第35話ロルシェにて


ロルシェにて



食事のあと、俺たちは宿に行き泊まる部屋を確保した。

男1部屋、女が4人で2部屋である。

この部屋割りに、エバがごねだすと思ったが、何事も起きなかった。


まだ寝るには早い時間なので、俺はエバのために結婚指輪を買おうと街の中心部に向かった。

結婚指輪が漢としての責任の証あかしだと思ったからだ。


街の中心には大きな噴水があり、主要な道にはレンガが敷かれ、写真で見たヨーロッパの町に似ている。

貴金属を扱っている店は、すぐに見つかったのだけれど、今さらお金を持っていなかったことに気づく。


『まぁ、せっかくここまで来たんだから、見るだけ見て行くか』


リングだけのシンプルなもの、きらきらと輝く宝石がついている指輪、どれも高額な値札がついていた。


『エバが棲んでいた洞窟は宝石だらけだったし、指輪はシンプルなものが良いだろうな』


「一樹さま、ここにいらしたのですか」


突然背後から声がして驚き振り向くと、そこにはエバが立っていた。


「ああ。 それよりエバはどうしてココに?」


「一樹さまの部屋に行ったら居られなかったので、探しておりました」


「そうだったのか。 ひと言声をかけてから、出かければよかったね」


「いいえ。  それよりどうしてこの店へ?」


俺は正直にエバとの結婚指輪を買いに来たことを話した。

するとエバが急に泣き出したので、大いに焦った。  なにせ目の前で女性に泣かれた経験がない。

その姿を見て俺がオロオロしていると、周りにいた人たちが俺を女を泣かせた悪者かのように軽蔑した目を向けて来る。


「いや、エバ泣かないでよ。  買いに来たって言ったけど、お金持ってないから今すぐは無理なんだ」


「いいえ、一樹さまのお気持ちだけで、我はとても嬉しいのです」


「うん。 俺も魔物をたくさん倒してお金を稼ぐから、そしたらまた買いに来ような」


「はい♪」


帰り道、エバはそっと手をつないできた。 その手は柔らかく暖かくそして優しい感じがした。



翌朝、ティアナが宿の庭で、謎の喜びの舞を踊っていた。

なんでも知らないうちに、例のパーセンテージが50を超えていたらしい。



・・・

・・



ロルシェの街は、坂が多い。

そして隣村に行く道も、クネクネとした上り坂が続いている。

何日かあとには、俺たちもその坂を上っていかなければならない。


隣村は、ポポが絶対に喜ぶ、海に面した漁村である。

そして、更にその先の町へ進むには船に乗らなければ行けないようだ。

船といって不安なのは、俺の乗り物酔い体質である。

人前で、あの きらきら だけは、絶対に見せたくない。

特にパーティーメンバーの女子たちには。


・・・

・・


ロルシェの町は、観光スポットも多かった。

いままで見たことがなかった美術館や劇場、動植物園や広い公園などもあって、規模の小さな文化都市といった感じだ。


お金に余裕ができた、三人は喜んであちこち遊び回っている。

そして、ティアナのスマホの数字は、本人が知らぬうちに、またどんどん下がっていった。


ロルシェは裕福な人々が各地から集まって来て、町を大きくしてきたらしく、珍しい地方料理も多かった。

三人はそれらを片っ端から食べてまわり、風呂に入った時にお互いのだらしない体を見て驚愕するのだった。


居心地の良い街で遊びつくし、お金が無くなってきた三人は、魔物を狩にあの長い坂を上り、ロルシェをあとにした。


「俺たちはどうしようか?」


三人が遊び回っている間、いちゃいちゃしていた俺とエバはどうするかを悩む。

お金はエバが腐るほど持っていた。

けれども俺は思い出した。  そう、結婚指輪を買わなければいけない。


こうして、俺とエバも次の村へと向かったのだった。



第三十六話(季節の移り変わり)に続く

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