第3話 勇者、クレーマーに出会う


 宿泊場所でヨアヒム達と別れ、金髪ポニテの後ろを歩いて行く。周囲を見渡してみると、これぞ田舎!っていうくらいに田舎な光景が広がっていた。畑を耕してる人を観察すると、使っている農具は基本的に木でできており先だけ鉄で補強されている。

 ってことは高炉が無いのか、鉄が取れにくいのかだな。後者ならいいが前者だと文明としてはかなり遅れている。

 動物をつかっている様子は見えない。テイマー系の職業がいないの、少ないのか。

いや、職業がない前の世界でも牛に鍬つけてたよな。ってことは動物自体が貴重品な可能性があるな。

 魔法は使わないのか、使えな…使えないんだろうなぁ、魔法があれば馬鹿らしくなるくらい効率が上がるし。


 となると、やっぱり文明レベルはラフィリア王国より低いみたいだ。あっちは近世よりの中世だったが、こっちは古代よりの中世ってとこかな。


「ちょっと、キョロキョロしないでよ。落ち着きのないやつね」

 コイツの生意気っぷりは何なんだ。反抗期か。こっちは回復魔法を使って『あげる』側だぞ。もうちょっと敬ってもいいだろ。

 金髪、ポニテで強気な口調な女の子というと、前の世界ではアニメの中のツンデレ美少女くらいしかいなかった。

 こっちの世界に来てからは金髪・ポニテ・強気が揃っている女の子がいたが、職務に熱心で俺には常に敬語だった。こんなに生意気な話し方をされたことはない。

 そして現実で会ってみてわかる。現実ツンデレ、カワイクナイ。ムカつくだけだ。


「はいよ、前だけ見て歩くよ。一件目はどのくらい先なんだ?」

「もうちょっと向こう。ギリギリ見えるでしょ、あの右側の白い家よ。もしかして、もう疲れたの?情けないわねー」

 疲れたとか言ってねーだろ。コイツと夕食まで一緒かぁ。できるだけ話はしないようにしよう。ムカつくだけだ。そういやライネルさんが村一番の戦士とか言ってたような…鑑定してみるか。俺の低レベル鑑定だと、職業とレベルくらいしかわからんけど。〈鑑定〉っと。


 レオナ 十六歳 戦士 レベル十五


 コイツ十六だったのか、老けて見えるんだな。そんでレベルは十五って。これが村一番なの?弱くね?いくら田舎でも、さすがに村最強がレベル十五はないだろ。コイツが最強なら、他のやつはレベル十前後ってことじゃねーか。レベル三十くらいの魔物が出たら、あっさりと全滅するぞ。なんだ?『知られざる大陸』の魔物はレベル低いのか?見せてもらった回復薬も初級だったし。夕食の時にライネルさんに聞いてみるか。前を歩くやつとは会話したくないし。


「ねえ、アンタ村の外から来たんでしょ?どのくらい強いの?」

 会話したくないのに話しかけてこられた。少なくともテメーが百人集まっても勝てるくらい強いわ。勇者レベル六十五をなめんな。言わないけど。

「仲間の中では真ん中くらいの戦闘力だと思いますが、どれくらいというのは難しいですね」

 これは本当。勇者パーティは、勇者・魔道士・戦士・僧侶・盗賊の五人が基本メンバーだ。五人の中じゃ前衛の戦士と後衛の魔道士の火力が高すぎて、俺は三位だった。いいんだよ勇者は色々できるから!

 魔道士なんて道具を使ったとはいえ、独力で戦術級魔法を発動させてるからな。あの時は何というか、お前は出てくるゲームを間違ってるんじゃないかと思った。周りの皆も無双してるよ、無双してるけどそれは画面に映る範囲だからね。

 アクションゲームをしている横で、マップ兵器が飛んで行ったといえば伝わるだろうか。それくらいに衝撃度は強かった。


 あと、たまに追加で武闘家と賢者と魔物使いが入る。追加の武闘家と賢者はジジイのくせしてアホみたいに強い。実際、魔王と戦ったけどジジイ二人で倒せたのでは?と思うよ。聖剣が必要だったから勇者召喚したけど、しなくても倒せたんじゃねってな。ああ、後は町で待機することが多かったけど商人も仲間の一人だ。後方支援がなくちゃパーティーは上手くいかない。


「なによ、ハッキリしない奴ねー。レベルはいくつなのよレベルは?」

 イラっとすることしか言わんのかコイツは。台詞だけだと喧嘩を売る不良みたいなんだが。


「レオナさん、冒険者の間でレベルを尋ねるのはパーティを組んでいる仲間だけが許されることですよ。他の人にするのはマナー違反です」

 チラッと〈鑑定〉して、レベルを知っていますが、何か? バレなきゃいいんだよ。


「アタシはレベル十五よ! ほら、アタシが言ったんだからあんたも言いなさいよ!」

 小学生か。

「それより高いことは確かですね。回復魔法を上級まで使えますから、さすがにレベル十五ということはありえませんよ」

 上級回復魔法は、それを得意とする僧侶のような職業でもレベル三十五くらいは必要だ。勇者の俺はレベル四十二の時に使えるようになった。

「上級!? アンタが!? アタシと大して年は離れてないのに!?」

 さすがに上級を使えることには驚いてくれたらしい。こっちを振り返って大声をあげてる。


「どうやったのよ!? 実は見た目通りの年じゃないとか? 父さんが前にエルフって人は、ずっと若いままだって言ってた。アンタってソレなの!?」

 そう思うなら敬語使えよ。それにエルフは若いままじゃないぞ。人間とは老化の仕方が違うだけだ。あいつらは耳を見れば、大体の年齢がわかるようになってる。世界樹の里で確認したんだ。教えないけど。

「エルフではありませんよ。耳が尖っていないでしょう」

 そんなもん幻術でなんとでもなるんだけどな。コイツにはわからんだろうし。


「じゃあ、どうやって上級を覚えるまでレベルを上げられたのよ!?」

 うるせーな、案内しろよ。足が止まってんじゃねーか。

「栄養ある食事と適度な運動、それと色んな環境を経験することですかね」

 嘘は言ってない。王宮と仲間の商人が集めてくれたステータスブーストがかかる食材を使った料理(味はお察しください)と、王国最強と帝国の伝説を相手にする強制的な模擬戦(回復の手段は複数ご用意ください)と、竜の里から精霊の祠に魔王城まで様々な場所に行くこと(道中は高レベルの魔物が出ますので、自己責任でお願いします)を経験すればこれくらいにはなる。仲間の中で最も転職回数が多いヨアヒムでさえ、レベルは四十後半くらいあったはずだ。逆に転職が少ないマリーと、勇者のまま一回も転職していない俺はレベル六十を超えている。


「何よそれ!? 当たり前の事でしょ!? そんなんだけでレベル高くなるわけないじゃない!!」

 なるんだよ。お前が知らないだけだ。そっちの常識を押し付けるな。

 コイツと話しているのは時間の無駄だ。サッサと頼み事を終わらせるしよう。


「あの家でしたね。先に行ってますよ」

 案内役がクレーマーに変身したので、独りで向かうことにした。次の家は患者に聞けばいいだろ。


「あっ、ちょっと。待ちなさいよ! レベルをどうやって上げたのか教えていきなさいよ!」

 知るか、ボケ。俺はお前の師匠じゃねーんだよ。ホイホイ教えてもらえると思ってんじゃねーよ。

 村最強で傲慢というか強気な態度になるのは解るが、さっきの会話で俺の事は自分よりレベルが高いと分かっただろう。それでも偉そうな態度なのは何でだ? ツンデレってのはこういうものなのか?


 もう早く仕事をして戻ろう。コイツといるとストレスが凄い。

 身体強化とスピードの強化魔法をかけて、歩いているのに走っている人より速い!という状態で患者の家に向かう。


「何なのよ! ちょっと!! 待てってば! 待ちなさい!! …なんか身体が重いような」

 クレーマーには弱体魔法をかけてあげた。新鮮な体験だろう。喜んでいるようだ。家に入る前に足止め用の罠魔法も複数設置する。新たな体験を提供しすぎか?自分の親切心が怖いな。

「こんにちは~。ライネルさんに言われて回復魔法をかけに来ました~」

 帰りは勇者のお得スキル『地図作成』があるから迷うことはない。夕食までに終わらせてやんよ!


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