第32話竜族の嫁


竜族の嫁


その竜族の娘の名は、エバという。

ハイネの温泉宿の露天風呂で、ゆっくりしようと思っていたら、先に入浴中の男に裸を見られてしまった。

この地の竜族の掟で、己の裸体を見られた男には、無条件で嫁がねばならなかった。


この一見無謀な掟にも理由があった。

それは、竜族の衰退にある。  つまり竜の個体数の減少(少子化)を少しでも改善するための掟なのである。

掟ができた当初は若い竜族の男が、入浴中の竜の女たちを覗いては、夫婦つがいとなり子も増えた。


しかし、そもそも竜の絶対数が少なかったため、ある程度は増えたが、再び減少していったのだった。


・・・

・・


エバは初交尾だった。 そして人間の男も童貞らしかった。

エバは最初はとまどっていたが、徐々に快楽にのまれていった。

その夜エバは何度も絶頂に達し、あげくは失神して長い時間意識が無かった。


どれくらいの時間が経ったであろうか。  既に隣に男の姿はなかった。

シーツの上の僅かな血のあとを見て、己が男の妻になったことを自覚する。


「して、旦那さまはいったいどこへ行ってしまわれたのだろう?」


急に心配になり、エバは竜の姿となって洞窟から飛び立った。



・・・

・・


同じころ、一樹はロルシェまで、あと一日の場所にいた。

クーニャンとの武術教練で体力もアップしていたので、ここまではほぼノンストップで来ている。


そして、童貞とサヨナラしてしまった。  しかも、すごくエッチだった。

その夜のことを思い出すと、ジュニアもまたムズムズする。


逃げ出すときに竜の洞窟から、食べられそうなものを少し頂いて来たので、それでも食べようかと思っていると。


黒い影がスッと地面を横切った。

超絶嫌な予感。 恐る恐る空を見上げれば案の定、薄ピンク色のドラゴンが一匹華麗に舞っていた。


「旦那さまーーーぁ!  わたくしを置いて行くなんて酷いではないですかぁーー!」


そう大声で俺を見ながら、ゆっくりと舞い降りて来る。


『せっかく逃げきれたと思ったのに、ドラゴンならあの距離でも、ひとっ飛びってことかよ・・・』


「旦那さま、契りを交わして夫婦になったのですから、このエバに何なりとお申し付けくださいませ」


「はぁ・・ それより君はエバって名前だったんだ」


「はい、我は偉大なる竜族の王カイザー3世の娘エバでございます」


「あ゛ーーー  その姿だと話しにくいので、昨夜の姿になれないかな・・」


するとエバは、ドラゴンの姿のままでクネクネと照れる。


「あっ・・いや・・その・・大きいままだと、見上げて話さなくちゃならないだろ」


「かしこまりました。  旦那さま」


そういうとエバは、昨夜のきれいなお姉さんの姿になった。


夕陽を浴びて立つエバのオッパイは、やはりデカイ。 夜の艶めかしさとは違った迫力のボインボインである。


しかし困った。  昨日契りを結んだばかりだし、さすがに今日離婚はないだろう。

もし、そんなことをしたら、一瞬で焼き殺される。


「でもねエバさん。 俺は修行中の身なので奥さんを連れて行くわけにはいかないよ。  だから修行を終えるまで・・」


「嫌デス!  わたくしは、どこまでも旦那さまについて行きます。 夫婦は片時も離れてはいけませぬものゆえ」  


「でもさ、俺以外のパーティーメンバーは全員女子なんだよなぁ・・ギクシャクしそうなのは目に見えるようでさぁ・・」


「もしも旦那さまが、夫婦めおとの肩書が修行の邪魔になるというのなら、同行中はパーティーの1メンバーの身分で結構です」


エバは必死で食い下がる。


「う~ん。 どうしよう・・・」


上目遣いで目をウルウルさせながら、懇願するエバを見て、俺は竜の一途な愛情を感じた。


「わかったよ。 俺たちと一緒に旅をしよう」


「ありがとうございます。 旦那さま♪」


「旅の間は、その旦那さまって言うのは禁止な!」


「そんなぁ・・・ それじゃあ何とお呼びすれば・・」


「みんなと同じで 一樹でいいよ」


「旦那さまを呼び捨てになどできませぬ。 せめて一樹さまとお呼びさせていただきます」


こうして、エバがパーティーに加わった。



第三十三話(腹ペコトリオ)に続く


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