第1話 皿うどんが来た

昼下がりの駐在所。特に事件もなく、平和な時間が流れていた。駐在さんは日課のように、近所のラーメン屋からタンメンを出前で頼んだ。あの店のタンメンは絶品で、スープの塩加減やたっぷりの野菜が、毎回彼の胃袋を満たしてくれる。


出前が届くのを待ちながら、駐在さんはパトロールの報告書を片手に、デスクに座っていた。今日は忙しくない。久しぶりにゆっくりランチが楽しめそうだ。


ドアがノックされた。「お待たせしましたー」と出前の声が聞こえる。駐在さんは喜び勇んでドアを開けた。しかし、彼の目の前にいたのは、なんだか無表情で、どこか頼りなさそうな若い店員だった。見たことのない顔だ。


「ありがとうございます。」店員はぼそりと言い、紙袋を渡してきた。中を確認すると、湯気を立てる一杯の麺料理。だが、何かが違う。


「…ん?これ、タンメンじゃないじゃないか。皿うどんだよ?」


駐在さんは困惑しながら袋を置き、皿をじっと見つめた。油で揚げられた麺の上に、あんかけがたっぷりとかかっている。それはどう見ても、彼が頼んだタンメンではなく、皿うどんだった。


「ごめんね、僕、タンメンを頼んだんだけど。」


駐在さんは苦笑しながら言ったが、店員はぼんやりとした表情のまま動かない。何度か「タンメンだよ、タンメン」と繰り返してみたが、店員は首をかしげるだけだ。


「タンメンです。」そう呟いた後、店員は無表情のまま一礼し、さっさと出て行ってしまった。


「おいおい、待ってくれよ!」駐在さんは急いで後を追おうとしたが、店員はすでに姿を消していた。なんだか不可解な感じがした。


仕方なく、駐在さんは携帯を取り出して、店に電話をかけることにした。だが、何度かけても、電話は繋がらない。「現在、電話は使われておりません」という冷たいアナウンスが流れるだけだ。


「おかしいな…」駐在さんは眉をひそめた。常連の店なのに、電話が繋がらないなんてことは今まで一度もなかった。まさか、店自体が閉店してしまったのだろうか?


皿うどんを目の前にして、駐在さんはため息をついた。とりあえず、冷めないうちに食べるか。少し腹が立ちながらも、フォークを手に取って一口目を口に運んだ。


その瞬間、何かが胸の奥で引っかかった。普段食べ慣れた味とは全く違う、奇妙な感覚だった。味は悪くない。むしろ美味しい。それでも、どこか違和感が拭えない。


「なんだ…この感覚は?」


駐在さんは皿うどんをじっと見つめた。これがタンメンの代わりだというのか?いや、それとも…?


不安がじわじわと広がり始める中、彼は次の行動に出る決心をした。直接、店に足を運んで真相を確かめるしかない。


そして、彼がその店で目にすることになる光景は、予想を遥かに超えるものだった──。


【第2話に続く】

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