第18話金色(こんじき)の一の塔


金色の一の塔


ロケットの格納庫の扉かと思うほどでかい扉が、ゆっくりと開く。

開いたその先にある豪華な部屋は、まるでネットで見たベルサイユ宮殿のようだった。


そして俺たちが通されたのは、長いテーブルがある部屋だった。

そこには、見たこともないくらい美味しそうな料理の数々が並んでいた。


「さあ、料理を食べながら、ゆっくりくつろぐと良いじゃろう」


守護者はそう言うと目の前からスッと姿を消した。


「にゃあ これ全部食べてもいいのにゃ?」


ポポはまだ緊張しているのか、おとなしく座っているが涎がすごい。


なぜか、白くて大きな狼のセリフが頭をよぎるが、よく思い出せなかった。


「好きなだけ食べていいわよー」


ティアナがスマホをいじりながら、まるで自分の家にいるかのように言う。

まあ、あとで分かったのだけれど、あのティアナは’一の塔の守護者’よりも格が上らしい。


『やったわ。 15%に上がってる♪』


スマホを見てニヤニヤしている女神ティアナは行儀がよくない。

1時間ほども食べていただろうか、ポポは今テーブルに突っ伏して動かない。

そういう俺もこれ以上食べたら、辺りが悲惨な状態になりかねない。


「一樹くん、一の塔の卒業おめでとう」


妊婦のようなお腹をした、ティアナから唐突にお祝いの言葉を頂いた。


「うん。 ありがとう」


正直な話し、ここまで旅をしてきて怖い思いもしたけど、ゲームの主人公になれたようで楽しかった。


「でも、あと八つの塔があるんだよね」


「そうよ。 ここで15だから・・ 6つクリアすれば100超えになるわ」


「んっ?  なんの話し?」


「えっ、 やだ。  なんでもないわ」


「なんだか気になるなぁ・・  ちょっとそのスマホ見せてよ」


「ダメよ。  個人情報満載なんだから!」


「ちぇ、ケチだな。  そのスマホ俺が拾ってやったやつじゃんか」


「えーっと。  今日はここで泊まって、あした次の町へ出発するわよ」


「うん。 わかった」


なんだかうまく話を逸らされたみたいになったが、満腹で急に睡魔におそわれ、それ以上は突っ込まなかった。


・・・

・・


目が覚めると少し胃が痛かった。  やっぱり食べ過ぎたのが原因だろう。

昨晩寝た部屋は、豪華ホテルのスイートルームなんか比べ物にならないくらいすごかった。

なんで未成年なのにスイートルームを知ってるかっていうと、テレビの旅番組やバラエティ番組で見たからだ。


朝出発だったので、朝食を食べてからだと思っていたのに、着替えたらすぐだった。

お腹はそんなに減っていなかったから問題なし。  胃もまだすっきりしないし・・・


「おい、ポポ。 なんだそのだらしのない体は!」


「妊娠したかも知れないにゃー」 お腹をさすりながらポポがニヤっと笑う。


「なん・・ですと?」


「にゃっ、 冗談だにゃ」


「ちっ うぜー。  そうだティアナ。 次の目的地はどこなんだ?」


「ビーネンっていう綺麗な町よ」


「ビーネン。 エーネンってか」  俺の悪い癖がでてしまった。


一時期、学校でのあだ名が’おやじ’だったくらい反射的にオヤジギャグが出てしまう。  


「で、そのビーネンっていうところまでは、どのくらいかかるの?」


「そうねー う~ん。  4、5日っていうところかしら」


「けっこう遠いね」


「そうね。 二の塔の管理エリアに入るからね」


「そっか、二の塔は確か・・」


「技の塔って呼ばれているわよ」


「そうそう、それだった」


「剣の技とか柔術とか、いろいろね」


「極めれば勇者様みたいになれるってことかぁ。  アバ〇ストラッシュとか・・」


「一樹くんって、たまによくわからないこと言うわよね」


「俺は人間。 ティアナは女神だからな」


・・・

・・


一の塔を出てから2日が経った。

途中で魔物を数頭倒したが、レベルが上がるほどではなかった。


街道沿いでも魔物に遭遇するなら、人々はうかつに旅ができないだろうと思ったが、街道をゆく場合は護衛をつけるらしい。

商人以外の移動は多くないようなので、そんなに問題にならないのだろう。


エリア内の管理は、塔の守護者がしっかり行っているので悲惨な事件は少ない。


が、事件は3日目に起こってしまった。




第十九話(誘拐された猫)に続く




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