第36話季節の移り変わり
季節の移り変わり
こちらの世界では、各守護者が自分が管理するエリアの季節をコントロールしている。
夏が好きな守護者のエリアでは、夏の期間が長く暑い日が続く。
冬が好きな守護者のエリアでは、スキーやスケートもできる。
そして、いままで通って来たエリアは、日本の5月ごろの陽気だった。
俺的には一番好きな季節感で、汗もかきにくく修業も捗っていたと思う。
そして、ロルシェの町を出発し、坂道を上り峠を越すと真夏だった。
山の中は蒸し暑く、体力が奪われていく。
こんなところでは絶対に魔物なんかと戦いたくない。
「一樹さま大丈夫ですか?」
汗を頻繁に拭く俺をエバが気遣う。
「それより、エバは暑くないの?」
「フフッ エバは竜族ですぞ。 灼熱の溶岩の中でも問題ありません」
エバは初めてドヤ顔を俺に見せる。
そう言われて見れば、汗は一滴も掻いていない。 まったく羨ましいかぎりだ。
しかし汗で透けたブラウス姿のJKが、夏の楽しみのひとつだったド変態の俺には、この世界にJKがいないのが不満である。
なぜかと言えば、学校が存在しない。 教育は各家庭の両親や兄弟らが行っているようなのだ。
第二次産業、第三次産業がないから、高度な知識は必要ない。 しかも子どもの数自体が少ない。
「う゛ーー それにしても暑いな。 そうだ、いいことを思いついたぞエバ!」
「どうしたのです? 一樹さま」
「まあ見てろって!」
俺は水系魔法が使える。 これは何も魔物と戦う時だけ使うには、勿体ないではないか。
そう、水を自分の頭上からシャワーのように降らせればいい。
「そう、こんなときは、ウォーターシャワーーーーッ!」
ザーーーッ
あっという間に、土砂降りの雨の日のように、水が降り注ぐ。
「おおっ なかなかいい感じじゃん」
風呂に入れないときに、ポポのファイアボールとの合わせ技で、温水シャワーを作ってたのを思い出しやってみたのだ。
「一樹さま。 これは気持ちいいですね」 エバもシャワーが気に入ったようだ。
汗も流れすっきりしたところで、ちょうど遠くに村も見えてきた。
そして、その先にはキラキラと輝く海が広がっている。
・・・
・・
・
山道を下って行くと、すぐに海沿いの道へとかわる。
山の中と違って、海から吹いてくる風がここちよい。
しばらく歩いて行くと’ようこそ パルマ 村へ’という看板が立っていた。
「へぇ ここはパルマ村って言うんだ」
毎回、町や村の名前はティアナが先に教えてくれてたのを改めて思い出した。
『プッ 町の名前だけ教える女神って、本当に役立たずだな』
看板があったところから、10分ほど歩くとY字路に出た。
「右か左か・・・ どっちに行くのが正解かなぁ?」
どちらの道も坂道じゃないってことは、村の中を通って行くはずだけれど悩む。
そう、俺は即決できない人なのだ。
「一樹さま、ティアナさまたちは、左りの道を通っています」
「えっ、エバはそんなことまでわかるの?」
「はい、我は最強の竜族ですから、僅かなにおいでも追跡することができます」
エバは2度目のドヤ顔をする。
「それじゃあ俺たちは、右の道にしようか」
「よろしいのですか?」 エバがちょっと意外な顔をする。
「だってあの三人と一緒だと、にぎやか過ぎるだろ」
「フフッ 確かにそうですね」
そして右の道を進んで行くと、ポツポツと家が見え始める。
やっぱり村という感じだ。
華やかさや、にぎわいを全てロルシェの町に持っていかれたかのようだが、この雰囲気もとても良いと思った。
しかし、ロルシェの町ともそんなに離れていないので、果たしてこの村に宿屋があるか不安になる。
しばらく歩いて行くと、さっき別れた道と合流してしまった。
「なんだ結局ティアナたちと一緒になったな」
「そうですね」
などと話していると小さな漁港に着いた。
もう昼過ぎなので、船も人もいなかったが、早朝は魚を積んだ船で賑わっているに違いない。
漁港の近くには、小さな食堂と宿屋が一軒並んでたっていた。
「あっ、一樹がいたにゃ!」
さっそくポポの登場である。 遭うとは思っていたが、ちょっと早すぎないか!
「かずきぃー ちょっとお願いがあるにゃよ」
「なんだ、お金か?」
「にゃっ にゃんで分かったにゃ?」
「いや、他にはお願い事が浮かばねーよ。 ロルシェの町であんだけ遊んでたしな」
「仕方がにゃいのにゃ。 この村まで来るときに魔物に一匹も合わなかったのにゃ」
「ほぉ~ それでお金を貸して欲しいと・・」
「あと腹ペコにゃ。 せっかく魚が食べられると思ってたのににゃぁ」
「それで、他の二人は?」
「一樹を探しにロルシェの町まで戻って行ったにゃ。 一本道だし、途中で出会うかもしれにゃいって」
「俺たちはY字路を右に来たから出会わなかったのかもな」
「よし、ティアナたちを連れ戻しに行ってくれ。 ポポの俊足ならすぐに追いつくだろ!」
「わかったにゃ。 それじゃあ行ってくるにゃぁーーーー!」
・・・
・・
・
俺たちは宿屋の予約をしてから、もう少しパルマ村を探索することにした。
宿屋から歩いて5分もしないところに、砂浜が広がっていた。
『夏だし海に砂浜ときたら、アレをやらないわけにはいかないな』
「エバ、俺いいことを思いついた」
「一樹さま、いったいどのようなことを思いつかれたのです?」
「あいつらに、すんなりお金を貸すのも面白くないからね。 この砂浜で勝負するんだ」
「勝負ですか?」
「うん、あいつらが勝ったら、黙ってお金を貸してやってくれ。 でも負けた場合は、少し条件を付けて貸すから」
「わかりました」
こうして、パルマ村で俺たちのサマーイベントが行われることになったのだった。
第三十七話(ビーチバレー対決)に続く
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