第19話誘拐された猫


誘拐された猫



三日目の朝、隣で寝ていたポポの姿が見えない。

食いしん坊のポポが、朝食の時間にいないはずがないのだが。


ティアナがポポから何か聞いているかも知れないので、確認するが分からなかった。

仕方がないので、ティアナと一緒に辺りを探してみる。

すると近くの草むらに馬車の車輪の跡があった。


その傍には、複数の足跡とポポの尻尾の毛が落ちているのが見つかった。

これはポポが何かの争いごとに巻き込まれた可能性が大きい。

早く探さないとポポが危ないかも知れない。

俺とティアナは、すぐに馬車の通った形跡(ぬかるみの轍あとなど)を見つけながら、後を追った。


・・・

・・


時は俺たちがポポが居なくなったのに気づいた数時間前にさかのぼる。

まだ夜が明ける前なので、辺りは真っ暗だった。

だが耳のよいポポは、遠くから聞こえる子猫の鳴き声をしっかりととらえていた。


「なんにゃ? あの鳴き声は。 これはただ事じゃにゃいにゃ!」


ポポはすぐに、鳴き声のする方へと走って行った。

こんな時、夜目の利く猫の目は便利である。

しかし、ポポが男らが子猫を捕まえて、馬車へ乗せようとしているのを見つけた、まさにその時。


ドガッ


後ろから思いっきり頭を殴られ、不意をつかれたポポはそのまま気絶してしまった。


「おい、変な猫も捕まえたぞ。 売れるか分からないがコレも連れて行こう」


そう言って男は、ポポの尻尾を持って馬車へ引きずって行った。

男たちは、貴族や裕福な庶民のペットとして猫が人気であることを知り、猫狩りをしていたのだった。


・・・

・・


男らは、森の中にあるアジトへ着くと捕まえてきた猫たちを、いったん檻の中へ移した。


「こっちの猫女は、鍵付きの首輪をして、柱につないでおけ。 もしかしたら変わった趣味のお貴族様に売れるかもしれん」


『うにゃ・・ 頭がズキズキするにゃ。  こいつら猫をにゃんだと思ってるんにゃ。 絶対にゆるさないにゃぁ』


柱につながれているとはいえ、ポポは魔力が’70’を超える冒険者だ。

それをまだ、この男たちは知らない。


だがポポは子猫や親猫たちが、たくさん檻に入れられているのを確認しているため、うかつに行動をとることはしないでいる。

そう、しばらくの間は気絶しているふりをすることに決めたのだ。


猫がペットとして人間の間で大人気であることを、ポポは知っている。

ただ、今回遭遇した男たちは、動物への敬意が微塵にも感じられないし、残忍な方法で猫狩りをしていたのだ。

しかも、捕まえたときに怪我をした猫は手当もせずに放置している。


特に子猫が何匹も捕まっているのを見て、ポポの怒りは頂点に達したのだった。

その怒りで歯を食いしばり、口からは血が流れだしている。


『もう少ししたら、みんな助けてあげるからにゃぁ。  ちょっとだけ我慢しててにゃ』


・・・

・・


一樹とティアナは馬車の後を辿って、既に森の中のアジト近くまで来ていた。

アジトに近いため、道には轍がくっきりと出来ている。


「ティアナ、あれが見えるか?」


「ええ、結構大きい建物ね」


「ポポは、きっとあの中にいる」


「わたしも、そう思ったわ」


「どうする? いっきに突入するか?」


「ダメよ。 ポポちゃんがどういう状況なのかよく見極めないと。  うかつに飛び込んだらポポちゃんの命が危ないわ」


「それじゃあ、あの窓から中の様子を探ってみようか」


「それがいいわね」


「よし、じゃあ俺が見て来るよ」


俺は辺りを警戒しながら、木や草叢に隠れながら徐々に建物へ近づいて行った。


バタンッ


窓までもう少しというところで、突然出入口の大きなドアが開いた。

ヤバッ!  大慌てで地面に伏せる。


外に出て来た男は、そのままタバコに火をつけて、ゆっくりと煙を吐いた。

仕方がない、このまま建物の中に戻るまで待つか。  そう思ったとき。


ゲコッ  ものすごく大きなヒキガエルが目の前に現れた。


うわぁーーーっ!  俺は爬虫類、特にカエルが苦手だった。

思わず悲鳴をあげたために、俺はタバコを吸っていた男に気づかれてしまった。


「ちぇっ、こうなったら仕方がない。 このまま突入だっ!」


「誰だ! そこで止まれ!  おい、みんな外に怪しいやつがいるぞ!」


男は中にいる仲間たち大声で呼んだ。


「なんだと!  そいつを捕まえろ!」


俺は、なだれ出て来た男たちに、たちまち取り囲まれてしまった。


『あれ?  ティアナのやつ、またいねぇじゃねえか。 なんなんだよアイツ!』


男たちは包囲したその距離をじわじわと縮めて来た。



第二十話(ティアナ活躍する)に続く

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