第25話嘘はよくない

タイトルの’嘘はよくない’は、フ〇パンのネオ〇タのCMを脳内再生してみてください。



嘘はよくない


結局クーンニャンに、妹などはいなかった。

クーニャンが言うには、武道家の父に幼いころから鍛えられたのだそうだ。


そして先日、自分がつまずいたときに投げ出したコップの水を、一滴もこぼすことなく空中で見事にキャッチした俺たち3人のことを、ただ者ではないと感じ、自分も修行したいと思って後を追って来たのだという。


が、実は後日これもクーニャンの嘘だったということが発覚する。


俺たちは、クーニャンのいう事を信じて、武道の技を鍛えるのが目的ならばと、パーティーに迎えた。

なにしろ、クーニャンの強さは俺らにとっても頼もしい限りだし、なんなら技も教えてもらえる。



・・・

・・


ミュデンの町は、治安が悪そうに思えた。

なぜかと言うと人相が悪く、ガタイのいい男たちが道のあちこちにいるのだ。

中には剣や斧などを持ち歩いている者もいる。


俺は、すれ違うときなどは、絶対に肩がぶつからないように歩いた。

なのに、ポポはちょろちょろ歩きまわり、ついにやらかしてくれた。


ドンッ


「あっ、ごめんにゃ・・」


「あ゛っ?  おいこら!」


「す、すみませんにゃ」  ポポは自分がぶつかったので、ぺこぺこ頭をさげる。


「あーーー 痛ってぇなあーー こりゃあ骨が折れちまったかもしれねえぞ」


案の定、絡まれ始める。


ポポは十分強いので、俺も直ぐには助けに入らず様子を見ていた。


「姉ちゃん、ええ乳してんじゃん。  俺にちょっと付き合えよ」  男はスケベそうに笑う。


さて、しかたがない、そろそろ助けてやるか。 俺がポポに近づこうと歩き始めたその時。


「おまえ!  女の敵アル!  そんなヤツは、このクーニャンが許さないアルよ!」


いきなりクーニャンが飛び出して来て、男の顔面にみごとな膝蹴りを入れた。


がぁぁっ


さっきまで息巻いていた男は顔を両手で押さえ、その場にうずくまる。


『うわぁ・・・  魔物も倒す蹴りをまともにくらうなんて可哀想・・』 


なんだか自分も蹴られたような、痛々しい気持になる。


「さあ、ポポにゃん。 さっさと行くアルよ。  アタシが手をつないでいくアル」


「にゃっ。  あ、ありがとにゃあ」


「あらあら。  いつの間にか仲良しさんになったのね」


ティアナは、二人が手をつないで歩く姿を見て、女神のようにほほ笑む(女神だけど)。


クーニャンとポポにゃん・・・なんだか ややこしいんだがまあイイか。



・・・

・・


俺たちは町の中心の比較的 治安がよさそうな宿に泊まった。


ここミュデンの町の近くには、大きなダンジョン(二の塔)があり、そこを攻略するために冒険者たちが町を拠点にしているのだ。

だから、町中は冒険者たちが溢れかえっている。


後で分かったのだが、クーニャンが蹴り倒したのは、この町で一番大きな冒険者パーティーのリーダーだった。

ってことは、お決まりのお礼参りとかがあるかも知れない。


この世界では、お城の城下町以外は、治安を保つための警察のような組織は存在しない。

大雑把な治安というかエリア内の環境は、そのエリアの守護者がコントロールしている。

だから、さっきの荒くれ者なんかも度が過ぎた行為を行うと、守護者に密かに処分されてしまうのかも知れないのだ。


・・・

・・


宿の食堂で、遅い夕食を食べていると、なにやら外が騒がしい。

気になって宿の出入口から通りに出て様子を見れば、大勢の人がこちらに向かって叫びながら走ってきている。


そして、その奥には真っ黒で大きな塊がうごめいていた。


「なんだアレ?」  俺もそれを見た瞬間に全身に鳥肌が立った。


あとから覗きに出て来たポポは、髪の毛と尻尾の毛が逆立っている。

それほどに、おぞましい魔物だった。  手足は無くヌメヌメとした体が波打って進んでくる。

巨大なナメクジが高速で動いているといえばイメージできるかも知れない。


だがそれは、全身のいたるところに赤い目があり、背中から無数の触手のようなものが生えていた。

長い触手のようなものは次々に人間を捕らえると、何カ所かにある粉砕機のような口に放り込んだ。


あちこちで上がる悲鳴と断末魔。  辺りはまさに地獄絵図のようだった。 

魔物はすぐそこに迫ってきている。


「ポポ。 ティアナとクーニャンに知らせてくれ。  俺たちも逃げるぞ!」


「わかったにゃ」


ポポは急いで二人を呼びに戻った。


が、少し腰が抜け気味だったのか、よろよろと、あちこちにぶつかりながら走って行った。



・・・

・・


「まずいアル。  アレがまた出て来てしまったアルよ」


「クーニャン。 アレの正体を知っているのか?」


「アタシが100年前に苦労して封印した化け物アルよ」


「100年って・・ お前いったい何歳なんだ?」


『ぱっと見は17、8歳に見えるけど、もしかしたら婆なのか?』


「仕方がない・・・ あたしの正体は二の塔の守護者アルよ」


「ほげぇ なんだって!」


「やだ、知らなかったわ」  突然のカミングアウトにティアナも驚いている。


「にゃっ」 ポポも仲良くなったクーニャンが神(守護者)と知って目が丸くなっている。


「アレは手強いアル。  超やばいアルよ。  マジで逃げ出したいアル!」


クーニャンの膝が小刻みに震えている。

守護者がガチで怖がる魔物なんて、いったいどうすればいいんだろう。



第二十六話(絶体絶命)に続く


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