第12話 研修旅行前編
研修旅行前編
(研修旅行の目的地へ向かうバスの中)
(七海と戸崎と金城と小野と野山のいるクラスが乗っているバス)
七海(先頭にガイドとして一人で座っている)
『じゃあそろそろレクリエーションを始めましょうかしら』
(立ち上がってマイクを取り、後ろを向く)
(滑舌悪く)レギンスアンドジングルベル!
(手で銃を作って)只今からしばらくの間、このバスに乗っている乗客の皆さまの命は私が預かりました。
皆さまにはこれから、効果音しりとりを行っていただきます。
あ、紹介が遅れました。私、バスジャック見習いの七海香織と申します。
では早速、ルール説明をいたします。ルールは簡単、普通にしりとりをするだけです。ただ、単語で行うしりとりとは異なり、声に出してもらうのは、その言葉を示す効果音になります。例えば、コロッケならサクッホロッと言い、プリンならプリンッと言い、ギロチンなら(可愛く)ガシャンッコロンッと言ってもらいます。注意ですが、繋げていくのは単語の方です。
もう一つ、今から一人一枚紙を配りますので、そこに自分が発した効果音と、それの元となる言葉と、前の人がどんな言葉だったと思ったかを書いてもらいます。それを集めて最後に答え合わせをしますので、ご協力お願いします。
(紙を配る)
では始めましょう。1つ目の言葉の効果音はパンッです。
(効果音しりとりが行われ、答え合わせの時間が始まる)
効果音 意図した単語 次の人が予想した単語
パンッ バスジャック 拳銃
ぴょん うさぎ うさぎ
七海「いいですね~、そういうのを期待してたんです」
ポッポー 銀河鉄道 ハト
七海「ちょっと無理がありません?」
はぁ 吐息 吐息
おぎゃー 赤子 赤子
ウホウホ ゴリラ ゴリラ
パラッパー ラッパ ラッパ
履き履き パンツ パンツ
七海「盛り上がってきましたよ~!」
パチパチ 爪切り つまらないパフォーマンスに対しての拍手
七海(不安な声で)「楽しんでくれてますか?」
私がやりました 出頭 自白
ブーン クマバチ 蚊
チャリン 金 金
七海「やはりお金の音には敏感ですね~」
にゃー 猫 猫
パキッ、スン コロンブスの卵 骨折
ザクッ、バサッ 辻斬り きつつき
七海「サイコパスがいる?」
「考える葦である」 幾何学の精神 パスカル
七海「んの終わらせ方がしりとりの世界のテロリストですね」
くるくる ルービックキューブ ルーレット
トドメだ トドメ 油断大敵
ここはどこ?私はだれ? 記憶喪失 記憶喪失
ぶらんっ 吊られた男 吊られた男
七海「なんでわかるんですか」
ピュー コリオリの力 コリオリの力
七海「自然が起こした奇跡ですね」
スン ラスト一個の唐揚げ ラスト一個の唐揚げ
七海「私がいただきます」
何がどうなってるんだ ゲシュタルト崩壊 ゲシュタルト崩壊
七海「こっちのセリフですよ」
カキカキ 意思表示カード 意思表示カード
七海「何がどうなってるんだ」
パッパラー ドッキリ大成功 ドッキリ大成功
七海「そうであってほしい」
ハァ 失って初めて気付いたよ 失って初めて気付いたよ
七海「同じ過ちを二度と繰り返さないでくださいね」
…… ヨガ ヨガ
七海「無音で伝わるなんて……」
プツン 我慢の限界 我慢の限界
七海「急にいい問題が来ましたね!」
アイドルの恋愛 いいと思います いいと思います
七海「個人の意見じゃないですか」
ドキドキ 好きです。付き合ってください。 好きです。付き合ってください。
七海「いいんですか? 全然ロマンチックじゃないですけど」
ぎゅっ いいに決まってるじゃないですか 今日の夕飯何?
七海「次の人興味なくなってるじゃないですか」
ギチギチ 肉詰めピーマン グロテスク
七海「別の献立にして!」
ふぅ 薬 ほっと一息
七海「これはやってますね」
「我々を楽しませるのは、戦いであって勝利ではない」 幾何学の精神 繊細の精神
七海「しりとりって、終わるんですね……」
七海(ニコニコしながら)
お疲れ様でした~! どうだったでしょうか、効果音しりとりは! 楽しんでいただけましたでしょうか!
(返事を待たず)良かったです~! 到着までまだ少し時間はありますが、私は疲れたのでこの辺りで終了にしたいと思います! ありがとうございました! お相手は、善良なバスジャック、七海香織でした~、またね~!
