第4話 勇者、転移一日目を終了する


 結局、夕方までには治療は終わった。人数も大したことなかったからな。

 今は宿泊場所で夕食までヨアヒム達と雑談してる。


「村最強がレベル十五だったわ。どう思う?この大陸って弱い魔物しか出現しないとかかな?」

「平民しかいないなら、レベルはそんなもんっしょ」

「レベルを知っているということは〈鑑定〉したのですね。カケル、それはマナー違反ですよ」

「いや、本人から言ってきたんだよ。自分が教えるからあんたのレベルも教えなさいって感じで」

 その前に〈鑑定〉はした。だから嘘は言ってない。だからセーフだ。


「それならいいのですが。でも最強がレベル十五は低すぎますね。持ってきた鹿の魔物も苦戦するんじゃないですか?」

「それはライネルさんも言ってた。村だと苦労して狩っているって」

「レベル十五ってことは転職したばっかってこともあるっしょ」

「言ってなかったか、この村には教会がないんだぜ」

「ここにはなくとも大きな町で転職して、帰ってきて早々に出会ったってこともあるっしょ」

「それだと転職前はレベル三十あったことになるだろ?それなら鹿に苦戦しないだろ」

 転職するとレベルは半分になる。覚えた魔法やスキルはそのままなので、強さとしてはそこまで落ちるわけではないけど。

「最強がレベル十五というのは、さすがに戦力不足だと思います。村にいる間に稽古をつけましょう」

 逃げてー、超逃げてー、と言いたいところだが、いや問題ないか? 強くなりたいって言ってたもんな!


「俺の〈鑑定〉だとレベル上限が見られないんだよ。誰が才能あるのかわかれば集中的に鍛えることができるんだけどな」

 この世界はレベル上限という『才能』と、レベル上げという『努力』で強くなる。この辺が平民と貴族で差が付くとこだ。貴族は生まれたときからレベル上限が三十超えてるとか珍しくないのに、平民は低い人だとレベル上限が五くらいだったりする。生活に苦労しない貴族は効率的にレベル上げができるのに、食べるためには仕事をしなきゃいけない平民はレベル上げの時間が取りづらい。転職するのにお金もかかるので、平民が低いレベル上限までサッサとレベル上げして色々と転職を重ねるってことも難しい。

 元の世界でも医者の子供は医者になるとかいう話はあったが、それと本質的には同じだ。教育環境が整っている家の子供の方が成長し易い。金持ちの子供はエリートコースが用意されているのだ。用意されてるコースに乗るかどうかは子供次第だけどな。


「こういう時に、マルコがいれば助かるのですがね」

 ゲルトが言うマルコっていうのは商人の仲間だ。最上級の〈鑑定〉が使える。他にもマジックバックに頼らない〈空間収納〉というスキルまで持ってる。おまけに危険度マシマシの世界で生きるために、商人以外にも転職してある程度の戦闘力まである。こうして知らない土地を放浪することになると一番頼りになる仲間かもしれん。いや、一番は俺か?万能の『勇者』だし。


「ヨアヒム、アイテムでそういうのはないのか?ほら、水晶玉に手を置くとステータスがわかるみたいな」

「なんで水晶玉が出てくるんだよ。〈鑑定〉は結構なレアスキルだから難しいっしょ」

「騎士団では三か月鍛錬してレベルが上がらなければ転職してもらうようにしてましたね」

 あの地獄の鍛錬で三か月かぁ。そりゃあレベルも上がるだろうなぁ。


「魔物が弱いかも?ってのどう思う?」

「魔素が薄いからなー。強いのが出にくい可能性はあるっしょ」

「私は周囲の森が『魔の森』と呼ばれている方が気になりますね。そう言われるくらいには住民の脅威になっているということですから」

 俺らからすると『魔の森』って言うからには最低でもレベル二十以上は必要?三十超えも生息するんじゃ?って思っちゃうけど、ここに来るまでの三日間ではレベル一桁で倒せる魔物、レベル二十もあれば楽勝という魔物にしか出会わなかった。ここらは平和だねー、と話しながら来たら門番さんから『魔の森』発言で、ちょっとビックリしたくらいだし。

「ここにしばらく滞在するのは変わらないけど、他の町も見て、この大陸の平均を知りたいな。夕食の時にライネルさんに聞いてみるか」

「いいっしょ。ってか、あの村長さん、カケルの言うことなら何でもききそうだし」

「言葉はわかりませんが、村長にしては随分と腰の低い方だと思いましたね。こちらの身分を明かしていないのなら、私たちは只の旅人でしょう。旅人相手には丁寧すぎますよ」

 そこは全員一致か。ライネルさんは聖人ではなかろうか。



 ♢


 日暮れが近くなったころにエマさんが呼びに来てくれて夕食になる。

「では、乾杯。村の特産品を使った料理をご用意いたしました」

 俺らの手元にはワインと水が置かれ、テーブル上には田舎の村にしては頑張ったであろう料理が、これでもかとばかりに並んでいる。 

「初対面の方もいるので自己紹介を。俺はカケル。こっちがヨアヒム。向こうがゲルトといいます。ヨアヒムは片言ですけど話が通じますが、ゲルトはまだ会話ができません」

「これは、ご丁寧に。こちらも紹介させていただきますね。改めて私が村長のライネルです。隣りが妻のギーゼラ。こちらが娘たちでエマ・レオナ・ハンナになります」

 奥さんのギーゼラさんは予想通りの金髪青眼のグラマラス美人さん。三姉妹で初対面のハンナは茶髪茶眼という所はライネルさんと同じながら、顔立ちは整っており可愛い系だ。妹系元気枠ってとこか。

 こうやって家族で揃うと、ライネルさんの地味さが目立つ。妻も娘も系統は違うけど顔面偏差値が高いからな。普通、娘っていうのは父親に似るって聞いたけど嘘みたいだ。


 ちなみに、レオナは俺を睨み付けている。設置した罠魔法に植物の蔓で拘束する、見た目がやらしくなっちゃうのがあったせいかもしれん。


「紹介ありがとうございます。ところで、ライネルさん。そちらのベビーベットは?」

 そう、この場にはなぜか赤ちゃんがいる。ギーゼラさんは美人だから、あれか、恥かきの子ってやつか。ライネルさんはお盛んなようだ。


「ああ、今は寝ていますが、エマの娘で私の孫になりますね。アイリです」

 なんと、天然巨乳おっとり美人のエマさんは子持ちだった。若く見えたけどなぁ。

「ああ、エマさんはご結婚されていたのですね。それはそれは村の若い男の多くは涙を流したでしょう」

「そーなの、エマ姉。メチャメチャにモテるから! 魔性の女ってやつだから!」

「あらあら、ハンナ。お客様の前では丁寧にね」

 元気いっぱいな三女を注意する長女。力関係がわかるな。言われたハンナはヒュッ!ってなってたし。

 しばらく料理をつまみながら、気になることを聞いてみた。聞いた結果が暗い雰囲気になるとわかっててもだ。

「それでエマさんを射止めた羨ましい男性はどちらに?一緒に暮らしてはいないのですか?」

 発言した結果、予想通りに一気にズーンとなった。誰が説明するかを悩んでいるようにも見える。


「お姉ちゃんの旦那さん、サイラスは死んだわ。半年前に。初めて出会った熊の魔物と相打ちになったの。で、でも!サイラスは弱くはなかったわよ!レベル二十二もあったんだから!」

 途中から早口、大声になりながらレオナが説明してくれた。

 レベルについては昔、武闘家の爺さんが教えてくれた。十までが一般人、十を超え二十までが経験者、三十までがプロで、三十超えれば将軍、四十以上は数えるほどだと。

 ラフィリア王国だと基準があり、レベル二十までは兵士で二十一になってから騎士試験を受けられる。そう考えるとサイラスって奴は騎士初心者くらいのレベルってわけだ。まあ、弱くはないけど強くはないな。


「そうだったんですね。すいません、知らなかったとはいえ暗い話題を出してしまいました」

「いえいえ、カケルさんが謝ることではありませんよ。あらかじめ説明しておくべきでした。申し訳ない」

「いいですよ~、カケルさん。夫のことは乗り越えました。アイリもいるのに弱くなってる暇はありませんから~」

 ホントに気を遣ってくれるな。それにしても、エマさんは天然巨乳おっとり系美人で未亡人だったのか。あとは泣きぼくろでもついていれば役満だな。

 その後はしばらく奥さん美人ですね、どうやってライネルさんみたいなフツメンが捕まえたんですか?とか、果樹をやっているみたいですけど養蜂はやらないんですか?とか、俺らの旅の一部を話したりして盛り上がった。やはり竜が少子化で悩んでいるという話題はテッパンだな!


