第24話格闘家クーニャン


格闘家クーニャン


ミュデンに向かう途中にある’魔の森’に分け入った俺たちは、早速その洗礼を受けた。

高ランクの魔物が出るわ出るわ、倒しても倒してもキリがない。


「こんなに魔物が出るなんて、妹さん心配だよな」  俺はふと気になって聞いた。


「はい? えーっと。 い、妹アルか?」


「だってまだ10歳なんだろう」


「そ、そう。  10歳アル」


この反応・・なんだか妹のことなんか、ちっとも心配じゃないみたいだ。


「あのにゃ。 こういう危険なところを旅する場合は、’竜の涙’を買って身を守るんにゃ」


近くにいて耳のいいポポが、話しに割り込んできた。


「それって、ものすごく高価なやつじゃん!」


「そうにゃよ。 でも効果はバツグンにゃ」


’竜の涙’とは、高魔力を閉じ込めた魔石の一種で、竜の内臓の中で結晶化したものだそうだ。

俺も聞いたことがあるだけで、実際には見たことはない。

真っ赤な魔石で、この石の半径20m以内には魔物が絶対に近寄らないという。


俺もぜひ入手したい一品なのだが、なにせ値段が高い。  この石1個で、お城が10は建つらしい。


お金がない庶民は、この魔石をレンタルすることがあるのだが、レンタル料も高額で1回分で家が立つ。

なので豪商や大規模キャラバンなどが主にレンタルする。


もしかしたら、クーニャンの妹さんと一緒にいる男は、この魔石をレンタルしたのかも知れない。


・・・

・・


魔の森の中で日が暮れ、やむを得ず野宿することになった。

ゲームだと焚き火を囲んで、パンとシチュウで食事なんて場面を見るけれど、実際はありえない。

なぜなら、魔物は火なんか恐れないし、焚き火は自分の居場所を魔物に教えるだけだから。

また、食べ物の匂いも同様に鼻の利く魔物を呼び寄せてしまう。


だから俺たちは、魔物の臭いがする毛皮で体を擦り、高い木の上によじ登って、木の枝に体を括りつけて眠った。

それに、朝までに食べたものと言えば、木の実をほんの少しだけだ。


こうして夜明けまで、ウトウトするだけで熟睡などは到底出来なかった。

しかも、木の下を見れば、あれだけ対策をしたにも拘らず、もう魔物が集まってきている。


「いやー これは朝からきついっスねー。  腹ペコで力もでねーわ」


正直だりーと思っていたら、クーニャンがいきなり木から飛び降りて、魔物たちとバトルをし始めた。


クーニャンの身長は、だいたい150cmくらいで、ちっさい。

そのクーニャンが、素手で魔物をバッタバッタと倒していくじゃないか。

その戦い方は、空手によく似ている。  人間、魔法や武器を使わなくても、結構いけるんだな。


しかしクーニャンひとりだけ戦わせるわけにいかない。

俺も地上に降りて、近くの魔物から倒すことにした。


ポポとティアナは、まだ眠っている。 あとで木を揺すって落としてやる!


バキッ ズゥン ドォーン  ゴォッ  メキッ


クーニャンが魔物に拳を入れる度に、いろいろな音がしてくる。

そして、倒した魔物が山のように積み上がっていった。


大量にいた魔物も、二人で30分ほどで一掃した。  といってもクーニャンが7割近くを倒したのだ。


「クーニャン、君っていったい何者なんだ?  剣も魔法も使わずに、あれほど強いなんて、普通じゃ考えられないぜ」


「アイヤー  ただの中華料理屋の店員アルよ。  ホントよ信じてアル」


「妹さんの名前は?」


「・・・えーーっと  レイ・・レイ?  そうレイレイっていうアル」


「ダウト! 妹がいるなんて嘘だろ!」


「・・・」


「妹のことを心配してるようにも見えないし。  名前もすぐに出てこないって、絶対におかしいだろう!」


「・・・」


「なぜ嘘をついて、俺たちに近づいた!  正直に話せ!」


グスッ グスッ ウェッ エーン


「ヤバッ  泣いた。  女が得意なウソ泣きだー」


「一樹くん。  わたしのクーニャンを泣かせたのね」  ティアナがいつの間にか俺の背後にいた。


「えっ?  なに?  わたしのクーニャンって?」


俺は予期せぬ展開にパニクる。


「おまえー、いままで寝てて、状況がよく分かっていないだろ!」


「あっ・・」


「やっぱりな。  その辺に倒れているのが、何だかわかりますか?」


「強い魔物かなぁ・・  テヘッ」


「まあいいだろう。 クーニャンが、この魔物のほとんどを素手で倒したんだよ!」


「え、うそっ!」 驚いたティアナの目がまるくなる。


「ほんとうだよ。  それでたぶん、妹が行方不明っていうのは嘘なんだよ」


「それは本当なの?  クーニャン答えて」  ティアナが急に不審そうな顔になる。


「ほん・とう・アル。  騙してゴメンなさいアル」


「でも、いったいどうして?」



第二十五話(嘘はよくない)に続く


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