(青戸と細野のクラスが乗っているバス)
青戸(静かに立ち上がって)
皆さんこんばんは。私、支離滅裂の支配人、青戸と申します。これからしばらくの間、お付き合いいただきますのでよろしくお願いします。
細野(一瞬ドキッとする)
『……』
青戸
私はよく、養殖よりは天然かと思いきや養殖くさい、変なところが抜けている、普通に変わっている、などと言われます。
そのせいか、連想ゲームが非常に苦手です。自分では自信満々に答えたつもりなのに、どうしてか負けにされてしまうのです。なので今日は、私を勝たせてください。これから皆さんと、あるゲームをしたいと思います。
それは、支離滅裂連想ゲームです。ルールは極めて単純です。普通の連想ゲームは、自分に回ってきた言葉と関係ある言葉を言わなければいけません。
ですが、支離滅裂連想ゲームでは、回ってきた言葉と関係ない言葉を言ってもらいます。もし関係のある言葉を言ったら……。別にどうもしません。それもある意味支離滅裂なので、ゲームは続けられます。ちなみにいつ終わるかというと、私が満足するまでですので、ご承知の上ご参加ください。私と皆さん、交互に行います。手拍子とかリズムも自由なので、好きなタイミングで返してください。
では始めましょう。
初めは、アルミホイルです。ではどうぞ。
(この狂気のゲームは二十往復繰り返された)
青戸の言葉 クラスメイトの言葉
アルミホイル ナメクジ
青戸「いいですね、その調子です」
天の川 ガンジー
ミルフィーユ マタタビ
青戸「そうきましたか」
ドモルガンの法則 玉結び
栽培漁業 短冊
スプーン ボウリング
青戸「面白くなってきましたよ」
脾臓 メソポタミア文明
カイワレ大根 黒目
完全燃焼 寄生
長篠の戦い ジョハリの窓
化粧水 一昨日
特殊相対性理論 鎮護国家
青戸(大きく笑った後)「これは一本取られたな」
ひらがなの「と」 マカデミアナッツ
袴 最後の審判
結束バンド エプロン
ヤマタノオロチ ドミナントモーション
青戸「今日はなんて最高の日なんだ」
爪研ぎ フィルターバブル
願兼於業 認知的不協和
ケチャップ 要
メスシリンダー マザーボード
青戸(貴族のような拍手をしながら)
そこまでにしましょうか。
……。いや~、実に楽しい時間でした。私はとても満足しました。ここで帰ってもいいぐらいに。ありがとう。皆さんのおかげです。あっちへ行っても、皆さんならきっと乗り越えられる。私はもう必要ないようだ。それじゃあさらばだ。
(マイクを置き、そのまま運転席の近くの扉から外に出ようとするのを細野に止められ、席に引き戻される)
細野(どさくさに紛れて隣に座る)
青戸くん大丈夫?
青戸(不安な顔で)
すまない……。俺はみんなを楽しませられていただろうか……。
細野(不安そうな青戸を見て好意が一瞬で蘇る)
斬新で面白かったし、みんなも楽しそうにしていたと思うよ!
青戸(少し安心して)
そうか、それなら良かった。
(そのままうとうとして眠る)
細野(頭を撫でようとしてやめるが、自分の肩にもたれさせる)
『……』
(全てのバスが到着し、班行動で周辺を散策し始める)
(七海、小野、金城、戸崎、野山の班。最初に資料館の中へ入る)
七海(ゆっくり見て回りつつ、小声で話す)
精神構造の図があるわね。命と心がコインの表と裏の関係になっていて、人間の場合、そのコインに穴が空いていて、命の側から心の側を覗くことができる、と。
戸崎(七海について行きつつ、小声で話す)
それで、感情が心の世界に通じる扉であり、人によってその性質や使い方が異なる……。なるほど。
小野(意外にも興味を持って展示物を見つつ、小声で話す)
別の見方をすれば、感情は心の世界における肉体になっているといえる、だって。そのため、感情があるから心の世界に働きかけることができる、か~。このイラストわかりやすいね~。
野山(自分のペースで見て回りつつ、心の声は小声で)
『感情は他者のために発生するものだ。また、自分のための怒りや悲しみなどの多くは本能であり、感情とは似て非なるものである……。つまり、感情には利他的な要素が含まれる……。これを書いた人からも、人間への熱い想いを感じるな』
金城(ポスターを見ているのか見ていないのかわからないような感じでついて来る)
『……』
七海(金城に近づいて)
金城くんは退屈してないかしら?
金城(目だけ軽く微笑んで)
俺のことは気にしなくていいよ。
七海(首をかしげて)
心とかには興味はある?
金城
人並みにはあるんじゃないかな。
七海
そう。まあどちらにせよ、ここで学んだことは、きっと金城くんの助けになると思うから、展示とかポスターで惹かれるものがあったら、ゆっくり見てみてね。
金城
ありがとう。七海ちゃんは周りのことがよく見えてて優しいね。
小野(不安を隠しきれていない顔を向けて)
『……』
(実物展示のコーナー)
七海(ガラスケース越しに見ながら)
本当にこんな真っ黒でペラペラのスーツ感情の移植が行われていたのね。
戸崎(隣で見ながら)
これもこれで不気味だね。
小野(隣の展示を見ながら)
このヘッドフォンみたいな機械は、音楽で感情に波を起こして波形を読み取る機械なんだって~。金城くんは音楽が好きなんだよね?
金城(小野の隣にいる)
そうだよ。よく覚えててくれたね。
小野
当然だよ! 音楽と関係のある展示なら、面白いんじゃないかな?
金城
俺のこと気にしてくれてありがとう結衣ちゃん。
小野(照れて展示に視点を向ける)
へ、へぇ~。心に響く音楽と体に響く音楽は必ずしも一致するものではないだって~。
野山(少し遅れてすぐ近くの展示を眺める)
『感情のデータからその時の五感が捉えた状況を再現することができるのか……。共感やデジャブなどという言葉があるように、人間は曖昧にしか捉えることができない。それは、人間は心で世界を認識するものであり、心は誰にも共通のものだからである。誰にも共通のものであるがゆえに、空間的に普遍で、時間的に不変なのである。一方で感情は特異的で、時間的にも空間的にも一つとして同じものはない。そのため、正確に読み取ることができれば、その当時の状況を部分的にだが正確に再現することができる……。凄い技術だな、ってうわっ』
七海(突然後ろから現れる)
すごく熱心に見ているわね。
野山
人間のことだからね。もっと詳しくなりたいんだ。
七海
なんだか嬉しいわ。研修にここを選んでよかったと思えるから。
野山(彼なりの精一杯の感謝を表現する)
ありがとう、俺を連れてきてくれて。
七海(嬉しそうに)
方向音痴の案内人だけどね。心なんて今の時代じゃただのお荷物だから、それについての研修なんて、愚の骨頂だと笑われてないか心配だったのよ。
野山(控えめな笑顔で)
道に迷ったり立ち止まったりするから楽しいのかもしれないよ。
七海(好意的な表情で)
その先で大事なものを見つけたいわ。
(青戸と細野がいる班。拷問など、危険な実験に使われた器具の展示スペースに来る)
青戸(立ち止まって展示を眺めながら小声で)
拷問を受けた人間の感情を記録し、別の人間にそのデータを無理矢理流し込むことで、肉体的には無傷で恐怖を与えることができる、か。どんな技術も誤った使い方をされるものだな。
(細野の方を見て)大丈夫か? 気分悪くなりそうなら、無理に見なくてもいいんだぞ。
細野(青戸の隣にいる)
気にかけてくれてありがとう。青戸くんの方こそ大丈夫?
青戸
大丈夫じゃないが大丈夫だ。これは必要な痛みだと思うんだ。
細野
必要な痛み、か。それなら私も頑張るよ!
青戸(心配そうな顔で)
そう、か。
(すぐ近くの展示)
青戸
心で感じていることと不相応な感情を流し込むことで人格を破壊する。段々と感情を、心を蓋するように使い始め、そうなるともはや人間ではいられなくなる……。最初にこれを考えた奴は、人間の心理をよく知っている奴だったんだろうな。だが、人間のことを愛さなかったか、愛せなかった。どちらにせよ、人間から愛されなかったんだろう。どうして人から愛されない人が出てしまうんだ。
細野(展示の解説を読んで、外には出さないが、見えない槍で心を貫かれたようになる)
『……』
(実物の実験場跡を見に来た一行)
青戸(眉間にしわを寄せる)
目には見えないが、押し潰されるような負の圧力を感じるな。目眩がしそうだ。
(細野を見て)大丈夫か? 顔色が悪いぞ。
細野(一瞬で笑顔を作って)
ううん! 大丈夫だよ! 青戸くんこそ大丈夫? 険しい顔になってるよ。
青戸(どう接していいものか悩む)
俺は大丈夫だが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます