第44話スマホをなくした女神様
スマホをなくした女神様
バジリスクは全長が50mはあるだろうか。 胴の太さも2m近い。
鱗は非常に硬く、クーニャンのゴッドアックスをしても小さな傷をつけるのが精いっぱいだった。
俺のサンダーブレードは、どうやら安物だったらしく、雷撃を2発放った時点で砕け散った。
ただし、2発目でバジリスクの左目を潰すことに成功したので、よしとしたい。
一番厄介なのは、あの大きさで動きが速いことで、体の長さも相まって、まるで鞭のように相手目掛けて飛んで来る。
あんなのにまともにブチ当たったら、体の形さえ無くなってしまいそうだ。
俺たちは、バジリスク以上の速さで動きまわり、疲れさせては一撃をくらわせた。
疲労が溜まるとオリビアがヒールをかけてくれるため、俺たちが若干優勢にも思える。
エバが竜の姿で戦えば、勝敗は一瞬でつくかも知れないが、俺の嫁であることも最強竜の娘であることも、まだ秘密なのだ。
膠着状態のまま時間はどんどん過ぎて、戦闘開始から2時間近く経った。 このままではオリビアの制限時間が尽きてしまう。
そうなれば、一気にバジリスクが優勢になるやも知れない。 これはまずい。
「ティアナさんよ。 何とかならないのか。 一応女神さまだろ!」
偶然隣にティアナが吹き飛ばされて来たので、少々煽ってみる。
「一樹くんたら、相変わらず失礼ね。 さっきから一生懸命やってるじゃない」
「ふ~ん。 バジリスクを倒したら、アンソニーに4階層への案内を頼もうと思ってたのに残念だけど、これでは撤退決定だな」
「あ、あら。 ちょっと待って。 今から本気だすから」
『こいつぅーーー。 やっぱり手を抜いてやがったな』
ティアナは、金色こんじきに輝く杖をバジリスクに向けたかと思うと、何やら詠唱を始めた。
短い詠唱ではあったが、それが終わったと同時に光の矢が現れ、真っ直ぐにバジリスクへと吸い込まれて行った。
ギャガァーーー
矢はバジリスクの首を貫通しバジリスクは、苦痛のあまり洞窟内をのた打ち回る。
「天井が崩れ落ちるぞ! みんな気をつけろ!」
「一樹さま。 お下がりください。 ここはエバが止めを刺します!」
天井が崩落を始め、岩石が降り注ぐ中へエバが飛び込んで行った。
「エバーーー! 戻って来ーーーい!」
直後に大きな爆発が起きて、まるで巨大地震のように、3階層全体が大きく揺れ動いた。
辺りは砂埃が舞い上がって、薄暗く視界がきかない。
「ちくしょー いったいどうなってるんだ」
俺が奥へ進もうとすると。
「一樹くん。 あぶない!」 ティアナに後ろから組みつかれ引き戻される。
すると俺の目の前で天井全体が落下し、洞窟が完全に埋まってしまった。
「エバ・・・ いったいどうして・・・」
俺はショックで、目の前が真っ暗になった。
「3の塔のダンジョンは、守護者が復活させない限り、もう使いものにならないわね」
「うそだろ・・・」
目の前は巨大な岩石と瓦礫の山で埋め尽くされている。
『頼む、エバ。 無事でいてくれ』
「はっ、そうだ。 預言者・・ 預言者ならエバが無事なのか教えてくれるかも知れない」
『確か、オリビアを呼び出してからまだ3時間は経ってないはず』
俺は、一途の望みを託して、精霊の指輪のボタンの右上を押した。
すると・・
「ボヘッ ゲッホ なんじゃこの埃は・・」
そこには、大きな杖を持った長い白髭の如何にも預言者といった風貌の老人が立っていた。
「あ・・あなたは、預言者ですか?」
「うむ。 わしは大預言者、トラスじゃ」
「教えてください。 妻のエバがそこの瓦礫の中にいるはずなんです。 妻は無事なのでしょうか」
トラスは俺の言葉を聞いて、大きな杖を振りかざし何やら呪文のような言葉を唱えた。
すると杖が光輝き、トラスの瞑った目が、大きく見開かれた。
「汝の妻は瓦礫の中に居る。 じゃが自力で脱出することは出来ぬ」
「そんな・・・」
「安心するが良い。 間もなく竜の父親が救いに来て、娘・・そなたの妻を連れ帰るじゃろう」
「ほんとうですか」
「これは預言じゃ。 あとは神に祈るのみぞ」
そう言葉を残すとトラスは指輪の中へ消えて行った。
「よかった。 ほんとうによかった」
俺はしばらく放心状態でその場に立ちつくしていたのだが、瓦礫の山の前をティアナが、うろちょろしている。
「ティアナどうした?」
「無い、ないのよ! わたしのスマホ・・ せっかくアンソニーを待受けにしたのに~」
「さっきの爆発で、手から吹き飛ばされたんじゃないの」
「そんなことはないわよ。 楽〇市場で買った、ネックストラップを使ってたもの」
「だってよ。 ストラップしか残ってねーだろが」
「あのスマホが見つからないと大変なの。 一樹くん、一緒に探して!」
「無理、ムリ。 この広さで見つけるなんて。 それにたぶん、あったとしても瓦礫の下だと思うぜ」
「えーーー そんなぁ・・・」
ティアナはその場に、ガックリと膝をつき何かをボソボソとつぶやいた。
「受験できないだけじゃないわ。 きっと大神に罰を与えられる・・・ どうしよう」 ← 一樹に聞こえなかったボソボソ
さて、こうして三の塔ダンジョンの攻略は、中途半端に幕を閉じたのだった。
第四十五話(救出されたエバ)に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます