第22話姑娘’クーニャン’


姑娘’クーニャン’



「お客さん、もうしわけなかったアル」


そう言って店員は、深々と頭をさげた。


「あなたこそ、足にケガとかしていないの?」  ティアナは心配そうに娘を見る。


「クーニャンのことまで心配してくださるなんて、なんて優しいお客さんアルか」 クーニャンはちょっと涙ぐむ。


「あなた、クーニャンて言うのね。 ほんとうに大丈夫?」


「ちょっと小指が痛いけど問題ないアルね」


『なるほど’姑娘’って’クーニャン’て読むのか。 いったい漢検何級の文字なんだろう・・・ そもそも載ってないかもな』


「そうだ、注文いいですか」


「はっ、そうだったアルよ」


「えーと 醤油らーめんと餃子、それと天津飯。  あとはタラと豆腐のあんかけをお願いします」


「かしこまりましたアル」


クーニャンは、ちょっと足を引きずりながら厨房へ戻って行った。



・・・

・・


料理は、どれも美味しかった。 ティアナは頼んだ餃子を俺とポポに、一つずつくれた。

なんてお優しい女神さまなのだろう。


高くも安くもない代金を支払って、俺たちはボロイ店を出た。

俺たちが遠くに消えると、クーニャンは店の入口に’廃業のお知らせ’の張り紙を貼った。


そして素早く服を着替えると、俺たちを追って店を後にしたのだった。



「もう少し町の様子を見てから、今日の宿を探しましょうか」   


「そうだな」


「ついでに、夕ご飯のお店も探すにゃ」


『こいつ、食べたばかりなのに、ずいぶん食いしん坊なんだな』  


そう言えば前に腹が膨れたとき、妊娠したとか揶揄われたっけ・・・  とちょっとムカつく。


それにポポの耳がさっきから、ピクピク動いているのも気になっている。


すると


「さっきから誰かに尾行されてるにゃよ」

とポポが急に後ろを振り返り確認した。


俺もつられて振り返った時、黒い影が路地にさっと隠れたのを見た。


「俺たち尾行されるような事なんかしてないよな?  んっ?  ポポお前なんかやらかしたか?」


「なんでなんにゃーー!  なんでポポの事を疑ったにゃーー  ゆるさないにゃあ!」


「悪い、冗談だよ。  まったく猫は冗談が通じなくて困るわ」


ぶっすぅーー 


ヤバッ これは、シャーッが出る1段階前じゃん。  ちょと揶揄い過ぎたかな。


・・・

・・


夕暮れ近くの時間になったので、今晩の宿を決めて各自の部屋に入った。

この宿はけっこう大きくてきれいだし、食堂もあった。  なので夕ご飯は、宿で食べることにしたのだ。


待ち合わせた時間に、食堂に集まり好きなものを、それぞれが頼んだ。


料理が出てくるまで、ぼぉーっと辺りを眺めていたら、さっきの中華料理屋の姑娘に似た女の子を見つけた。


俺はカワイイ女子の顔は、見間違いたりはしない。


「なあ、ティアナ。  アレってクーニャンじゃね?」


「えっ? どこどこ?」


「ほらっあそこ。 薄い水色のワンピース着ている・・」


「ほんとだ。 あの顔は間違いなくクーニャンって娘ね」


「ってことは、まさか俺たちを尾行してたのってクーニャンなのか?」


クーニャンは、俺たちが座っている席からは、見えにくい席で食事をしている。


「食事のあとで、とっ捕まえてなんで尾行してたか吐かせるか」


「だめよ。  後をついてきただけで、まだ何も危害を加えられたわけでもないし。 それに偶然こっちに用事があるだけかも知れないわ」


「そうか・・・ それじゃあ偶然を装って、バッタリ出会った風ってのは?」


「う~ん・・そうねぇ・・・ 普通に会話するならいいわ。 でも露骨に探りを入れたりすると不快に思われるから注意してね」


「オッケー」


俺は目の前の天津飯をササッと平らげ、食堂の出入口から少し離れたところで、待ち伏せを開始したのだった。




第二十三話(パーティーメンバー)に続く


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