間、目に見えないものの全てがお前を待っている』
野山(目を閉じて)
『目に見えないものの全て、か』
楓
『それに、隣にはいられないが、後ろには私たちがいる』
野山(目を閉じたまま)
『……それは、頼もしいな……』
楓
『そしてその苦しみの先に辿り着いたら、目に見えないものの全てを連れて、また現実に帰ってこい。私たちがお前の帰りを待っている』
野山(ゆっくり目を開ける)
『……それは大変だな。必ず帰らないと……』
楓(野山を見て)
『約束だぞ?』
野山(楓を見て)
『……約束するよ……』
(タワーを後にして、近くの中華街に入る)
水田(辺りを見回しながら)
すげー。きらびやかな商店街みてーだなー。
萌木(水田の隣で)
水田にしてはよく言った方だと思うよ。
七海
七海という字は上海という字に似ている。そして、香織という字は香港という字に似ている。……それがどうした?
細野
七海ちゃんもテンション上がってるみたいだね!
青戸
中国も日本とあまり変わらないな。
戸崎
ここは日本だからね。
(中華料理屋に入り、七海、細野、小野、金城、楓の五人と、青戸、戸崎、水田、萌木、野山の五人でテーブルを分かれて座る。その後、注文の品が届いて食べ始める)
(七海のいるテーブル)
細野(食べたものを飲み込んでから)
回鍋肉美味しい~。私こういう塩分濃いめの味付け好きなんだよね~。
七海(回鍋肉を遠慮気味に取り皿に取って)
わかるわ。生きてる感じがするもの。
金城(小野の方を見つつ)
自分で取れる?
小野(青椒肉絲を少しだけ取って)
う、うん。大丈夫だよ。
楓(麻婆豆腐をレンゲですくいながら)
さすがに過保護すぎないか?
七海(ターンテーブルをゆっくり25度、-10度、37度、-52度回して餃子を取りながら)
楓ちゃんの場合は逆に、たとえ子供ができても育児放棄を疑われそうね。
楓(スプーンを持って)
人聞きの悪い。私はちゃんと育てるぞ。巣も作るし。
細野
巣って鳥じゃん! てゆうか七海ちゃんはさっき何してたの?
七海
秘密の扉を開けようと思って。
楓
食卓に、って設計ミスにも程があるだろ。
(青戸のいるテーブル)
萌木(食べたものを飲み込んでから)
唐揚げうま~。もも肉うま~。鶏うま~。
水田(白ご飯にエビチリを乗せて)
復元させるなよ。(口に運ぶ)
(食べてから)エビチリうま~。アノマロカリスうま~。
戸崎(エビマヨをお皿に乗せながら)
カンブリア紀まで戻ってるよ。
青戸(チャーハンを野山の分と自分の分に分けながら)
カンブリア紀は変わった生き物がたくさんいるよな。
水田
お前も変わった生き物だけどな。
(完食し、京東タワー前駅から電車で数分移動し、降りて商店街に入る)
水田
ここは日本風の中華街だな。
萌木
馬鹿すぎるでしょ。
細野(一つの店を指差して)
あれ駄菓子屋じゃない? ちょっと行ってみよ~よ!
七海
いいわね。在りし日の再来といきましょう。
(駄菓子屋に入る)
戸崎(店内をゆっくり見回りながら)
へぇ~、こういうお菓子があるんだね~。
小野
ちっちゃくて可愛いのがたくさんある!
萌木
だね~。
(細野と七海の持つ小さな買い物カゴに駄菓子が大量に入っているのを見て)あんたたち爆買いするね。
細野(小さな買い物カゴを持ってニコニコしながら)
駄菓子屋なんて滅多に見つからないからね!
七海(真剣な顔で小さな買い物カゴを持って)
最後の審判に備えなくちゃね。
楓
最後の審判を舐めてるな。
青戸(細野の様子を見て眉だけで微笑んだ後)
『俺も何か準備しておいた方がいいかな』
戸崎(野山がさり気なく先に駄菓子を買っているのを見て気持ちだけ微笑んで)
『君は自由だね』
金城(店の外でスマートフォンを見ながら待つ)
『香織ちゃん……。不思議な子だな……』
(駄菓子屋で食料を調達し、商店街を抜けた一行。すぐ近くにあるナンシテンネン城公園に入る)
萌木(歩きながら)
これがナンシテンネン城か~。ザ・日本の城って感じだね~。
水田
そうだなー。迫力がすげーよ。
七海
この城は、私だったら言葉攻めで落とすかしらね。
楓
おお、たとえばどんな風にだ?
