第45話救出されたエバ



救出されたエバ



エバがバジリスクに止めを刺そうと竜の姿となって、飛び込んで行った先には、純白の着物を着た三の塔の守護者がいた。

そう、守護者は3階層を破壊することで、暴れ狂うバジリスクを永久に封印することにしたのだ。

運悪くエバは、その巻き添えに遭ってしまった。


守護者が天井を爆発させたことで天井の岩盤が崩落し、バジリスクとエバを押しつぶす。

崩落の規模が大きく、エバの体には岩盤が重く圧し掛かっていて身動きが出来ない。


「我はここまでか・・・ 一樹さま・・」


遠くで一樹が呼ぶ声が聞こえるが、流石のエバもこの状況には、為なす術すべもない。



・・・

・・


いったいどのくらい経ったであろう。

バジリスクは、もう息をしていない。

自分もこのままでは圧死か餓死を待つだけだ。  無念なのは、一樹さまとの子がつくれなかったことだ。


岩盤の重みを支えていた手足の力も、もう残っていない。

自分の命もあと1時間も持たないだろう。


力尽きて、そっと目を瞑ったその時。


ドドドォーーン


突然激しい振動が伝わって、背中にかかっている重みが和らぎ呼吸が楽になった。


ガラ ガラ ガラッ


体の周りの岩が、少しずつ左右に流れ落ちて行く。


「娘よ無事か?」  頭上から最強竜の太い声が響く。


「・・父上・・ 助けに来てくださったのか・・」


「ふんっ 我が娘が情けない姿をさらしおって。  これでは婿殿に申し訳がたたぬわ!」


「不意をくらったとはいえ、不甲斐なくてすみませぬ・・」


「さあ、怪我の治療をせねばならぬ。 我の尾にしっかりと捕まるのだ」


こうしてエバは圧死を免れ、いったんハイネ村近くにある、龍の神殿へと戻って行った。


・・・

・・


エバの怪我は思った以上に酷かった。 体は頑丈な竜の鱗によって守られていたが、骨がかなり砕け内臓も損傷していた。

これでは数か月は、体を動かすことが出来ないだろう。

無理をすれば、元通りの体に戻ることは難しくなるやもしれない。

無念ではあるが、エバは治療に専念することにした。

ただし、自分がなんとか無事でいることは、夫である一樹に伝えておきたい。


そこで、父親の身の回りの世話をしているメイドのマリアを借りて一樹の元へと走らせた。


・・・

・・


一樹は、三の塔から離れたくなかった。

預言者トラスの言葉は、安心材料とはなったが、エバの安否は自分自身で確認できていない。

まだ瓦礫の下にいるかもしれない妻を置き去りにして、旅を続けるのはどうしても無理なのだ。


それに、パーティーのメンバーも軽度ではあるが怪我をしていたり、疲労が溜まった状態であったため、それらが癒えるまでの間、この村に滞在するすることに決めた。

何事もなく平和な日々が過ぎ、5日が経ったとき、ハイネ村からメイドのマリアが一樹を訪ねて来た。


「わたくしは竜王さまに使えるメイドのマリアと申します。  一樹さまにエバさまからのお手紙を届けに参りました」


「エバから・・  エバは無事なんですね?」


「はい。 今はお怪我の治療に専念されております」


「本当によかった。 これで一安心できました」


マリアは、ニコニコと笑ったまま、その場にずっと立っている。


「ありがとうございました。 お礼をしたいところなのですが、今はまだ体調も戻っていませんので・・・」


「あの~、わたくしは竜王さまとエバお嬢様から、お嬢様が不在の間は一樹さまのお世話をするようにと仰せつかって参りました」


「はいぃ?」


「ですので今日からこちらで働かせていただきます」


こうして、エバの代わりにマリアが一樹の世話を担当することになったのだが、のちに執事のサットンともめることになる。



第四十六話(マリアの正体)に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る