第39話三の塔



三の塔



パルマ村の朝は早い。

俺とエバも早起きして漁港に向かった。

港には既に魚を積んだ舟がたくさん停泊して、荷揚げを行っていた。


このパルマ村から先の町に行くには、舟で行かねばならない。

もちろん定期的に舟が出ているわけではないので、乗せてくれる舟を探さなければならないのだ。


ちょうど魚を仕分けしてカゴに入れているお爺さんがいたので、舟を出してくれそうな人がいないか聞いてみた。

するとこの村の村長の次男が、明日の朝に隣村まで病人を乗せて行くというので、同乗させてくれるか聞いてくれると言う。

親切なお爺さんにお願いしてから、俺たちは水揚げされた沢山の魚を見ることにした。

5mはありそうな大きな魚、金色に光ったエイ、足が異様に長い蛸たこ、どれも初めて見る。


「一樹さま。 あれを見てください」  エバがゆびを指す方を見ると。


「なんだアレ?  すっげーー」


そこには、長い角が生えたワニのような動物?が鎖につながれている。

離れているところからでも、その大きさが尋常でないことが分かる。


「アレは、海ワニです。 この海に海ワニがいるとしたら、沖にでるのは危険ですね」


「そんなにヤバイヤツなのか?」


「はい。 獰猛で何でも食べてしまいます。 アレが出るとその近くの海には魚がいなくなります」


「そうか、でもあそこに捕まっているってことは、この漁村は大丈夫なんだね」


「いいえ、もしも海ワニが一族でここに辿り着いたとしたなら、かなり厄介です」


もう少し海ワニに近づいてみると、角にはのこぎりの刃のようなものが付いている。

そして口を開けたところを見ると、ホオジロザメよりも大きな歯がずらりと並んで生えている。

もし、こんなのに嚙みつかれたらと思うと背筋が寒くなった。


「でも、我の鱗は、あのような歯では傷ひとつ付きませんけど」  エバが3度めのドヤ顔を見せる。


漁港にある食堂で朝ご飯を食べていると、お爺さんが村長の息子が同乗することを了承してくれたと伝えに来てくれた。

お礼を言ってから、俺たちは宿に戻った。


ダメ女神たちは、腹を出してまだ眠っている。  みんな酷い寝相だ。

とにかく明日の朝は、次の村へと出発だ。  なのでもう少し寝かせておくことにする。


・・・

・・


次の日、困った問題が起きた。

なんと、乗せてくれると言った舟が三人しか乗れないというのだ。

病人を寝かせて乗せるので、五人分のスペースが取れないらしい。


みんなで頭を抱えていると、エバが耳元で


「一樹さまは、我が背に乗せて海を渡ることにしましょうぞ」


と言う。


「なるほど、その手があったか」  エバを見ると4度目のドヤ顔である。


「俺とエバは後で行くから、三人は先に乗せてもらってくれ」


「えっ、いいのにゃ?」


「ああ、先に村の様子とか・・・  そうだお前ら魔物とか倒しに行っとけや!」


「アイヤー そだった。  お金稼がないとアルネ」


「それじゃあ一樹くん。  先に乗せてもらうわね」


こうしてティアナたちは、舟に相乗りさせてもらって、次の村へと出発した。


ティアナたちが沖に見えなくなってから、俺たちは人気ひとけのない所まで移動した。

もちろん村に竜が出たと騒ぎになるとまずいからだ。


バァーン と言う大きな音とともに、エバが元の竜の姿になる。


傍で見ると大迫力の嫁の姿である。  怖い・・・


「さあ、一樹さま。  我の背に乗ってくださいませ」


エバが乗りやすいように頭を下げてくれる。

俺が乗ったのを確かめて、エバは大きな羽を数回羽ばたく。

すると、ふわりと舞い上がり、もう一度強く羽ばたくとあっと言う間に大空高くまで昇った。

海は広く水平線まで何ひとつ見えない。  つまり近くに島すら無いということだ。


エバは俺の息が苦しくならないように、ゆっくりと飛んでくれる。

とは言っても、すぐにティアナたちが乗っている舟を追い越し、先に隣村のクワタムについてしまった。


そして隣村は、いきなり冬だった。

遠くには、大きくて真っ赤な塔が聳そびえ立っている。

たぶんあれが、三の塔だ。




第四十話(雪合戦)に続く

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