第54話四の塔



四の塔




四の塔は、別名’情熱の塔’と呼ばれる。

そして四の塔はアーレンの町はずれに聳そびえ立っていた。

塔の色は情熱の朱色。

この塔で修業をすると魂の力を最大限に開放することが出来るようになる。

つまり、いままでの何十倍も強くなれるということだ。

俺は少なくともエバやマリアと同じくらいには強くなりたい。

だけれど、四の塔での修行は、今までとは比べものにならないくらい大変なのだと、ティアナとクーニャンが怖い顔で教えてくれた。

なぜならば、四の塔の守護者はスパルタ主義の戦いくさの神さまだからだ。

果たして俺は、四の塔での厳しい修行に耐えられるのだろうか。


・・・

・・


「ねえ、一樹くん。 四の塔に行くならアンソニーにガイドを頼んでくれない」


俺がマリアが淹れてくれたモーニングティーを楽しんでいると、ティアナがスタスタ近寄って来て言った。


「あたいからも頼むにゃ」


「右に同じアル」


『はは~ん、どうやら示し合わせてきやがったな』


「いいや、ガイドはいらんだろ」


「えっ、バカじゃないの。 いいからガイドを頼みなさいよ!」


「いやいや、こっからだって四の塔の頭が見えてるだろ! ガイドなんか絶対にいらないよな」


「どこに見えてるにゃ?」


「ほら、あそこに見えてるだろが!」


俺は小さく見えている朱色の塔の先をゆび指してやった。


「ポポは目が悪いからわからないにゃ」  ← 猫の視力は人間の10分の1程度にゃ


「ティアナとクーニャンは、目は良いから見えてるよね!」


「あらぁ どこにあるのかしらねぇ・・・」


「まったく見えないアルね」


「あーーもぉ  わかったよ。  お前らだけアンソニーに付いて四の塔まで行け」


うざすぎて、俺は精霊の指輪を嵌め、アンソニーを呼び出した。


「お呼びでしょうか。  マスター」


「この3人を四の塔まで案内してくれる」


「マスターは御一緒ではないのでしょうか?」


「うん。  俺はマリアと一緒に後から行くことにするから」


「そうですか。 不本意ですが、承知いたしました」


ということで、最近は3対2の行動が多くなってきているパーティーである。


・・・

・・


「マリアはサットン以外なら呼び出してもいいんだね」


「はい。 あの者は男のくせに一樹さまにくっつき過ぎなので、大嫌いです」


「結構細かいところまで気が付いて優秀な執事なんだけどな」


「わたしより、あの男が好きなのでしょうか?」 ← 少し誤解を招きそう


「いや、そんなことはないけど。 ほら、彼は召使いじゃない。 マリアはそうじゃないだろ」


「・・・ なるほど理解しました」


などと話しながら歩いてくれば、四の塔はもうすぐ目の前だ。

この四の塔では、肉体と精神力を徹底的に鍛える。

なぜかと言えば、肉体だけを鍛えても戦いに集中出来なければ、それは敗北を意味するからだ。

強い物が敗れさる理由は、戦いにおける集中力の差なのである。 無論これは力の差が同じ場合だ。

故に四の塔では、この二つを強化する。


塔の1階は、だだっ広い道場になっている。

ここで、四の塔の守護者と、ただただ組手を行う地獄の毎日になる。

そして、ここでの修行の目標は、守護者に一突きを入れることであった。


目標達成後は、2階から5階までに仕掛けられた、ありとあらゆるトラップをくぐり抜け6階まで到達しなければならない。

一度でも失敗するとトラップの組み合わせが替わり、最初からやりなおしになるのだ。

6階まで到達すると晴れて四の塔の卒業となる。


・・・

・・


気が遠くなるような時間が過ぎ、俺はついに6階に到達した。


「かずきぃー ずいぶん遅かったじゃない~ ひっく」


そこには、へべれけに酔ったダメ女神のティアナとクーニャン、ポポが居た。


「にゃぁ一樹は本当に強くなったのかにゃ?」


「ふふん まだわたしの方が強いアルネ」


「お前らなぁー  もしかしたら俺が修行している間、こんなだらけた生活をずっとしてたのかよ」


「ずっとって・・たったの3日しか経ってないないじゃなーい  ひっく」


「なんだって?」


「この塔の中は、階によって時間の流れ方が違うアル」


「そうなのか・・・」 言われても俺はまだピンとこない。


「1階にもどると一樹の時間も巻き戻るアルよ」


「・・・」


そして、それは本当だった。

俺の修業の間、マリアは町の宿屋に泊まっていたが再開した時に、まだ3日しか経っていないと言われたのだ。

しかし、マリアにとっても3日は長かったようで、俺を見つけたときは、飼い犬のように猛ダッシュで飛びついて来た。

竜のフルアタック・・・ 普通なら粉みじんになってもおかしくはない。

だが、修業の成果なのだろう、マリアの動きがスローモーションのように感じたし、飛びつかれても普通に受けとめられた。


こうして、長いのか短いのか良く分からない、修行の幕が下りたのだった。



第五十四話(五の塔にむけて)に続く。

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