　祭りは夜遅くまで開催される為、ミュンの父親がユランの侵入に気付くのは魔族襲来の後だろう。

　魔族が襲来すれば、武器が必要になるため金庫部屋のサブウェポンを取りに行くはずだ。

　ユランは魔族の襲来に備え、村の見回りを行っていた。

　ローブを羽織っている為サブウェポンもローブの下に隠れているが、念のため村人に遭遇しない様に隠れて行動していた。

　ローブの下のサブウェポンに気付かれたら面倒な事になるからだ。

　今の所、特に変わった所はない。

　広場の方向から、祭りの準備をする人たちの喧騒が聞こえた。

　「ん……？」

　祭りは、村の子供たちが最も楽しみにしている行事だ。

　大人たちが準備しているのを見学するのも祭りの楽しみの一つで、子供たちは皆んな広場に集まっている。

　そんな中、村外れの森の中に入っていく少女がいた。

　「あれは……リネア？」

　ガストンの取り巻きの少女、リネアだった。

　（そういえば、あの時グレン・リアーネに聞いた話では……そうか！）

　森に入っていくリネアの姿を見て、ユランはある男のある言葉を思い出していた。

　『村人の遺体は村の中に固まっていたけど……村外れの森の中に、一人の少女の遺体があったんだ』

　グレン・リアーネが、『ジーノ村襲撃事件』と記載された報告書に目を通しながら言った言葉だ。

　他にも、こんな事を言っていた。

　『調査の結果、遺体の状態からわかったことがある。どうやら、彼女が一番最初の犠牲者だった様だね』

　ユランは歯を噛んだ。

　（どうして、こんな大事な事を忘れていたんだ！）

　ユランは自分の不甲斐なさを悔いているが、これは仕方のない事だった。

　ユランがグレンから報告を受けた時は、彼が親しい人たちの死を受け入れられず、心を閉ざしている時期だったのだ。

　しかし、最悪の事態になる前に思い出すことができた。

　「リネアを追わないと！」

　ユランは村を離れ、リネアを追って森の中に入って行く。

　太陽は沈みかけ、夜の帷が降りようとしていた。

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