第47話蟻地獄
蟻地獄
クワタム村からアーレンの町の間には、広大な砂漠があり、その砂漠には恐ろしい魔物がいるらしい。
なので今までの旅の中では、ここの砂漠が最大の難所になるかも知れない。
・・・
俺たちは砂漠を旅するための装備を調達するために、村の中心地に向かうことにした。
砂漠は日中は暑く、夜はかなり冷え込む。
そのため、飲料水や毛布、食料なども大量に持って行く必要があり、荷物を運ぶための らくだ によく似た動物も数頭を購入した。
クワタム村は冬のような寒さだが、村から一歩でるとそこには灼熱の砂漠が広がっている。
このエリアの守護者が気候を冬に設定しているのも、なんとなくわかる気がする。
「一樹、ポポは砂漠は暑くていやにゃよ」
出発のため、最後の点検をしているとポポが俺の袖を引っ張りながら、不満そうに言う。
「お前、寒いのは嫌だとか、暑いのは嫌だとか贅沢なんだよ。 俺たちは冒険者なんだぞ!」
「猫は寒いのも暑いのも苦手なんにゃ!」
「それは人間だって同じだよ」
「そうですよポポ。 嫌なことを避けてばかりいたら成長できませんよ」
ダメ女神がめずらしく、まともなことを言う。
「だってにゃぁ・・・」
ポポの耳が真横に平らになる。 いわゆるイカ耳状態である。
^ ^ ー ―
(= ̄ω ̄=) ⇒ (= ̄ω ̄=) こんな感じ
「もうすぐ出発するから、自分の荷物でもチュックしておけよ」
「わかったにゃぁ・・」
「一樹さま。 サットンがマリアの邪魔をして困っているのです。 なんとかしてもらえませんでしょうか」
今度はマリアがプンスカしながら、やって来た。
「サットンは執事だから、俺の旅支度を頼んだんだよ」
「それはマリアの仕事です。 一樹さまのお世話をさぼったら、エバさまにお叱りを受けます」
「あのね、二人でうまく分業してやれば、早く終わると思うんだけど」
「それは死んでも嫌ですわ!」
「あっそう。 君たちって本当に仲が悪いんだね」
「はい。 指輪から出て来るオヤジなんてキモイですもの」
ぷっ 思わず吹き出してしまったが、サットンが俺とマリアが話しているのを遠くから見ている。
「ま、まあ、そろそろ制限時間が切れるから、もう少しだけ我慢してくれな」
「わかりました。 もうあの人は一生呼び出さないでください」
『いやー サットンは気が利いて便利なんだよなー』
「一樹さま。 今何かおっしゃいましたか?」
「いや、何も言ってないよ」
マリアが怒ると一瞬、竜の目に戻るのがちょっと怖い。
・・・
・・
・
出発前に少々のドタバタがあったが、昼前にアーレンに向け出発する。
「いや~ 暑いなー」
クワタム村を一歩出た途端、50℃の世界が広がる。 さっきまでは冬だったので、暑さが体にもろに堪える。
太陽が沈むまでは、この灼熱地獄が続くのだ。
パーティーメンバーは白い服を着て、頭から白い布をかぶり暑さ対策をしている。
肌が露出していると火傷してしまうのだ。 いわゆるカイロで低温火傷するのと同じだ。
出発してから3時間が過ぎ、マリア以外のメンバーに疲れが見えてきたので、休憩を取る。
持参した簡易テントを張り、タープで日差しを遮る。
喉が渇いているので水を飲むが、ほとんどお湯になっている。
氷結魔法で氷とか作りたいところだが、空気中の水分がない所では、水も氷も出せない。
いままで、おとなしかったクーニャンが、砂丘を初めて見たのかハシャギながら砂山を登って行く。
「おーい。 迷子になるからあまり遠くには行くなよーーー!」
しかし、あっという間に砂山の向こうに姿が消える。
「やれやれ、いい歳をして元気なやつだな」
「クーニャンは、元はわたしより位くらいの高い神様ですからねぇー」 スマホをなくしたティアナが無表情で話してくる。
「そうだった。 降格されてしょんぼりしてたんだっけか」
そんな会話をしていると・・・
「うわーーーっ 助けてくれーーーっ!」
砂山の方から、クーニャンの叫び声が聞こえて来る。
「なんかヤバそうな気がする」 こっちの世界で感が鋭くなった俺は急いで砂山を登る。
登りきるとそこには、巨大なすり鉢状の穴が開いていた。
そしてクーニャンがズルズルと底の方へと滑り落ちて行くではないか。
「一樹ーーーっ! 助けてくれーー 登れないんだーーーぁ」
クーニャンは流れ落ちる砂の中で、まるでクロールで泳ぐかのようにもがいている。
その時、10mはあるだろう大きな牙が突然穴の底から突き出て来た。
『うわっ もしかしてこれは蟻地獄なのか?』
このままでは、クーニャンが喰われてしまう。 しかし、どうやって助けたらいいんだ。
クーニャンの顔は恐怖で真っ青だ。
執事もガイドもヒーラーも預言者も役には立たない。
俺があわあわしていると。
「一樹さま。 お怪我はありませんか?」
マリアが心配して駆けつけて来た。
「マリア、クーニャンを助けられるか?」
俺が落ちて行くクーニャンをゆび指すと、マリアは一瞬で状況を理解した。
「マリアにお任せください」
そう言うとマリアは、竜の姿に変身するやドラゴンブレスをすり鉢の底目掛けて吐き出した。
凄まじい炎は、すり鉢の底まで到達すると、逆にすり鉢のふちを上に向かって流れ始める。
「あっつ! うわー体が燃えるーーー!」
尻に火がついたクーニャンが死に物狂いで、すり鉢を駆けのぼって来る。
死に直面するとリミッターが外れるのは神様も同じなんだな。 神さまは死なないと思うけど・・・
「はぁーーー 死ぬかと思った」 ←いや神さまは死なないだろ
俺はクーニャンのお尻に砂をかけて、火を消してやった。
「一樹さま。 アレを殺しますか?」
竜の炎に焼かれ、牙がボロボロになった魔物はズルズルと穴に潜って行く。
「いや、深追いはしなくていいよ」
マリアは殺したそうな顔をしていたが、俺に見られていることに気づくとそっぽを向いて誤魔化した。
砂漠に出てから僅かの時間で、巨大な魔物に遭遇した。
だからこれから先もたくさんの恐ろしい魔物に遭遇するだろう。
そして戦力的にみても、頼れるのがマリアだけとか、これから先が思いやられるのだった。
第四十八話(オアシスのお姉さんたち)に続く。
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