七海(右手の人差し指を唇に当てながら首をかしげて)
独り占めにしたいなぁ~。
(城から大きな音が鳴ったような気がする)
水田(ふらふらしている戸崎の肩を持って)
おい! 大丈夫か! みんな、戸崎の意識が一瞬落ちたぞ!
青戸(三秒シャットダウンしたがすぐに起動する)
……。
楓
名将だな。
(落とした駄菓子を拾う野山を見つけて手伝いながら)なんだ、お前もか。しっかりしろ。
野山(駄菓子を袋に入れながら)
なんでだろ、悪い。
(長い紐状のグミを拾おうとすると、そのタイミングが楓と被る)ああ、ありがとう。
細野(逆に不安そうに見える笑顔で)
(極めて小さく)『七海ちゃん、可愛いな~。青戸くんは、七海ちゃんのことどう思ってるのかな』
金城(一瞬細野を見てからすぐさま小野の方を向く)
結衣ちゃんもやっとく?
小野(恥ずかしそうに)
え~、やらないよ~。
金城(温度のわからない笑顔で)
もったいない、可愛いのに。
小野(表面張力を振り払って笑みがこぼれる)
……。
(近くの芝生でレジャーシートを敷いて、全員で座る)
七海(右隣にいた小野に美味しい棒を一本渡し、左隣にいた青戸にきなこ棒を一本渡す)
桜の木の下にみんなで集まって、お城を見ながら駄菓子を食べる。可愛気があって風流で、とてもいいわね。
細野(駄菓子を配りながら)
桜はもう夏の装いだけど、これはこれでいいね~。
萌木(駄菓子を食べながら)
確かに~。
水田(萌木を見て)
動く花より団子だな。
七海
萌木は花まで食べそうな勢いね。
萌木(水田をあからさまに見ながら)
あたしはか弱い草食動物なんだ~。
(水田が照れてそっぽを向くのを見て笑顔になる)
小野(静かに上を見上げる金城を見つめて)
『金城くん、絵になるな~』
青戸(城の方を見ながら)
立派な天守閣だな。明日で地球が滅ぶのがもったいない。
戸崎
え? 明日で地球が滅ぶの?
青戸
ああ。今朝お茶を飲もうとしたら、茶柱の十字架が立ったんだ。
楓
茶柱の効果は飲んだ本人だけに降りかかるんだ。残念だったな、滅ぶのはお前だけだ。
青戸(青ざめた顔になる)
……。
七海(駄菓子の復刻版という文字を見ながら)
私たちは、これからどうなっちゃうのかしら。
萌木(駄菓子の袋を開けようとしたのを止めて)
どうしたの? 急に。
七海
この世界は、自分も含めて変わらないものはないわ。当然、それがより善い方向に変わっていくと信じているけれど、そのために終わってしまうものもあるでしょう? それはそれで寂しいの。
水田
より善くなるんなら良くね?
七海(微笑みながら水田を見て)
あんたはほんとシンプルな思考の持ち主ね。
(漠然と皆の方を向いて)じゃあもし自分が、より良くなるために終わらなければいけない側にいたら?
萌木
それでより善くなれるなら、良いんじゃね?
七海
あなたたち、どうしてそんなにシンプルに考えられるの? 萌木とか、食べてる草に寄生虫でも付いてたんじゃない? それで頭が、
萌木(遮るように)
あたしは肉も食べるよ!
楓
訂正になってないぞ。
(二拍置いて)終わる側にいるのは全て生への執着だ。終わりたくなければそれから解き放たれればいい。だがそれは何も、生を捨てられる状態でも、死を恐れない状態のことでもない。不滅なものを強く信じている状態のことだ。
青戸(ヤンガードーナツを開封して)
そうだ。俺たち人間の最も根源的な動作は「信じる」だ。だから、信じることによって不滅の世界へ至れる。
(ヤンガードーナツを七海に渡しながら)はいどうぞ。
七海(ヤンガードーナツを受け取って)
ありがとう。
(一口食べて飲み込んでから)「心」が信じていることを私も信じるわ。
(青戸にきなこ棒を渡して)お返しに、はいどうぞ。
青戸(不審気に受け取って)
どうも。君はどうして俺にきなこ棒を食べさせたがるんだ?
七海(笑顔で)
青戸くんの口の水分を奪いたいからかしら?
青戸(青ざめた顔で)
新手の強盗だ……。
(きなこ棒を開封して食べる)
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