第6話 ガストンという少年

 「おい、ヘタレのユラン」


 ユランが廊下を歩いていると、同級生のガストンがユランの前に立ち塞がった。

 取り巻きの二人も一緒だ。

 ガストンの取り巻きは、痩せぎすのノッポの男子がトリノ、オドオドしている女子はリネアという名前だ。


 「さっきの授業じゃあ調子に乗ってやがったな。ヘタレ野郎の癖によぉ」


 ニヤニヤした意地の悪い笑いを隠そうともせず、ガストンはユランに突っかかる。

 ユランはそんなガストンたちを見て、思わず吹き出してしまった。

 なんとも懐かしいやり取りだ。

 未来の記憶を得た影響で、たった今起こっている事が、遠い昔の事であるかのような錯覚を覚える。


 「笑ってんじゃねぇぞ。気味悪いヤツだな」


 ユランは、このガストンという少年が昔ほど嫌いではなかった。

 未来を知るユランは、彼が意地が悪いだけの少年ではない事を知っている。


 「次は剣術の授業だ。ボロカスにしてやるから覚えておけよ」


 そう言い残し、ガストンたちは去っていく。

 去り際に、オドオドした少女、リネアが振り返り、ペコリとユランに向かって頭を下げた。

 そういえば、リネアという少女はそう言う娘だったと思い出す。

 ガストンが怖くて言いなりになっているだけで、根は優しい子なのだろう。

 ユランが笑顔を作り、リネアに手を振ると、彼女は顔を赤くして去っていった。

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