第46話マリアの正体



マリアの正体



エバが父親から借り受けて、一樹の世話を担当させるために送り込んだマリアは、竜族の中でも知能の高さではトップクラスの娘であった。

なお、竜族の年齢換算では16歳という、人間でいえばピチピチJKである。


一樹とは年齢的にも近く、ちょっと危ない匂いがするが、エバは何故マリアに一樹の世話をさせようと思ったのであろうか。

しかも半年近くは、一樹に同行するのだ。 この間に一樹との仲が急接近しないとも限らない。


竜族は一夫多妻制、つまりマリアが半年の間に身籠れば、第二夫人となるのである。


・・・

・・


エバの無事も確認できたし、パーティーメンバーの怪我や体調もよくなったため、俺たちは四の塔を目指し出発することにした。

が、ただ一人ティアナだけは、スマホが見つからないため、出発を最後までごねた。

こちらの世界ではティアナとクーニャン以外はスマホを持っていないし、必要性も感じないため、残りのメンバーの反応は冷たく、ティアナはしぶしぶ同意した。


俺たちが次に目指したのはアーレンの町で、町を統治しているのはエルフ族だった。


クワタム村からアーレンの町の間には、広大な砂漠があり、その砂漠をのりきると次は標高の高いモレット山脈が行く手を遮る。


つまり暑さと寒さの変化が激しく、いままでの旅の中での最大の難所なのだ。

そして更に砂漠には、とてつもない魔物がうじゃうじゃいるらしい。

最大戦力であったエバが抜けたパーティーで、果たしてアーレンの町まで無事に着くことができるのだろうか。


・・・

・・


マリアは一樹の子が欲しかった。

なぜかと言うとマリアは竜族の中では身分の低い家の出だったから、竜王一族の一員としての玉の輿にのりたかったのである。

そのためには、一樹の身の回りの世話から夜の営みまで、何でも献身的に尽くすつもりだ。

そして、それはパーティーに加わった時から始まった。


「一樹さま、荷物をお持ちします」


「一樹さま、お食事の支度をいたします」


「一樹さま、お疲れでしたらマッサージなどいかがでしょう」


「一樹さま、入浴の準備ができました。 マリアがお背中をお流します」


こんな具合に一樹から片時も離れない。

これには指輪の精霊の執事・サットンも流石に看過できず、マリアに苦情を申し入れた。


「マリア殿、わたくしは一樹さまの執事でございます。 このように一樹さまにつき纏い業務妨害をされては困ります」


「あら、わたしは竜王さまとエバさまから、一樹さまのお世話をするよう仰せつかって参ったのですよ。 指輪の執事は黙って見ていて欲しいですわね」


「なんと・・ それではどちらが、一樹さまのお世話をするに相応しいのか、一樹さまにご判断いただきましょう」


こうして一樹は厄介な揉め事に引っ張り出される羽目になった。


「料理、身の回りのお世話(洗面、着替え、入浴、洗濯など)、掃除、スケジュール管理、財産管理など、どちらが優れているか勝負ですぞ!」


サッットンは鼻息を荒くして、マリアに対決を挑んだ。


一方マリアは、長年気難しい竜王の世話をしてきたという自負がある。 たかが指輪の精霊など比べるまでもないと思っている。


「いいでしょう、サットン殿。 もしあなたが負けたら一生その指輪から出てこないでくださいな!」


「ぐぬぬぬ  なんと生意気な。 あとで泣いても許しませぬぞ!」


そして、まずは料理対決となる。


肉料理、魚料理、オリジナルの3食を、どちらが作ったのかは伏せて一樹に美味しかった方を選んでもらうことにする。

2食以上取った方が勝者となる。


ハンバーグ、カツレツ、海鮮丼、アジフライ、究極のカルボナーラ、蒸し鶏のバリバリ焼き・・・


これは一樹の好みにもよるが、2勝したのはサットンであった。


身の回りの世話は、お風呂でのサービスが功を奏し、マリアが勝った。

掃除はマリアが勝ち、財産管理はサットンが勝利した。


勝負は、結局引き分けに終わり、以後二人は犬猿の仲となる。


そして、その後も二人は執拗に世話の焼きあいを行い、一樹をうんざりさせるのだった。



第四十七話(蟻地獄)に続く。


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