第34話合流したパーティ
合流したパーティ
ロルシュの町に先に着いたのは、一樹とエバであった。
「一樹さま。 この町の人間は酷いやつらです。 気を付けてくださいませ」
エバは町に着くなり、俺にそう言ってきた。
「そうなの?」
「はい。 以前わたしたちの棲んでいる洞窟にいきなり火を放ってきたのです」
「エバたちが先に何か悪い事でもしたんじゃないのか?」
「何をおっしゃるのです一樹さま。 そのようなことは一度もしておりません」
「そうか。 それじゃあ町の人は、ただ竜が怖かっただけだと思うよ」
「怖いだけで火あぶりとは・・・ まあ、竜に火責めなど効くわけもありませんが」
「で、どうしたの?」
「もちろん、ドラゴンブレスで返り討ちにしました」
「うわぁ えげつな」
「でもでも、悪いのは人間ですよね、一樹さま」 エバは上目遣いで可愛らしさを強調しながら訴えてくる。
「う~ん。 まあそうなるね~」
といった具合でエバには、ロルシェは印象が悪い町なんだそうだ。
「とりあえず何か食べようか。 お腹がすいているだろう?」
「はい」
「そう言えば、竜ってどんなものを食べているの?」
「この姿のときは、人と同じものを食しております」
「そっか」 俺はあえて竜の姿の時に、何を食べているかは聞かなかいことにした。
幅の広い道を歩いて行くと、にぎわっている市場があり、更に進んで行くと食堂と宿屋があった。
しかし、そこで俺はお金を全く持っていないことに気づいた。
そう、露天風呂に入っていてエバに捕まった時、荷物はハイネの宿に置いてきてしまったからだ。
俺のその荷物は今、ティアナたちが持っているはずだけど。
「エバ、すまない。 俺、お金を持ってなかった」
「一樹さま、ご安心ください。 お金ならエバが持っております」
そう言ってエバは、俺に金貨を見せてくれた。
俺は、こっちの世界で初めて金貨を見た。
「すごいな。 でも金貨一枚の価値ってどのくらいなんだろう?」
「1000枚あれば’竜の涙’が買えます」
「’竜の涙’って1個でお城が10買えるってことは・・・
どひゃぁ・・ そんな価値があるなら、街中で金貨なんか使えないんじゃないか?」
「そうなのですか?」
「ああ、もし両替できなければ、金貨は使えないだろうね。 でも銀行なんてあるわけないし・・・」
「一樹さま。 それなら銀貨や銅貨もありますが」
「なんだ。 なら何とかなりそうだな。 じゃあ、飯を食いに行こう」
あとから分かったのだけれど、金貨も銀貨も銅貨も大きさがいろいろあって、それぞれの価値も違っていた。
・・・
・・
・
俺とエバは、2階建ての大きな食堂を見つけ、テーブル席についた。
食堂といっても夜は酒場になるようで、店の中は様々な匂いで溢れている。
久々にまともなものが食べられるとあって、じっくりメニューを眺めていると。
「おい、そこの兄ちゃん。 ずいぶんとカワイイ女を連れてるじゃねぇか」
『なんで俺はこうも絡まれ体質なんだよ』 俺が苦い顔のまま黙っていると。
「おい! 聞こえてるのに黙ってんじゃねえよ!」
男は俺の肩に手を駆けようと腕を伸ばして来るが。
ぎゃぁーー
「イテテ な、なにをしやがるんだ!」
エバがもの凄い殺気を放ち、男の腕を掴んでいた。
いや、掴むどころではなく、確実に腕をへし折っている。
「あ゛ーーーっ 頼む・・ 手を・・手を離してくれ!」
男はエバに懇願する。
「ふんっ 我の一樹さまに無礼な振る舞いをした事は万死に値する!」
「悪かった。 悪かった。 土下座して謝るから離してくれーーっ」
エバが虫けらを見るような目で男を一瞥し、ようやく手を離す。
「ちくしょーー 覚えてろっ!」
捨て台詞を残して男が店を出て行くが、エバはフッっと男の背に向けて小さな息を吐いた。
息はスーッっと男を追って飛んで行き、背中に当たるとパッっと火がつき燃え上がった。
がぁあーーっ
男は背中に火がついたまま、全速力で逃げて行った。
俺はその一部始終を見ていて、なんだか男が可哀想になった。
ってか、俺は絶対エバに尻に引かれて、逆らえないまま人生を終える気がする。
・・・
・・
・
騒ぎが治まり、注文していた料理がテーブルに運ばれてきた丁度その時、ティアナ、クーニャン、ポポの三人が入店してきた。
「あっ、 一樹があそこにいたにゃっ!」 目のいいポポが店に入るなり、俺を見つけてくる。
「アイヤー 無事あったか。 心配して損したアル」
「まあ、せっかく再開できたんだから、とにかく座りなよ」
大声で目立つ三人をとりあえずテーブルに招く。
みんなが席に座ったところで、俺は改めてパーティーに加わることになったエバを紹介した。
「この娘こが一樹くんの覗きの被害者のエバさんなのよね」
いきなりダメ女神のティアナが、俺を見ながらとんでもないことを言い始める。
『おいおい。 へたに怒らせると丸焼きにされちまうぞ』
「あぁ、その一件については、もう決着がついている」 エバが表情を変えずに答える。
「あらあら、一樹くん偉いわ。 ちゃんと謝罪できたのね」
「えっ? ああ・・ ま、まぁね」
『責任を取って夫婦になりましたなんて下手には言えない』
「ところでさ。 俺の荷物って持って来てくれた?」
俺は話しがこれ以上長くならないように話題をかえた。
「それが・・ 森で魔物と戦ったときに、どこかに置き忘れてきちゃったみたいで・・・ ごめんなさい」
「えーーーっ あの中に俺の財布とか入ってたのにぃ」
「申し訳ないから、ここの支払いはティアナお姉さんがするわね」
話しを聞くとどうやら、この店に来る前にジャッカロープの毛皮を売って財布にも余裕があるらしい。
あとから合流した三人も料理を注文し、歓談をしていたのだけれどティアナは浮かない顔をしている。
どうやら、スマホに表示される例の数値が良くなかったらしい。
第三十五話( ロルシェにて)に続く
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