第21話ビーネンの町


ビーネンの町



ビーネンの町には、一の塔を出発してから、6日目の午後に到着した。


予定より到着が遅れたのは事件の後始末と、猫たちが正規のペットショップで世話をしてもらえるように、途中で出会った行商人に依頼したりしていたためだ。


ポポは子猫たちに懐かれて、嬉しそうだった。  最後に猫たちが乗った馬車が動き始めると大号泣して、しばらく動かなかったくらいだ。


ここビーネンの町は、美味しそうな匂いにあふれていた。

パンの焼ける匂い、肉の焼ける匂い。  そして俺の大好きなラーメンの匂い。

ん? こっちの世界にもラーメンがあるんだな。  ラーメン好きの俺は、この事実に大歓喜である。


「ティアナはラーメンを食べたことはあるの?」


「もちろんよ。 わたしは醤油が一番好きね」


「そうなんだ。  ポポは食ったことあるか?」


「にゃいにゃい。  知ってはいるが猫舌をなめんにゃよ。  ラーメンは熱くて食べられにゃかったにゃ」


「そうか。  それじゃあ、昼飯はラーメンだな」


「にゃっ!?  いま熱いのは食べられにゃいっていったよにゃ!」


「なんだポポは、中華料理屋にあるのはラーメンだけだって思ってるのか?」


「うにゃ?」


「例えば、焼飯や油淋鶏とかエビチリ。 酢豚、麻婆豆腐、八宝菜、シューマイ、回鍋肉・・・ まだまだたくさんあるぞ」


「すごいにゃ」


「アツアツじゃなくても美味しい料理は、たくさんあるんだ」


「わかったにゃ。 それじゃあ、あたいも中華料理でいいにゃ」


「決まったな。  じゃあ、中華料理屋を探そうぜ」


ぶらぶらと町のメインストリートを歩いていると、早速大きな中華料理屋が見つかった。

立ち止まってメニューを見ていると、道の反対側から女の子の声がする。


「そこのお兄さんたち、こっちのお店の方が美味しいアルよー」


「ちょっと何? あの娘すっごくカワイイ♪」


「ティアナさん。 お店の良し悪しは、女の子がカワイイとかじゃなくて、味と値段ですよ」


「そんなのわかってるわ。  でも店員さんがイケメンや美人だと料理も美味しく感じるのよ」


「へぇ、そうですか」  イケメンじゃない俺に対しての皮肉かよ。


「ハイハーイ、今ならお値段も10%引きにするアルよー」


女の子は、招き猫のように、オイデオイデ ポーズをする。


「一樹くん。  せっかくだし、あそこでいいんじゃない」


「いやよく見ろよ。  あの店かなりボロイぜ。 だいじょうぶか?」


「わたしテレビで、’きたなシュ〇ン’の美味しいお店っていうの見たことあるのよ」


「あれ? ティアナっていま何歳だっけ?」


「・・・ そんなのどうでもいいじゃない。  女神は歳なんてとらないのよ」


『いや、一年経ったら一歳カウントしろよ』と頭の中で突っ込む。 でも言葉に出したら怖そうだし。


・・・

・・


結局、ティアナに逆らえず、俺たちはボロイ店に入った。


「いらっしゃいアル。 ご注文が決ったら、呼んでくださいアル♪」


「一樹、一樹。 やっぱり傍で見るとすっごくカワイイわ」


『ついに、かずき呼びしやがった』 と思ったが、よく考えると俺もティアナのこと呼び捨てだった。


「さて、何にしようかなっと」


ボロボロのメニューを見てみるが、調味料の染みで文字がよく見えない。


「アタイは、熱くにゃいなら何でもいいにゃ」


「そうか?  魚料理とかありそうだぜ」


「にゃっ、 じゃあポポはそれでいいにゃよ」


「わたしは、醤油らーめんと餃子がいいわ」


「決めるの早やっ!」


俺は注文の品を決めることが小さい頃から、なかなか出来ないタイプだ。


「う~ん。 どうしよっかなー」


「お客さん、決まったアルか?」


「ごめん、もうちょっと待って」


「わかったアル」


ちらっと見たら店員の胸には、’姑娘’’と書いてあった。  おそらく名前なんだろうな。


ふと、ティアナに視線を移すと、明らかに不機嫌そうな顔をしている。  これは、腹ペコのときのイライラ顔だ。


ティアナと旅をしてきた俺の観察力は半端じゃないのだ。

しかも、指でテーブルをトントンし始めている。  爆発までは近いしるしだ。


「店員さーん。 すみません注文いいですかー」


「はーい いまいくアルー」


厨房から呼ばれた店員が、水を入れたコップを持って走って来た。


げっ、嫌な予感が!


ゴッン


「アイヤーー!」 


言わぬこっちゃない!  イスの足につまずいて、3つのコップとお盆が俺たちの方へぶっ飛んできた。

しかし、俺たちの反射神経は、相当に鍛えられている。


スローモーションのように飛んでくるコップなど容易にキャッチできるのだ。


ティアナとポポは、それぞれのコップを見事にキャッチ。 もちろん水は一滴もこぼれていない。

そして俺に至っては、お盆の上にコップを乗せてキャッチした。


「お客さん、たいへんもうしわけなかったアル」


そう言って深々と頭をさげた店員は、俺たちには見えないように、ニヤリと笑っていた。



第二十ニ話(姑娘’クーニャン’)に続く


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