 というわけで本題に入る。

「ライネルさん。この辺は『魔の森』って言われてるみたいですけど、そんなに強い魔物が出るんですか?」

「あ~、そうですね。最初に聞くとそう思われるかもしれませんが、魔物のレベルではなく、このあたりの木は魔素を吸収するんですよ。成長も早く切り開くのも困難です。それで『魔の森』と言われています」

 なるほど、この大陸の魔素が薄いんじゃなくて木のせいだったのか。


「この村にはしばらく滞在しようと思っていますが、他の都市も見てみたいんですよ。自力で旅立つしかありませんかね」

「それでしたら、来月、伯爵領の領都に交易の荷馬車を出しますよ。ご同行されてはいかがでしょう?」

「それは助かりますね。期間はどれくらいになるのでしょう?」

 俺が言うと、ライネルさんは昼間に見せてくれた周辺地図を広げ、説明してくれた。

「まず、第二開拓村を目指します。ここまでがちょうど一日です。その後に第一開拓村を経由するんですが、距離が中途半端で半日程度なので天候と道が良ければ立ち寄りません。魔の森を西に迂回した後北東に向かい、最後は北北西に進路を取って領都に到着です。片道で十日かからないくらいですね」

 周辺地図を見ると時計の文字盤を考えるとわかりやすい。六時の位置に第一開拓村。そこから北東や北北東に向かって残りの開拓村がある。終点の第六開拓村は二時の位置だ。第四開拓村は三時。『魔の森』を八時の方向に迂回して、そこから文字盤の中心部を目指す、そして領都は十一時の位置だ。

 八時の迂回する所は距離が長くなるが、大体は時計で表現できるな。


 『魔の森』を切り開いて直線で結べば、領都まで二日くらいで着きそうなんだが。

「こう真っすぐに道を作るということは考えないのですか?ちょっと迂回路が長すぎるように思えるのですが」

 俺は地図上で指を指しながら聞いてみた。

「バカじゃないの。『魔の森』なのよ。切り開くそばからニョキニョキ生えて、魔物にも襲われるのよ。道なんか作れるわけないでしょ。お坊ちゃんは理想ばっかでいいですねー」

 オメーには聞いてねーよ!雰囲気悪くする天才だな、コイツ。

「「レオナ!」」

「レオ姉。ちょっとカッコ悪いよ」

 家族からも総スカンである。

「はいはい、ごめんなさい。アイリが起きてるし一緒に寝室に移るわ。失礼しました」

 そう言ってレオナは去っていった。姪の面倒は見るんだな、個人主義の脳筋かと思ったが。


「カケルさん、すいません。直線路を結ぶというは開拓村の合同会議でも議題になったのですが、人手が足らないということで見送られた案件なんですよ。やるならば地道に少しづつではなく、一気に大人数を使う必要がありますから」

 ニョキニョキ生えれば、そうだろうなぁ。まあ、そこは俺が考えることじゃないか。


「明日からですけど、俺は周辺を探索して魔物退治と薬草採取を、ヨアヒムは回復薬を作って、ゲルトは村人に稽古をつけたいと言っています。言葉がわからないので、初日は俺が同行しますけどね。ここの村人で戦闘を専門にするのは何人くらいですか?」

「門番や狩人などが戦闘職ですが、レオナを含めて十人ほどですね」

 少なっ! いや、この村の規模からするとそんなもんなのか?

「では非番の人や狩人の人は集めてもらって構いませんか?」

「ええ、是非ともお願いします。サイラスが亡くなってから村の防衛力には不安を覚えていますので」

 村長としてはそうだよな。この世界ではレベル十が十人集まるより、レベル二十が一人いる方が頼りになる。数は力だ!とか、達人でも三人同時には相手できない!とかは元の世界でも言われていたが、こっちの世界だと質が量を凌駕するのだ。レベル差によって攻撃が通らなくなるからな。攻撃してもダメージが一とか二しか与えられない雑魚はいくらいても無駄だ。

「それでは今夜はこの辺で解散にしましょう。ご馳走様でした」

「大したおもてなしもできずに申し訳ない。明日も夕食はご一緒にどうですか?一日を村で過ごした感想なども聞きたいですし」

 コミュ力高いな、グイグイ来るし。

「ええ、では明日の夕食にも伺わせていただきますよ」


 こうして開拓村の最初の一日が終わった。


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