第11話 侵入

 魔族襲撃の当日、ユランは朝からある民家の前に立っていた。

 ユランが暮らす家よりも三倍は大きな家で、小さなお屋敷といった方がしっくりくる様な家だった。

 

 既に下調べしてあるため、家人が留守である事は把握済みだ。

 ユランは、一応、家人の留守を確かめようと玄関ドアを強めにノックする。

 

 「すみませーん! ユランです!」


 大きな声で呼びかけても、返事はない。

 やはり留守の様だった。


 家人が留守である事を確かめた後、ユランは玄関を開けようとするが、しっかり施錠されておりびくともしない。

 家の周りをぐるりと周り、窓や裏口も確認するが全て施錠された状態だった。


 「う〜ん……どうするかなぁ」


 最悪、鍵を破壊して中に入るしかないが、後の事を考えるとそれは得策ではない。

 発覚は少しでも遅い方がいい。


 ユランは正攻法で中に入る事を諦め、上を見上げる。

 家の正面部分、屋根に近い場所にある二階の窓が空いたままになっている。


 「やりますか……」


 ユランは腕まくりをすると、家に併設された納屋の上にあがり、そこを伝って家の屋根まであがった。

 空きっぱなしの窓の上まで来ると、身を翻して部屋の中に滑り込んだ。


 「あー……しまった」


 部屋の中を見渡し、ユランは失態を犯した事に気付く。

 部屋の中は綺麗に整理され整然としていたが、女の子らしい家具が並び、人形もたくさん並んでいる。

 机に置かれた額縁の中には肖像画が入っており、そこにはミュンとユランが並んで描かれていた。


 「そういえば、ここはミュンの部屋だった……」


 10歳とはいえ、ミュンも女の子だ。

 女の子の部屋に勝手に入ってしまった事に激しい罪悪感を覚え、ユランは慌てて部屋を出る。


 (目的のモノは一階の筈だ)


 家の中を歩く際、家人がいない事はわかっていたが、ユランは思わず忍足になってしまう。

 今日は夜から祭りが行われるため、ミュンと両親は村の広場で準備している。

 普通は大人たちだけで行われる祭りの準備だが、ミュンは主役である為に打ち合わせに呼ばれている様だった。


 ユランが一階へ降り、奥へと進んでいくと一際大きく頑丈そうな扉の前に到着する。

 その扉を押してみると、ギキィィと錆びた金属音を立てながら扉が開く。

 

 「無施錠か……思った通りだ」


 ミュンの父親、ジーノ村の村長はアバウトな性格で、出かける際に玄関の施錠などしないタイプだ。

 『こんな田舎の村に悪人なんかいない』と信じており、施錠などする必要がないと考えている。

 玄関や窓の施錠はいつもミュンの母親が行う。

 たが、金庫部屋はミュンの父親が管理している為、普段から施錠はされない。

 ユランはその事を知っていた。

 幼馴染の両親の事だ、大抵のことはわかっているつもりだった。


 ユランが金庫部屋の中に入るとそこには、新品の農具、銀貨などが無造作に置かれている。

 ユランはその中に、サブウェポンが幾つか置かれた棚を見つけた。

 これは、有事の際に村の大人たちが使う為のものだ。

 

 ユランはその中から最も短く軽そうなサブウェポンを手に取り、振ってみる。


 「重い……」


 真剣を扱う事を想定し、錘入りの木刀で素振りを行なってはいたが、やはり真剣となると重さが違った。

 何度か素振りをしてみるが、サブウェポンの重さに身体がふらついて上手く振れない。


 (隠剣を使えば何とかなるか……)


 ユランはそのサブウェポンを頂戴する事にした。

 

 サブウェポンを鞘に納め、左腰に携える。

 右腰には聖剣が携えられ、両腰の重さに何とも言えない懐かしさを感じる。


 「おっと、もう一つの目的も果たさないとな」


 ユランはそう呟くと金庫部屋の一番奥に目をやる。

 そこには祭壇が設けられており、祭壇の上には一本の腕輪があった。


 『これは村の宝なんだよ』

 

 いつか、ミュンの父親はユランたちにそんな話を聞かせてくれた事がある。


 「こんなものが宝か……」


 ユランは一瞬だけ『隠剣術』を使い身体を強化すると、右手でサブウェポンを引き抜く。

 そして、引き抜いた勢いのまま腕輪に向かって全力で振り下ろした。


 ズズン!


 破砕音を立て祭壇が破壊され、サブウェポンの刀身が床にめり込む。

 ユランは隠剣を解除したが、一瞬の使用だった為に身体への負担は少ない。

 それでも、身体全体が重くなった様に感じた。


 「ちっ、やっぱりダメか」


 サブウェポンを持ち上げると、そこには無傷の状態の腕輪が転がっていた。

 ユランは腕輪の破壊を諦め、拾い上げた後に丁寧に布に包んで懐に入れた。


 「とりあえず、回収だな」


 目的を達成したユランは金庫部屋の扉を閉め、二階の窓から脱出した。

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