第13話4階層の化け物


4階層の化け物



4階層まで下りると迷宮内の様子がガラリと変わった。

一言で表すなら不気味な雰囲気といったところか。

いかにもダンジョンの中という感じだ。


ティアナに言われて、初級の光魔法である’ライト’を使って周囲を照らしてみる。

なんとか半径20mくらいの範囲で、物が視認できる程度は明るくなった。


4階層の入口から200mほど進んだところで、ポポの耳がピクピク動く。


「止まってにゃ。 この先に何かデカい魔物がいるにゃ」


それを聞いて。


「一樹くん、ファイアボールをこの先に真っ直ぐ打ってみて」  ティアナが杖で前方を指す。


そう言えばポポが、3階層より下なら何をしても、このダンジョンは壊れないって言ってたような・・・


「よしっ、ティアナが打てと言ったことだし、俺に責任はない!」


ファイアボーーーール!


ポポのファイアボールの三分の一くらいの威力か。 俺の放ったファイアボールは真正面の闇の中に吸い込まれて行った。


たぶん2秒ほどで、それは何かに当たり、一瞬パッと明るく光った。

ドンッ という音が少しだけ遅れて聞こえてくる。


グォーーーッ  続いて恐ろしい唸り声が、ダンジョン内に響きわたった。 


『これは、絶対にヤバイやつだ!』


ズシン ズシン ドォッ ドォッ ドォッ  ・・・


魔物がすごい勢いでこっちに向かって駆けてくる音が、みるみる迫ってくる。


「みんな、壁際まで避けて!」  ティアナの声と同時に俺は右、ポポは左に跳ね飛んだ。


それにつれて、ライトで照らして出している範囲もズレ、魔物の姿が僅かしか確認できなかったけど、たぶんアレはミノタウロスだ。


『こんなやつに勝てるのか?』  身の丈はおそらく10mくらいはあるだろう。


それは、勢い余って俺たちの前を通り過ぎるが、素早く反転するとそのままポポに襲い掛かった。


グゥウォーーッ


「にゃめるにゃ!」  ポポは猫の素早さで、ミノタウロスの背中側に回り込んだ。


すぐさま得意のファイアボールを、ソレの背中に一発お見舞いした。


ドォーーン


直撃を受けたミノタウロスの全身が炎に包まれる。


シュゥーーー


炎が消えるとミノタウロスは無傷のまま、ゆっくりと向きを変えた。


「そんにゃ・・ まったく効いていにゃいのか?」


俺もポポを援護すべく、覚えたての水魔法を使い、幾つもの氷の刃をミノタウロスへ向け放った。


シュッ サクッ サクッ


何本かがミノタウロスの体に刺さり、血飛沫が上がる。

しかし、ミノタウロスはそのことで余計に荒れ狂った。


ポポと俺はミノタウロスを挟み、常に正対するように回転しながら、波状攻撃をおこなった。


ティアナはしばらくの間、それを黙って見ていたが、俺の魔力が尽きかけているのを見て参戦してきた。

ミノタウロスは、すぐにティアナ目掛けて突進するが光の盾に弾き返され、仰向けに転がった。


「これでさいごにゃーーーっ!」


ポポが猫ジャンプで思いっきり飛び、高い位置から見たこともないような大火球を放った。

辺りが一瞬真っ白な光に包まれ、次に経験したことのないような衝撃波が走った。


ドォォォーーーン


気が付くと俺は、ティアナの光の盾に守られていた。


ポポが一発ぶっ放すと騒いでいたやつは、アレだったんだな。

ポポの必殺魔法ってところだろうか。


「しかし、すごい威力だな。 ポポ」


俺がその場で立ち尽くしていたポポの肩をポンポンっと軽く叩いたら、ポポはそのまま前のめりに倒れた。


これが魔力枯渇ってやつか。  相手が複数いた場合は、致命傷だな。

このことで、俺は改めてパーティーを組む大切さを実感したのだった。


「おーい。 ポポさん。  起きれるか?」


「ふにゃぁ・・・  むりにゃよ~」  ポポはうつ伏せのまま、ピクリとも動かない。


「仕方がない。  俺がおんぶしてやるよ」


「すまにゃいな」


「よいしょっ・・と」


ぷにょん


んっ?  もしかしたらこれは・・・  乳?

背中に当たる初めての感触にドキドキしながら、前を歩くティアナを見ると何かを手に持っている。


「あれっ?  ティアナってこんな所までスマホを持って来てるの?  流石にココは圏外じゃないのー」


ティアナが一瞬、ビクッとなるが。


「アハッ アハハ・・  これはね確認用ってか・・・  いえ塔の守護者との連絡用・・ そう、連絡用なのよ。 ホホホ」


なんだかティアナの様子がおかしかったが、背中のふにゅふにゅする感触の方に気を取られ、俺は5階層を目指したのだった。



第十四話(魔力の溜め方)に続く

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