第53話アーレンの町
アーレンの町
苦しかった砂漠を乗り越え、俺たちは ようやくアーレンの町に着いた。
アーレンの町は標高が高く、また近くの山から乾いた冷たい風が吹き下りてくるため、気温がいっきに下がる。
この急激な気温の変化に、俺は到着早々熱を出してしまった。
『オリビアを呼び出してヒールで治してもらおうかなー』 と考えていたら。
「一樹さま、ご看病はマリアにお任せくださいませね」
マリアの目が一瞬竜の目になる。
『やっぱり、俺の考えてることが分かるのか・・』
しかたがないので、宿屋のベッドで体を休めることにした。
せっかく、アーレンの町を散策しようと楽しみにしてたのだが、早く治すことに専念しよう。
こんな俺のこと放っておいて女子たちは、早々に町へと繰り出していった。
「マリアもみんなと一緒に、散策に行って来なよ」
「いいえ、マリアは一樹さまをおいて遊びに行くなどできません。 そんなことをしたらエバさまにも叱られます」
「いいじゃないか。 どうせ俺は寝てるだけだし」
「マリアは一樹さまの御傍にいるのが一番の幸せなのです」
「あ・・ありがとう。 マリア」
恥ずかしくて、顔がより赤くなる。
しばらく目を瞑って横になっていると。
「一樹さま、これをお飲みください」
マリアがコップに入った水色の液体を持ってくる。
「うん? これは薬なの?」
「はい。 竜族ではめったに使うことはありませんが、クスリの一種です」
「ふ~ん。 これって苦くないよね?」
俺は苦い薬は、苦手なのだ。
「だいじょうぶかと思いますが、わたしも飲んだことはないので・・」
ゴクゴクッ
「う~ん。 苦くはないけど・・ 少し塩気があるような・・」
「まぁ、そうなんですか。 塩気が・・」
マリアの頬がポッと赤くなる。
「なんだよ。 これってどこから持ってきたんだ?」
「・・ そのぉ・・・ さきほど出してきたばかりで・・・」
「出して来た?」
「はい」
「まさか・・この生暖かいのって・・」
「だいじょうぶです。 竜の聖水は無菌ですので」
「そんな・・・なんてものを・・ Oh my gosh」
「やだぁ、マリア恥ずかしい・・」
・・・
・・
・
マリアさまの聖水のおかげで、俺の熱はあっと言う間に下がり、元気モリモリになった。
やっぱり、神聖な生き物の聖水は、すぐれた効能があるのだろうか。
ちょっと変態もののAVみたいになってしまったので、この話はこの辺で終わろう。
元気になったお礼もかねて、マリアと手をつなぎ、町の散策へと出かける。
そんなアーレンの町はちょうど収穫祭で賑わっていた。
大通りには出店が並び、あちこちからいい匂いが漂ってくる。
りんご飴や焼きそば、焼き鳥、綿菓子、チョコバナナに似た何か。
「うひょーー みんなうまそうだなぁ。 マリアは何が食べたい?」
「そうですね。 マリアはアレでしょうか」
マリアがゆび指した、それを見て俺は仰天する。
なんと、それはどう見ても豚の丸焼きに見える。
「あれを1人で食べるの?」
「お腹がペコペコなもので、すみません」
そう言えばマリアは、アーレンの町に着いてから何も食べていなかった。
「よし、それじゃあこれで買ってきなよ」
俺は銀貨をマリアに渡し、近くのテーブル席をキープして待つことにした。
しばらくするとマリアはちょっと恥ずかしそうに、豚の丸焼きを頭の上に掲げて持って来た。
「今度は俺が買ってくるから、先に食べてていいよ」
そう言って、俺は焼きそばとお好み焼き風のものと飲み物を2つ買って戻った。
「んっ? あれれ あの丸焼きはどうしたの?」
「えーーっと おいしくいただきました」
「へっ もう食べたってこと?」
「はい」
マリアの顔が真っ赤になる。
「よかったら、これも半分食べる?」
「よろしいのですか?」
「いいよ。 あとこれ飲み物ね」
「ありがとうございます。 一樹さま」
マリアは、焼きそばとお好み焼きを、普通に食べ始める。
でもいったい丸焼きは、どんな風に食べたんだろうか?
ひょっとして丸のみとかか・・・
第五十三話(四の塔)に続く。
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